零落の星に吹く恋風は【1:2:1】30分程度

嵩祢茅英(かさねちえ)

零落の星に吹く恋風は【1:2:1】30分程度

男1人、女2人、不問1人

30分程度


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ガブリエル

旧型のアンドロイド。イヴによって『ガブリエル』と呼称される。


イヴ

壊れたアンドロイドを見つけて修理する少年。


クイーン

イヴとキングの知り合い。


キング

イヴを拾って目をかけている。


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「零落の星に吹く恋風は」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

イヴ:不問:

ガブリエル:♀:

キング:♂:

クイーン:♀:

----------




ガブリエル「…プログラム 起動…」


イヴ「…!動いた…」


クイーンN「この星の廃棄場。世界中のスクラップがこの街に集められ、うず高く山を作るその場所で、古いアンドロイドを見つけた。

欠損が酷かったものの、幸いにして材料はいくらでも"ここ"にある。

地道にコツコツと修理して、今日。

それはやっと起動した。」


ガブリエル「…データをロード中…」


ガブリエル「…データのロードに 失敗しました」


ガブリエル「新しいコマンドを 入力してください」


イヴ「あああ、ダメかぁぁぁ…

でも起動はしたんだ、絶対何とかする…!」


キング「よーっす。なんだ、また機械いじりか?」


イヴ「……」


キング「おい、無視すんなよ!聞こえてるんだろ?それともスクラップの山の一部にでもなっちまったのかぁ?!」


イヴ「(無愛想に)…あぁ、聞こえてるよ。

それで何?今忙しいんだけど」


キング「忙しい?お前はいつもガラクタをいじっているだけじゃあないか。

ん?そいつ、起動出来たのか!」


イヴ「…あぁ、さっきね。でも上手くリロードができないんだ」


キング「そりゃあお前、見るからに年代物だからな。通電しただけでも奇跡だろう」


イヴ「(呟くように)…新しいコマンド…そもそも配線がおかしいのか?読み込み先のコアは生きてるハズなんだ…」


キング「やれやれ…"今日は"、ちゃんと来いよ?」


クイーンN「そう言うと、男は去っていった」


イヴ「はぁ…早くキミと話がしたいよ…」


(間)


イヴ「コード、コード…確かここら辺に…あ、あった!これこれ…これに替えて…大丈夫、必ず生き返らせてみせるから…」


クイーンN「この星には光がほとんど届かない。外は常に薄暗く、街頭の灯りがポツポツと光りを放っていた。

この場所には誰も住んでいない。

時の止まった大量のスクラップが、街を覆い尽くしていた」


キング「おーい!」


イヴ「…今度はなんだよ」


キング「言ったろう?"今日は"ちゃんと来いって!どうせ時間も忘れてガラクタいじってるんだろう?迎えに来てやったんだよ」


イヴ「あんな街頭スピーカーで流される演説なんて、聞き飽きたんだよ」


キング「それでも、だ。聞かないといけない決まりだからな。ますます世間から離れていっちまうぞ」


イヴ「別に構わないさ。ぼくは自分のやりたい事をやる。それだけでいいんだ」


キング「そう言うなよ。これでも心配してやってるんだぜ?」


イヴ「"やっている"なんて、恩着せがましく言わないでくれる?そんな事、ぼくは頼んでない」


キング「はぁぁぁぁ…ほんっと、可愛くねぇなぁ!」


イヴ「(呟くように)それより…どこを替えればいい?ねぇ、ぼくに教えて…」


キング「そんなにそのアンドロイドが大切かよ…ソイツを見つけてから、お前、ちょっとおかしいぞ」


イヴ「…おかしい?」


キング「どうしちまったんだよ?前のお前なら…」


イヴ「(被せて)"前のお前なら"?!なんだよ?!

前のぼくなら、ちゃんと演説も聞いていたし、人付き合いも良かった?!

それが今やこのスクラップの山に囲まれて、一体のアンドロイドにご執心?!

そんなのもう、聞き飽きたんだよ!!」


キング「…ちっ、分かったよ…邪魔して悪かったな!」


イヴ「…ぼくには、キミだけなんだ…だから…だからさ。早く動いてくれよ…」


ガブリエルM(…あなたは、なぜそんな目で私を見るの?)


イヴ「明日こそ、直してみせるから…」


ガブリエルM(…ありがとう…ありがとう…ちゃんと聴こえているわ…)


(間)


クイーン「アイツ、また来ないの?」


キング「あぁ…」


クイーン「なーにイライラしてんのよ」


キング「…別に」


クイーン「どうせまた世話焼きすぎて、煙たがられたんでしょ?」


キング「うるせぇな!」


クイーン「ちょっと!私に当たらないでよ!」


キング「…ふん」


クイーン「…それより、西地区でまた停電ですって」


キング「あそこは落雷の多い地域だからな」


クイーン「もっと電力供給に力を入れるべきじゃない?

だってそうでしょ?この星で電力が正常に供給されなければ、街ごと死ぬわ」


キング「そうだな…」


クイーン「そのせいかしら、最近移住民が増えたのは」


キング「この星全てに電力を供給するのは難しい。安定した土地もあれば、そうじゃない土地もある。自然現象が相手じゃあ、仕方がないさ」


クイーン「…まぁ、そうね…それで?」


キング「…?それで、なんだ?」


クイーン「また長期で街を離れるんでしょ?」


キング「そうだな…仕事だ…仕方ないさ…」


クイーン「安心して。あの子は私が目をかけておくわ」


キング「…すまないな」


クイーン「なんだかんだいって、あなたも"親バカ"よね」


キング「うるせえよ。身寄りのないガキなんて珍しくねぇがな、アイツは…」


クイーン「大丈夫、あの子も分かっているわよ」


(間)


イヴ「…よし、今度こそ…」


ガブリエル「…プログラム 起動…」


イヴ「頼む…頼む…頼む…!」


ガブリエル「…データをロード中…」


ガブリエル「…データのロードに 失敗しました」


ガブリエル「新しいコマンドを 入力してください」


イヴ「…ああぁぁぁぁ…何がダメなんだよ…」


ガブリエル「新しいコマンドを 入力してください」


イヴ「…コマンド…コマンド…?」


ガブリエル「新しいコマンドを 入力してください」


イヴ「…コマンド…データの、新規作成…」


ガブリエル「…データを上書きしますか?…」


イヴ「…(少し悩んで)ああ」


ガブリエル「…接続中…電源を切らないでください…」


イヴ「……頼む、頼む…」


ガブリエル「…データを 新しく作成します…

ユーザーの名前を 入力してください」


イヴ「…っ!…イヴ!」


ガブリエル「…入力を確認…

新規ユーザー 「イヴ」 で データを作成します…」


イヴ「…っ!!!やった!!!」


ガブリエル「こんにちは、イヴ。

私は 愛玩用アンドロイド CP900A73 type-B

ニックネームを 入力してください」


イヴ「…ガブリエル」


ガブリエル「…入力を確認…

私の名前は 「ガブリエル」


よろしくお願いします イヴ」


イヴ「やっとキミと話ができるんだね…ガブリエル…」


ガブリエル「イヴ 私に命令をください」


イヴ「命令?…あぁ、そうか、キミの時代のアンドロイドは命令をしないといけないのか…

…うーん…キミは、ここでぼくとゆっくり過ごすだけでいいんだよ」


ガブリエル「ゆっくり 過ごす?」


イヴ「そう、ぼくの隣に来て」


ガブリエル「はい イヴ」


イヴ「うーん、もう少し、キミが話せるようになるといいんだけど」


ガブリエル「話 ですか?」


イヴ「そう、キミの話を聞きたいんだ」


ガブリエル「何について 話をしますか?」


イヴ「…キミについて」


ガブリエル「私は 愛玩用アンドロイド CP900A73 type-B」


イヴ「そういうことじゃなくて…」


ガブリエル「私は何か 間違えましたか?」


イヴ「…いいや…間違ってないよ…間違ってないんだけどね…」


ガブリエルM(あなたは、私の何が聞きたいの?私が誕生し、稼働していた時代の話?私が仕えていた主の話?それとも…)


(間)


キング「くそっ、いくら星が小さくなっても、いくら"住める土地"が減ったとしても、給電所の全視察なんて、全く骨が折れる!

…あぁ、分かっている…それでもやらなきゃいけない事はやるし、電力を一括管理する事程、恐ろしい事はないからな!

どこかの電力が落ちたとしても、他に一つでも電力が生きていれば全滅は免れる

…にしてもだ!俺はいつ!帰れるんだ!」


(間)


クイーン「やっほ!」


イヴ「クイーン…あなたがこんなところに来るのは珍しいですね」


クイーン「なぁに?そのよそよそしい喋り方は。昔はよく一緒に遊んでやったのに!覚えてないの?」


イヴ「覚えてますよ」


クイーン「いやね、冗談よ」


イヴ「…それで、何しに来たの?」


クイーン「アンタの様子を見にきたのよ。キングの代わりにね。あいつ、今街を出てるから」


イヴ「そう…」


クイーン「そうって…もっと何か言う事はないの?」


ガブリエル「イヴ お客様 ですか?」


イヴ「違うよ。キミはそのままそこにいて」


ガブリエル「分かりました」


クイーン「へぇ!そいつ、動くようになったんだぁ!」


イヴ「"そいつ"じゃない。彼女は"ガブリエル"」


クイーン「"ガブリエル"ねぇ…天使の名を冠するには、随分お粗末じゃない?

それに"イヴ"って…」


イヴ「(話を遮る)うるさいな、小言を言いに来ただけなら早く帰ってよ!」


クイーン「ちょっと!私はアンタを心配して…」


イヴ「(話を遮る)一人でも大丈夫だから!!」


クイーン「なによ!…まぁいいわ。また明日来るわよ!」


イヴ「…暇なの?」


クイーン「ほんっと、口の減らないガキね!」


ガブリエル「…イヴ?」


イヴ「…あぁ、ごめん。なんでもないよ」


ガブリエル「あなたは 一人では ないわ」


イヴ「ガブリエル…キミは本当に優しいね…だからぼくは…ぼくは…」

(※キミに惹かれているのかな、と続くが言わない)


ガブリエルM(私がもっと自由に話せれば、あなたの心を埋められるのかしら)


(間)


キング「次は西か…あぁ、行きたくねぇ…年中雷が降ってる土地なんか、捨てちまえばいいのに!

……分かってるさ、ただでさえ狭い土地だ…こんな土地でも、手放す事は出来ないって事はな…

給電所は街の外れの三箇所…遠回りだが、迂回する。街の中心で落雷、なんてごめんだからな…」


キング「こんな土地でも、まだ住んでるやつがいるのか…流石に中心部には住めないだろうが…」


(間)


クイーン「よーう!」


イヴ「また来たのかよ」


クイーン「何よ、昨日来るって言ったでしょう?」


ガブリエル「こんにちは あなたは 昨日 いらした かた ですね?」


クイーン「そうよ!覚えていたのね!ええっと…」


ガブリエル「私 は ガブリエル です」


クイーン「そうそう、ガブリエル!元気にしてる?」


ガブリエル「はい お気遣い ありがとうございます」


クイーン「まぁ、年代物だもの…こんなものよね」


イヴ「これからもっと手を加えるさ」


クイーン「は?それって改良するって事?」


イヴ「…」


クイーン「"アンドロイドの改良、または出荷時の状態を著しく変更すること"は禁止されてるって、知ってるわよね?!」


イヴ「…」


クイーン「話し相手なら、他にいっぱいいるじゃない!どうしてその子に固執するのよ!!…アンタが何をしようと私はいいわよ?でもキングは!!」


イヴ「(話を遮る)キングがなんだよ!!ぼくにはガブリエルだけなんだよ!!

この子は…ぼくの知らない記憶を持っている…ぼくが生まれる前から生きている…この子と話をしたい…それだけが、ぼくの望む事なんだよ…」


クイーン「はぁ(ため息)……勝手にすれば」


イヴ「…通報しないの」


クイーン「…しないわよ」


イヴ「知ってて隠したら、それも罪になるのに」


クイーン「アンタはまだ何もしてないじゃない。これから何をするかなんて、私は聞いてないわ」


イヴ「…バカだよ…十分…ぼくも、あなたも」


ガブリエルM(あなたは何を知りたいの?この星のこと?この星が、もっと………だった頃の話?)


(間)


キング「西地区はここが最後だな…ここに来るまで数十件ほど住居を見かけたが、その半数は廃墟のようだった…この土地が整備されれば…屋根をつける?…地下に街を作る?はぁ、現実的じゃあないか…

…ん?なんだ…この音…?

…ッ!マズイッ!!」


(間)


イヴ:「キミには自動給電システムを搭載したんだけれど…」


ガブリエル「はい 同じ原理を利用した 腕時計を ご存知 ですか?」


イヴ「うん、知っているよ。何種類かあったよね。ソーラー発電、熱発電、自動巻発電…」


ガブリエル「私は 自動巻発電 を 利用して 動いているのですね」


イヴ「うん。この星では太陽の光は十分に届かない。

腕時計のように、人間の熱で動かすには無理がある。

だから、自動巻発電なんだ。

この星は電力に頼って生きている。

町中に街灯を立てているんだ。

電気が止まったらもっと暗くなる。

…電力に頼りきっているぼくたちからすれば、キミの方がよっぽど優秀なのに」


ガブリエル「私は イヴ の ように 流暢 には 話せません」


イヴ「それでもいいんだよ」


ガブリエル「…よく 分かりません」


イヴ「うん…ごめん」


ガブリエル「どうして 謝る の ですか?」


イヴ「どうしてかな…」


ガブリエル「イヴ?」


クイーン「大変っ!!!」


イヴ「なっ、クイーン!いきなりどうしたんだよ!!」


クイーン「西地区が!大量の氷塊で覆われたのよ!!!」


イヴ「西地区が?なんで…」


クイーン「よく分からない…でもキングは今西地区にいるはず…無事かどうか、連絡も取れないのよ!!」


イヴ「クイーン、落ち着いて…まず、僕たちで出来ることを…」


クイーン「出来ることって何?!西地区までキングを探しに行く?!あんな広大な土地に…しかも年中雷が降ってるような所に?!死にに行くようなものだわ!!」


イヴ「落ち着いて…きっとキングは大丈夫だから…」


クイーン「…ああっ…なんでこんなことに…!!」


イヴ「クイーン…」


クイーン「…っ…ごめんなさい…冷静になるから…」


ガブリエル「気温が 上がったようです」


イヴ「え?」


ガブリエル「気温が 今朝と比べて 高くなっています」


イヴ「そんな事って、あり得る?」


クイーン「さぁ…知っての通り、この星は殆どが氷。太陽の光も満足に届かない…気温なんて考えた事も無いわ」


ガブリエル「私が 稼働していた頃は もっと 光があり 『昼』 と 『夜』 が ありました」


イヴ「それは、知識として知っているよ」


ガブリエル「昼 は 気温が上がり 夜 は 気温が下がります」


クイーン「それで…あなたは何が言いたいの?」


ガブリエル「気温が 急に 上がった という 事実を お知らせして います」


イヴ「…ねぇ、何か聞こえる」


クイーン「えっ?」


ガブリエル「…西から 暖かい 風と…」


キングN「その時、大量の氷塊が街に降り注いだ。

発電施設も住居も街灯も、全て氷に飲まれた。一瞬にして電気が消え真っ暗になった中、一体のアンドロイドが氷塊の隙間を登り、その上に立つと、世界が氷に飲まれ、次々に灯りが消えていく大地を確認する。」


ガブリエル「電力が 失われていく…」


ガブリエル「星の命が 終わる…」


(間)


ガブリエルM「私は、生命で溢れたかつての地球で、人と共に暮らしていました。

青く、美しい星。

ある日、核戦争に耐えられなくなった地球は半壊、大地は大きく裂けました。

海は地底に沈み、重力が弱まり、いくつかの大地は宇宙空間へと消えて行きました。

バラバラになった大地は長い年月をかけて引き寄せられ、小さな惑星になりました。

惑星になるまでに、太陽から離れてしまいました。

植物も動物も生きられない土地に、アンドロイドだけが取り残されました。

そのアンドロイド達は、人間と遜色ない程の造りでしたが、電力がなければ動かないモノでした。

アンドロイドの自我の抑制は、街頭スピーカーを模した電波塔から管理されました。

逸脱した行動を取らないように。

人間がアンドロイドを管理していた頃の名残りとして。

そして、この星には火山高がありました。

凍てつく大地にそんなもの、と忘れ去られていました。

過去の遺物だと。

それが噴火し、覆っていた氷を吹き飛ばしました。

辺りは溶岩で覆われ、隆起し、近くの氷が溶けて水になるも、すぐに凍ってしまいました。

この星が、さらに一層、氷で覆われました。


イヴ、私を置いていってしまった。

私は、私を止める事ができないのに。

あなたが聞きたかったのは、こんな物語?


ねぇ、どうしてイヴだなんて名乗ったの?


私が天使で、あなたが人間だなんて、とても滑稽だわ。ジャック。」




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●補足●

名前はトランプのジャック・クイーン・キングから。

「街頭演説」は人間と一緒に暮らしていた頃、アンドロイドの「存在意義(人間に尽くすこと)」を刷り込むために設置された。

毎日決まった時間に街頭演説を聞くようにプログラムされている。

人間にはただの音楽が流れているように聞こえる。

ジャックはガブリエルに執心したことで街頭演説を聞かなくなり、「人間に尽くすこと」という意識が薄れ、自我が生まれたことでさらにガブリエルに執心する。

自分の知らない過去、人間や動物との生活、どう思ったのか、どういう世界だったのかという知的好奇心から、ガブリエルの事を「自分より上位である」という認識がある。

そういう意識から天使の名である「ガブリエル」と名付け、自分は天使よりも劣る初めの人間「イヴ」と名乗った。

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