第5話 妖を断つ炎の刃
本当にいつもトラブル続きだ。物事が順調に進んでると思っていたらこれだ。
今、俺の目の前には
はっきりした自我はなく怨念や破壊衝動で動くタイプだろう。そういうヤツほど、こうやって派手に暴れまわる事が多い。
『当列車はトラブルにつき次の駅で停車致します。お客様は――』
車両にアナウンスが流れる。まずいな、駅に停車したら目立って仕方がない。退魔師の仕事は隠密重視だ。とっとと片付けないといけないな。
俺は胸元から一枚の護符を取り出した。
それはさっき使用した物とは種類が違う。この護符には退魔師の武器である〝
俺は指に挟んだ護符に
「――来い! 式武、〝
護符から炎が放たれ、その中から鞘に収まった一振りの刀が姿を現した。
炎の魂式を使う俺に合わせて炎の術式が刀身に刻まれている。
俺は緋の兼光を左腰に差すと、鍔を左手の親指で押し出し刀の
鎺は鞘に収めた刀身が抜け落ちないように固定する部分だ。
今俺が行った鎺を露出させ、すぐに刀が抜ける状態にすることを「
――鯉口を切り、刀を鞘から抜く準備が整った。
右手で刀の柄を握り抜刀する。身体の中心で刀を構え、剣先を敵の喉元に向ける〝正眼の構え〟を取った。
柄を握る右手は、親指と人差し指は軽く添えて中指は程々の力で、薬指と小指に力を入れて握りしめる。
食事の時に箸を持っている時よりも、こうして刀を握っている時が一番落ち着く。完全に職業病だな、これは。
「グオォォォォォォォォ!!」
刀を装備した俺を見て一瞬怯んだ妖だが、いきなり大声を出し始めた。
俺を威嚇しているのか自分を鼓舞しているのか分からないが、正直言ってただただうるさいだけだ。
妖は無駄に叫びながら再び俺に向かって長い腕を鞭のように振ってくる。
俺はその腕を刀で斬り飛ばした。本体から切断された腕は、地面に落ちると間もなく灰のように崩れ去って消滅した。
「ギィィヤァァァァァァァッァァァァ!!」
腕を斬り落とされた痛みで妖は絶叫し、侵入時に使用した窓に向かって猛スピードで移動する。
だが、窓に触れようとした瞬間に水色の光に弾かれて車両内に吹き飛ばされた。妖は何が起きたのか分からない様子で窓を眺めている。
「逃げようとしても無駄だ。さっき俺が車両内に貼った護符は結界を展開して敵を内部に閉じ込めるためのものだからな。俺と対峙した瞬間にお前はもう終わっていたんだよ」
ヤツに眼球は存在しないが表情を見るからにものすごく怒っているようだ。俺ににじり寄りながら攻撃のタイミングを見計らっている。
もう間もなく新幹線は駅に到着するだろう。次の一太刀で方を付けなければならない。それなら、あの技で決めるか。
「燃えろ、緋の兼光!」
俺は魂式を練り上げ刀に集中させていき、刀身が炎を纏った。
それを目の当たりにした妖は先手必勝とばかりに俺に向かって突撃を敢行する。向こうから近づいて来るのはありがたい。
こっちから接近する手間が省けるからな。
刀身の炎の出力をヤツを倒せる具合に調節する。
同時に、俺は足底部に集中させた魂式を爆発的に開放する高速移動術〝
俺が一瞬で目の前に現れた事で敵は驚愕の表情を見せている。
「これで終わりだ!
緋の兼光で妖を斬った瞬間に炎を敵の体内に流し込み内側から焼き尽くす。それが俺の使う剣術である六波羅炎刀流参の型〝焔〟だ。
炎の刃で斬られた妖は身体の内外から広がっていく炎によって瞬く間に燃え尽き灰になって消滅した。
「討滅完了!」
車両内も少しは焦げたが炎は燃え広がらなかった。狙い通りだ。
俺は緋の兼光の刀身を〝清めの護符〟で拭うと刀を鞘に収め戦いは終了した。
本当に妖は神出鬼没だ。こっちが新幹線の旅を楽しんでいたらこれだよ。おまけに新幹線は目的地に到着する前に止まってしまう。
ここからは在来線に乗り換えて目的地を目指す必要があるな。
窓から外の様子を見ると既に駅に入り停車する寸前だった。急いで結界を解いて護符を回収する。
それに破魔装束や刀を護符に封印しないと目立って仕方がないのだが、そこで俺はある事に気が付いた。
「いけねっ! 荷物を座席に置きっぱなしだった! 俺の財布やスマホが! どうしよっ!?」
新幹線が停車してしまえば、駅員が乗り込んできたりで人の出入りが激しくなるだろう。
そうなる前に荷物を回収しに行かなければならない。俺は荷物に意識が集中し、そのままの恰好で元の座席目指して急ぐのだった。
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