第3話【人の性格は変わる】

父と母が離婚して住む地域が変わったので僕は転校することになった。

この出来事が僕の性格を大きく変えたのではないかと思っている。


転校する前の僕は明るく人気者で、あまり人の目を気にしたりせずに発言したり行動したりしていた。

宿題もやった記憶が一切なく先生に毎日怒られていた。

友達もそんな感じで一緒に怒られていた。


ところが転校した学校で1番最初に衝撃を受けたのが皆が宿題をやってきている事だった。

当たり前のことかもしれないが僕にとっては不思議な光景に映った。


前の学校では宿題をやっていないと教室の後ろや廊下へ立たされたのだが、仲の良い友達はほとんどやってなかった為、笑いながらむしろ誇らしげに教室の後ろに立っていた。


しかし、この学校では宿題をやっていない人が居ない。本当に1人も居ない。

毎朝先生に「宿題忘れた人?」と聞かれ手を挙げる。

それがずっと1人だと分かった途端に急に恥ずかしくなった。

『明日からはやろう。』これは僕にとって大きな心の変化だった。


そしてもう一つ性格が変わった理由がお父さんの存在である。

お父さんは母と結婚する前に3度も離婚している人だった。

理由はそれぞれの事情なので分からないが、とにかく厳しい人。亭主関白。それに加え実の子どもではない僕らへの当たりが理不尽なことも多かった。

『言葉で分からなければ体で覚えさす』と直接言われたことがある。バリバリの昭和体育会系だ。


それから家で過ごすときは、いかに怒られないようにするか、機嫌を損ねないようにするかに全神経を使った。

このころからかなり敏感で神経質になっていった。


食事の時もなるべく会話にならないように早く食べて2階に上がったり、なんでもないことにオーバーリアクションしてみたり。お使いを頼まれたら喜んで行った。

機嫌を損ねない努力をした。

とにかく色々なことに気を使いすぎてお父さんの前で息をしていたかも分からない。


1番神経をすり減らすのは夜中に尿意を催したときだ。

2階から1階のトイレへ向かうときに魔法使いでも絶対に音のなる扉を開けなくてはならない。さらに空を飛ばない限り絶対に音のなる古い木造階段を降りなくてはならない。

これにより起きていることがばれると「いつまでおきとんのじゃ」と怒号が響く。

それに対し「いやトイレに来ただけ・・・」とは言えなかった。

なのでトイレに行きたくても諦める日が幾度となくあったし、ペットボトルに用を足したこともあった。


他にも、1階から2階へ向かって「おーい うどん買ってきてくれ」とおつかいを頼むお父さんの声が聞こえてきた。僕は寝たふりをした。

すると階段を上る音が聞こえてきて扉が開く。そのまま僕の部屋の窓を開け、借りていたゲーム機(64)、勉強机、教科書、ランドセル、グローブ、釣り竿など大切にしていたものを投げ捨てられた。

これにはさすがにビックリしたし、かなり憤りを感じた。

本当は直接「やめろや!!」と言いたい。けど言えない。それくらい怖かった。


お父さん関係のストレスや周りとの家庭環境の差に日々不満が蓄積されていった。


——『あの人は今こう考えている。あの人はこう言う事を言おうとしている。

あの人はこの人のこと嫌いだな。あの人は今嘘を言っている。』とか


『僕は友達に嫌われたかな。あの言い方まずかったな。どう思っているかな。』

など普通の人でも思うことはあると思うが、考える時間が長く深いのである。

相手がそこまで思っていないことでも深く深く考えてしまう癖がついていた。

それは10年経っても悩んでいることも多い。


他にも、凄惨な事件のニュースを見ても異常に感情移入してしまったり。

ノンフィクション映画を見て病んでしまったり。

このようなことを誰かに話すわけではないので自分の心の中で閉じ込めておくと時々

不安感に襲われる症状が出てくるよになったり、悪夢を見る様になったのもこの頃からである。


高校を卒業したらこの家を出よう。そう考えていた。

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