第23話 鍛冶屋砦3
バラキは波多野から受け取ったどんぶりに酒を並々と注がせると一気に飲みほした。ユキとバラキの間をどんぶりが往復する事すでに三回。ようやく彼女は満足したかの様にどんぶりを置いた。だが、その後の彼女の行動は予想外だった。彼女が求めていたことはただ単に酔っ払うことではなく酩酊感の向こう側にある彼女特有の魔力を引っ張り出し、他人には出来ない事をするための下準備だったようだ。
おそらく酒など飲まなくてもできる行為なのだろうが"手っ取り早く"という言い訳で酒が飲みたいのだろう。お酒好きなのね、と、ユキは考えるが、いらぬことなので口に出すことは控える。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだと感心しながら。
「何が出てくるかは分かりませんが挨拶代わりの貢物でございます。」
バラキはそう言いながら
そこへ11人のバラキに従う女たちも加わり大掛かりな群舞が始まる。神楽や巫の舞とは違う、さらに古い時代から連なる原始的に情熱を畏怖するものへと捧げる舞は加速してゆき女達は次々にユキを言葉と視線で誘惑する。そして次の瞬間、
正確には一人ではない。目の前には大きな羊がいた。いや羊に似た何かがいた、記憶が湧き上がる、三種の双眸を持つ聖獣パミオンだ。遙か昔のこと、この異世界戦争の半ばにすでに滅んでしまった遠い星の仲間達が崇め"賢者"と呼んでいた存在だ。青い目は過去を、黒い目は現在、金色の目は未来を見ていると、そして六つの瞳が同時に開くとき破滅の予言が発せられると彼らはそう信じていた。心臓が一度ドクンと大きく打ったように聞こえた。ユキは戸惑い考える、なぜ俺はこんなことを知ってるんだと昨日までなかった記憶だ。
ああっ、いったい何万年いや何十万年前の事だったろう、その時パミオンの六つの瞳は開かれて彼らの破滅を予言したのだろうか?
"ふん、過去からの逃亡者か気楽なものだな"
ユキの心へ直接語りかけてきた。
「死んだ友には言い訳の言葉もない。」
"潔いな、何が知りたいのだ?"
「いや何も。」
"珍しい男だな、人間は何でも知りたがる身の程知らずだと思っていたが。"
もう何も知りたくなかった、というよりも情報が多すぎて何が何だか分からない。どっちを向いていいのかも判断がつかない、それがユキの正直な気持ちだった。
"情報の整理が必要だということか、人間が欲張りだということは聞いているぞ。"
「その通りだと思う、俺は欲張りすぎた。なんでもかんでも詰め込みすぎて身動きが取れない。」
"お前もしかしてチョウセツ ゲンヤか?"
「そうだが、なぜ、、、」
"面白い男だな。"
"今も昔も悩みは変わらんか、人間は進化の遅い生き物だが、笑えんな。"
「面識があるようだが色々と面目ない。」
"同じ忠告で良ければしてやれるが、また聞きたいか?"
「よろしく頼む。」
ユキは迷うことなく頭を下げた。
"女だ聴雪、早く女を見つけることだ。さすればお前の悩みの半分は解決する。"
聖獣パミオンの瞳は金色に輝いていた。
なるほど、そうだろう。分かりきっていたことだ。おくびにも素振りにも決して出さなかったが、ユキの頭の中は何の記憶も無い女のことで、千年放置し続けた、ただ愛しいとしか、言いようのない女のことでいっぱいだった。
「見つけられるかな?」
"ふん、白々しい。これ以上忠告が欲しければあの女との関わりが深くなるぞ。さらに三杯の酒を飲ませる事になる。"
「借りは
"調子の良い奴め、だが興味深い、、、
また会おうぞ聴雪、女の体がこれ
次の
「人妻でよければ私がお供いたします。娘も二人良い具合に育っておりますが、お勧めはまだ十二ですが下の娘で御座います。奥方様にも気に入っていただけるでしょう。」
ユキの肩に、柔らかく重い肉の感触を残して女が離れていく。そこから二人は再び三杯のどんぶり杯を交わし合いユキは宣言する。
「これより十年、鍛冶屋砦の予算を三倍とする、いまだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます