第23話 振られる前提の告白

 そっと顔を上げた片瀬は、潤んだ瞳で俺を見つめながら首を傾げる。


「……あたしのこと、好きになってくれたの?」


「あ、いや、そういうわけじゃなくてだな…………今から説明する」


 吐息がかかりそうな距離、ほんのり赤らめた頬、熱っぽい視線、それらに耐えられなくなり、俺は顔を横に向け、片瀬から視線を逸らした。


「いつでもいい……いや、できれば夏休みに入る前に決着をつけておきたいが、それは理想であって片瀬の気持ちを汲んだものじゃない。だから、片瀬のタイミングに任せる。学校に行く気が湧いてきて、実際に学校に足を運んだらその時は――俺のクラスに立ち寄ってくれ」


「……花厳君の、クラスに?」


「そうだ。できれば事前に連絡をもらえると助かる――――ここからが肝心なとこだ。まず、片瀬の姿が見えたら俺は真っ先に告白しにいく。そうしたら片瀬は俺を〝盛大に振ってくれ〟」


「……………………」


 片瀬からの返答はない。


 チラと横目で彼女の表情を窺う。ほんの少し、いや俺の勘違いかもしれないけれど……ちょっと怒っているように見える。


 それでも俺は、構わず続ける。


「俺を振った後、『好きな人はいない。誰とも付き合う気はない』ってことを周囲に――橘に伝わるように演じてくれ。言い回しは好きにしてくれていい。考えるのが面倒だったら今俺が言ったやつでも構わん」


 両国を自分に振り向かせるために柊が考案した恋愛大作戦……要はそれの応用だ。


『両国は片瀬が好き。じゃあ片瀬は?』橘が持っている情報はそこで止まってしまっている。


 なら情報を与えてやればいい。それだけのこと。


 片思いの立場で面白くない。片瀬の気持ちがわからず苛々する。橘には前例もあるし、まったくの的外れってわけじゃないだろう。


 片瀬が俺を踏み台にし公にすることで、橘にチャンスを作らせる。これで両国が恋を諦めてくれたワンチャン……そう希望を持たせる。


 ……わかっている。これだけじゃ心許ない。だからもう一手、考えている。俺以外に〝もう一人〟犠牲になってもらうという最低な案だが……解決を望んでいる奴なら、きっと乗ってくれるはず。


 そしてきっと、片瀬も乗ってくれるはず……。


「…………ねぇ、花厳君」


 俺の名を呼ぶ片瀬の声は明らかに低くなっていた。


「は、はい」


 恐る恐るといった具合で俺は片瀬を見やる。彼女は頬を少し膨らませ、ジト目でこっちを睨んでいた。

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