妖精をいじめるのはよーせー

魔女っ子★ゆきちゃん

前編 妖精の呪い

 秋の深まりかけた10月の初め。僕たち5人は、学校の裏手にある絢樫山あやかしやまに来ていた。

 事の発端ほったんは、今日のお昼休みにクラスメイトが、『学校の裏山で妖精を見た』と言うのを、かけるが聞いたからだった。

 令和の時代にもなって、そんな子どもだましな話を信じるなんて、と笑われるかもしれない。

 でも絢樫山は昔から、『口裂け女が出る』だの『蝋燭三本ろうそくさんぼん(妖怪の名前らしい)が現れた』だの、『人の顔をした花が咲き、それを見た者は三日以内に死ぬ』といった妖怪や怪異話の尽きない山であった。

 事の真相を確かめるべく、放課後にいつもの5人でやって来たという訳。

 僕たち5人は、来年中学校に上がる小学6年生。かけるつとむ星矢せいやの男子3人プラス綺羅凛きらりと僕まことの5人でいつものメンバーとなる。

 僕たちは、室内でゲームにきょうじる事もあるけれど、基本的にはアウトドア派で外で遊ぶ事が多い。

 当然、この絢樫山にも、低学年の頃から何度となく登っており、オニヤンマを捕まえたり、ナナフシを発見したりしていた。

 ただ、怪異現象にはまだ、遭遇そうぐうした事が無く、小学校を卒業する前には、クリアしておきたい課題の一つでもあった。


 干からびたでっかいミミズを避けつつ、山頂を目指す。

 と、ここで、つとむが、

「妖精が人目に付く道の上をふらふら飛ぶなんて事があるだろうか? いや、ないに決まっている! 人目に付かない森の中の方が見つかる可能性が高いと思うんだが?」

と言い、みんなの賛同を集めた。

 森の中へと入っていく。

「私、スカートなんだけれど?」

 と綺羅凛きらりが文句を言うも、

「俺達だって半ズボンだぜ! 綺羅凛が一番肌が隠れてるじゃん!」

かける

 僕は、綺羅凛のスカートから下を見て、ドキリとした。綺羅凛は最近、少しずつ子どもから大人への変貌を見せていて、目のやり場に困る事がある。

 みんなには内緒だが、ぼくは綺羅凛に恋をしていた。どちらかといえば、外で遊ぶよりも、家でゲームをしていたい僕が、このメンバーで遊ぶのは、実は綺羅凛と一緒にいたいからであった。

 小学校卒業までに綺羅凛に告白して恋人として付き合いたい。ひそかにそんな想いを抱いていた。

 この夏も川に泳ぎに行ったときに、綺羅凛の水着姿にドキドキしつつも、ちらちらと盗み見をして……。

「おい! 見ろよ、あれ!」

「うわっ、マジかよ?」

「絵に描いたような妖精ねー? フラワーフェアリーって言うんでしょ?」

 口々に発言するみんなの視線の先には、大きなクモの巣に引っ掛かった妖精がいた。

 巣のぬしのクモ――コガネグモだろうか?――も大きいが、妖精は20cm近くもあって、流石にエサにするには大き過ぎるようで、迷惑しているようだった。

 蝶のような羽根を持つ妖精は、人間の女性を小さくしたような姿で、愛らしかった。

 翔が妖精を捕まえようと手を伸ばすと、聞いた事のない言葉で騒いで、じたばたと暴れて抵抗し、クモの巣が少し破れはしたものの、糸が妖精の身体に絡みつき、よけいに身動きが取れなくなってしまった。

「おい、暴れるな! このまま弱って動きが鈍くなったら、クモのエサにされちまうぞ!」

「……。……ゥルさいっ! 人間に見つかったら酷い目に遭わされる。人間なんか信用するものか!」

「凄ぇ! 人間の言葉をしゃべった! この妖精こいつ、人間の言葉を喋ったぞ!」

「違う! 魔法で、言語による意思の疎通そつうを可能にしただけだ!」

「本物の妖精を捕まえたなんて事になったら、テレビ局が取材に来るかも?」

「そしたら俺達有名人かぁ?」

「いいな、それ♪」

 翔が手摑てづかみで妖精を捕まえ、クモの糸を少しずつ、取り除いていく。

 と、その時!

いてっ! こいつ噛みやがった! 命の恩人に対して………。くそっ!」

 翔が叫んで、地面に妖精を叩きつけた。

 ああっ、なんという事。

 ぐったりとする妖精。まさか死んだ?

「翔君! 乱暴に扱っちゃダメだよ! 貴重な妖精なんだから」

わりぃ! 噛みつかれて、ついカッとなっちまった。見ろよ、ここ。血が出てる……」

 翔の言う事もわからないではないけれど、やっぱり妖精を地面に叩きつけたのは、乱暴に過ぎる。もし、このまま妖精が死んでしまったら……★

 と、急に妖精が飛び上がり、頭上で滞空たいくうした。翔が手を伸ばし、ジャンプしても届かない高さだ。

「やられたらやり返す、倍返しだ! オマ・エラミーン・ナチイサ・クナーレ!」

 妖精が何やら呪文を詠唱えいしょうした。が、何事も起こらない。

「24時間だ。24時間で魔法は切れる。それまで必死で生き抜いてみよ! ジャーナ」

 そう言い置いて、妖精は飛び去ってしまった。

 僕も含めた4人は口々に、翔に文句を言ったが、こうしていても妖精が戻ってくる訳ではない。間もなく日も暮れる。

 僕達は、来た方向へと戻り始めた。

 しかし、何かがおかしい。森に入ってそれほど距離を歩いたつもりはなかったのに、やけに遠く感じる。

 それに、周りの景色も妙に不自然だ。

 その不自然さの正体に気付いたその時!

 星矢の身体が宙に跳ね上がった。

 一瞬だった。何が起こったのか、わからなかった。

 見上げると、巨大な草から宙吊りになったオオカマキリに捕らえられ、首を噛まれた星矢の姿があった。

 カマキリは獲物を捕らえると、最初に首に食い付き息の根を止める。その後で、ゆっくりと捕食をするのだ。

 星矢は死んだ。きっと即死だっただろう。何があったのか、本人すら自覚してないに違いない。

 頭から食べられる星矢。見るに耐えられない!

 既にその時には、僕達は4人とも、自らの身体に起きた変化に気付いていただろう。

 そう、僕達の身体は小さくなっていた。オオカマキリのエサになる程度に。

 あの妖精は言っていた。24時間で魔法が切れると。

 昆虫サイズに小さくなった状態で森の中。生き延びられる筈がない。

 妖精の言葉は死刑の宣告と同じ、絶望的なものだった。


 続く。


 数日前まで、エロースコメディ書いてたのと、同一人物とは思えませんね〜。

 こんにちは&初めまして。魔女っ子★ゆきです。きゃる〜ん♡

 本作、ホラーって捉える人もいるかもしれませんが、私の中では違います。

 妖精の魔法→ファンタジー

 オオカマキリに食べられる(小さくなった)星矢君→自然の摂理

 ほらー、ホラーの要素ないじゃん!


 なんかね、聞くところによると、同じ大きさだとライオンやトラよりもネコの方が強いんだって。なんかわかるー。

 昆虫サイズの世界はシビアだもん。

 ファンタジーロールプレイングゲーム(例えば『ドラゴンクエスト』)の世界だと、こんな感じ?


オオカマキリがあらわれた

→じゅもん→メラメラ

ゆきはメラメラをとなえた

オオカマキリに13のダメージ

オオカマキリのこうげき

ゆきに8のダメージ

ゆきはメラメラをとなえた

オオカマキリに11のダメージ

オオカマキリをやっつけた


 でも自然界だと、オオカマキリは相手が気付いてない状態からコンマ数秒で相手を捕らえて、首を噛んで即死させ、それからゆっくりと捕食するのです。

 勝負は一瞬。ゲームみたいに、まずはわたしのターン、次はあなたのターン、なんて交互に攻撃なんてしないし、最初の一撃が『つうこんのいちげき』だからね。

 そういう自然界のシビアさを描いてみたかったの。

 オオカマキリはオオスズメバチも捕食しますからね。一方で、オオスズメバチもオオカマキリを見つけたら、肉だんごにして巣にお持ち帰りです(オオスズメバチの成虫はカマキリなんか食べません。いや、ひょっとしたらつまみ食いしてる子もいるかもしれないけれど。基本、肉だんごは幼虫のエサになります)。

 さて、後編では、主人公の僕こと真君と綺羅凛ちゃんの恋の逃避行(?)を描きたいな、と思いつつ、一人ずつ順番に食べられていくという、ごく自然な展開になるかもしれません。

 既に人が死んでいる時点でハッピーエンドには結びつきそうにありませんが、真君と綺羅凛ちゃんだけでも助かったら。主人公とヒロインが助かったら、エンターテインメントとしてはハッピーエンドと言えそうな気もします。

 でも、本作をハッピーエンドにしようと思ったら、綺羅凛ちゃんを魔法少女にするか、真君をタイムリーパーにする級のウルトラCが必要なんだよね?

 もちろん、ここに書いた時点で前二者はなし。

 ホラーではないんだけれど、怖いもの見たさでお越しください。

 人が虫に食べられるなんて、いやーっ!

 ……という方は、来ない方が良いかも?

 それでは、皆様ごきげんよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る