暗中下車
タムラ ユウイチロウ
“暗中下車”
この夜は、感性すらも寝込んでしまっていて
布団に包まるふくよかな肉付きに
気を使って付いたり消えたりするエアコンだけが
助けてくれているような気がするや
昨日の朝、残ったヨーグルトを全て食べ終え
それから何も食べていない
しゃぶっていたプラスチックのスプーンも溶け始め
いよいよだと目をつぶったことを覚えている
月は隠れていることを知らせるように
ぼんやりと列車を隠し
辛うじて
ケツの欄干に縋り付いている
やだなァ母さん
今更になって、肉親の情
ひとつだけ持ってってくださいと
くそやろうめ
好きを持たないことが
こんなにも不便だとは
切符の代わりになろうとは
なんにも見つからない
好きなこと、好きなもの、好きなひと
それだけで
それだけが
一番大事なことだったらしい
あいかわらず
なにも好きとは言えず
だまってぼうっとしてた
幼さと変わらず
今、命の列車は私を放して
カーブを曲がる
叩きつけられるその前に
笑い泣き、怒り惑う人の影が
好き好きに見える
あぁ
死なねば解らんかった
これこそが
好きなことだったと
叫ぶまもなく
べチャリと弛み
列車はもう遠く
暗中下車 タムラ ユウイチロウ @you_monodiary
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