第7話

「しゃーせー」


 自動ドアが開き客が入ってくる。

 ケイトはそれを適当なお辞儀で迎え入れる。

 そして客が商品を持ってレジに来ると、この世界のそろばんのようなものをを弾いて料金を算出。

 商人スキルの計算Lv10を持ってすれば、計算ミスなどありえない。

 そして、レジに金額を入力すると、


「720円になりまーす」


 客は首からぶら下げたカードをレジにあるICカードエリアに押し当てる。


 ピッという聞き慣れた電子音ともに支払いが終わり、客が商品を手に持ちケイトの前を去っていく。


「あーしたー」


 それをまたケイトは適当な挨拶で見送る。


 あれから1ヶ月が経った。

 役所で与えられたケイトの仕事はコンビニ店員だった。

 ケイトは今、オレンジと緑の制服に身を包み、レジの前で客が商品を持ってくるのを待っている。


 あの日、ひとまずアパートにたどり着いたケイトたちは今後の対策を立てるべく、作戦会議を開いた。

 当面の目的はサラディに接触することだ。

 サラディに会えば、この惨状の理由をきくことが出来るかもしれない。

 しかしサラディは領主だ、もちろんそう簡単に会うことが出来るわけがない。

 この街で何かしら重要な役職に就ければ接触するチャンスがあるのではないか、と考えた。


 そう考えたケイトたちの作戦は、まずそれぞれが割り振られた仕事を、システム干渉チートスキルにより手に入れた一般人より少しだけ恵まれた能力でこなすことで、数年かけて成り上がり、側近としての地位を手に入れること、だった。

 数年、という単位に悠長に感じるかもしれないが、毎回数十年、数百年かけて世界修復を行う彼らにとってそういう時間のかかる手堅い手段、というものはむしろ無理をしなくていい分コスパの良いやり方であった。

 時間、というもので得られる信用、地位といったものの大きさを彼らは身を持って知っていた。


 そうして、ケイトが勇んで踏み入れた職場こそが……コンビニだった。

 仕出し、レジと様々な仕事をこなし、一人前だなとお墨付きをもらい、夜勤の時間帯を一人で回すこと1ヶ月……

 当初のキラキラした思いはどこへやら、立派に腐った目をしたフリーターが一人誕生した。


 コンビニ店員で成り上がるとはどういうことだろうか? 店長になること、そしてその先は?

 1ヶ月務めてわかったがこのコンビニは本部やフランチャイズ元なんてものは存在しない。

 領主直々に経営する公共事業、そして管理は貴族が取り仕切っている。

 正社員とバイトの関係とそのまま考えてもらえれば分かりやすいだろう。

 そして正社員登用なんて制度がない以上、ケイトの仕事は、始点であるここがそのままゴールであった。

 それを悟った後は落ちるだけだ。

 いかに同じ仕事を手を抜いてやるか、いかに楽をするか、そればかりがうまくなった。

 サボるということもある意味では仕事を極めた結果なのだ、という無駄な悟りを得た。


 ちなみにエリナは1日で弁当売りの屋台の仕事を投げ出してケイトの部屋に引きこもっている。

 そして、ケイトは自分が最底辺ではないという唯一無二の自信を彼女から得ることで労働意欲をなんとか維持している。

 ちなみにたまに持って帰る廃棄の漫画がを読むことが唯一の彼女の趣味である。

 タカラジェンヌ・ヨーコ先生の作品がお気に入りだそうだ。

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