Ⅲ 馬小屋の隅っこ

 こうして馬小屋に住むことになったペティでしたが、使用人たちがお屋敷から入れ替わり立ち替わり食べ物やお菓子を届けてくれるし、馬の世話係のサム爺が若い頃の冒険譚をいっぱい聞かせてくれるので全然寂しくはありませんでした。


 夜になってサム爺がお屋敷に帰ってしまうと、ペティは独りぼっちになってしまうのですが、そんなときは干し草のベッドで星空を見上げながら歌を唄いました。

 すると今度は馬たちがペティの周りに集まってきて、尻尾をフリフリ身体をユラユラ揺らしてリズムをとり始めます。


 すっかり馬たちと仲良しになったペティは馬の背中で寝てしまうこともありました。

 でも不思議なことに朝目覚めたときには干し草のベッドにいて、肩までちゃんと布団が被せられていたのです。



 ▽



 ペティが馬小屋に住むようになってから半年が過ぎたころ。

 その日は朝から嵐が吹き荒れていましたが、伯爵は大切な仕事があるために馬車を走らせていきました。

 走り去る馬車を見送るペティは、何か得体の知れない胸騒ぎを感じていました。


 不安は現実のものとなりました。

 その日の夜、一頭の馬がひどい怪我をして戻って来たのです。

 長いたてがみの美しい白馬で、いつもペティの歌を隅っこで聞いているような引っ込み思案な馬でした。

 それが馬車を先頭で引いていたときに、ぬかるみに足を滑らせて前脚が見るも無惨に折れてしまったのです。


「今夜はおまえのそばにずっと居よう。少し元気になったら大好きなニンジンを好きなだけ食べような。本当にここまでよく頑張って帰ってきたな」


 サム爺は横たわる白馬の身体を布で拭きながらそう言いました。でも馬小屋にはあいにくニンジンが置いていません。

 それに気付いたペティはお屋敷の厨房へもらいに行こうと考え、外套がいとうを羽織ろうとしました。でも、サム爺はペティの肩に手をかけて教えてくれます。馬は前脚が折れるともう助からないのです。


 しかしペティにはそのことが信じられません。


「元気になってお馬さん。頑張ればきっと大丈夫よ!」


 ペティはサム爺の手から離れて、白馬に寄り添い歌い始めました。

 白馬の大好きな歌を、今夜はすぐ近くで聞いてもらいたかったんです。

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