第24話 鍛冶屋砦4
やがて宴は終わりを迎える。
「最悟は今回メンバーから外してくれるかしら、暫らくの間ユキ様の従者を任せたいの。」
「なるほど、適役ですな。」
猫をかぶったバラキが子煩悩な母親のふりをしてユキの出方を伺っていた。
「従者はいらない、俺は一人が好きなんで。それに教えることなど何もないよ最悟君はもう一人前でしょう。」
さすがのバラキも驚いた、こうもあっさり断れるとは思っていなかった。波多野も最悟を適任と今一度ユキに推薦しようと考えたが、確かに彼の言うとおり、最悟は戦士としてほぼ完成形で後は経験を積むこと。失敗から戦いの
「三人で話せるかな?」
冷ややかなユキの態度にバラキは自分がしくじったと悟る。男の懐に簡単に入れたことに過信してアシュールの力量を見誤ったと心の中で歯ぎしりをする。
場所を変え平伏する二人を前に座るユキは無言のまま考えを巡らせていた。ゆったりと構えていたが自分に与えられた時間が思いのほか短いことに焦りも覚える。彼の行動にいらぬ口出しをしたこの二人に罰を与えるのは容易いがそれは彼の本意ではない。
「バラキ見事な舞だった。道は示された、感謝する。この借りは
「あれは私があなた様に貢いだものお納めください。それに十分な予算を付けていただきました。」
「まあそれも俺の問題だ、とりあえずそのつもりでいてくれ。」
「仰せのままに。」
「もう畏まるのは止めてくれ、未熟な俺の責任だ、つい接近を許してしまう。今朝も寺の始乃に叱られたばかりだというのに。」
砦にも噂は流れてきている。三姉妹の一人がアシュールではないかと。だが娘は殻を破っていない。アシュール原野聴雪が娘をアシュールに変えるのだとバラキの古い記憶がそう伝えている。1000年幾度となく娘はその身を開花させること叶わず朽ちて行った。バラキも遠くでそれを見ながら涙を飲んだ。聴雪憎しの心が瞳を曇らせた。彼女は次はないと刻み込む。
「申し訳ないが従者は必要ない。今更慣れないことをする余裕はないのだ。だがもし最悟が鍛冶の手伝いが出来るなら頼みたい。」
それを聞き、ようやく二人はほっとしたようだ。最悟は派手さはないが粘り強く仕事をこなすタイプだと波多野はそう言って胸をなでおろす。
「では、後で鍛冶場をを見せてもらいたい。いくつか必要な物があって、もし手持ちが有れば分けてもらいたいと思っている。聞いていると思うが国土結界の張り直しの儀式が近々行われる。それまでに鍛えておきたいものがいくつかあるんだ。」
「なるほど、あと必要とあらば皆に手持ちがないか聞いてみましょう。」
「よろしく頼む。さて、この話はここまでにして、詳しくは
「あちら側からの亡命者ですか?」
「そうだダンジョンを越えて来るのなら大物だ、心当たりがないでもないが、それを調べるのが波多野の仕事になる。」
「お受け入れなるおつもりですか?」
「その判断材料を集めてもらいたい、
バラキ、波多野は息を飲む。これがアシュールの力だと、彼らは嵐だ、台風の目と表現する者もいる。近づくものを容赦なく歴史模様へと引きずり込み、力なきものは淘汰される。つい先ほどこの砦にやって来たばかりだというのにこの地は既に暴風圏内だと二人は息を飲む。
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