第8話 幼馴染みーず(男)



 神明大五郎には、四人の幼馴染みがいた。

 一人は遠恋中の彼女であるあっちゃん。

 そしてその姉であり、クラスメイトのえーちゃん。

 同じくクラスメイトである升留院輝彦と、トールこと井元透。


 彼らは仲の良い幼馴染み五人組であったが、同時に年頃の男女である。

 当然と言うべきか、運命の赤い糸が見える大五郎には彼らの感情のもつれが見えていて。


(今日はとうとう水仙さんに連絡先を知られちゃったかぁ……いや、いいんだけどね?)


 昼の騒動を思いだし、少し疲れた苦笑と共に大五郎は帰宅。

 見覚えのある靴に気づかずに、そのまま自室へ行き。


「――――やあ、お邪魔してるぜ大五郎」


「いやトール? なんで僕が帰るより先に僕の部屋に居るワケ?」


「そんなもの決まってるだろ? …………お前に、聞きたい事があるからだ」


「なるほど?」


 まるで自分の部屋のように居座るイケメンの鋭い視線に、自然と大五郎も警戒する。

 これはきっと昼のことだ、おそらく水仙咲夜との仲を聞きに来たのだろう。


(どう言い訳したものかねぇ、いや言い訳する理由もないんだけどね。トールなら僕のこと理解してくれてるし)


 曖昧な笑みを浮かべる彼の肩を、トールは両手でがっしり掴んで離さない。

 そして。


「話とは他でもない、…………妹の、デート相手の事だ大五郎おおおおおおおおおお!! おろろおおおおおおおおおおん!! 知らないか? 何か知らないか大五郎!! 樹里亜が! 俺の大切な樹里亜がぁ!! デートだとおおおおおおおおお!!」


「あれ? そっち!? 水仙さんのコトじゃなくて!?」


「は? あの顔だけ女とお前の事? そっちは後で聞くがそれより樹里亜の事なんだよっ!! お前知ってるだろう! 知ってて俺に話してないだろう!! 言え! 樹里亜の相手は誰なんだ、もう恋人がいるのかそれとも結婚? 結婚だと!? お兄ちゃんは許しません!! ――――待て、何故黙ってるんだ大五郎!! まさかお前が樹里亜と…………っ!!」


「いやいや? 僕にはあっちゃんがいるからね?」


「は? 樹里亜の何が不満なんだ大五郎? 返答次第によってはぶっ殺すが?」


「そういう面倒くさいシスコンだから、樹里亜ちゃんはトールに何も話さないのでは?」


 正論をぶつける大五郎に、トールの眼孔はギラリと輝く。


「ほう? その言い方……つまりお前には相談してる、そういうニュアンスだな?」


「一般論を言っただけだけど?」


「はんっ!! 俺とお前の仲だぞ? 言葉の裏に隠された細かなニュアンスぐらい読みとれる! 墓穴を掘ったな大五郎!! ――――どうか、どうか俺に樹里亜の相手を教えてくださいプリーズ!!」


「うわっ!? 泣きながら足に縋りつかないでよっ!?」


 ぺこぺこと土下座まで始めたトールに、大五郎としても難しい顔をするしかない。

 何故ならば。


(いやさぁ、輝彦と樹里亜ちゃんもトールにちゃんと話しておいてよ!! なんで僕が巻き込まれてるのさ!!)


 そう、トールの妹・樹里亜の恋人は輝彦。

 二人の背中を後押ししたのが大五郎なら、兄トールが面倒だから黙っててくれと頼まれたのも大五郎だ。

 この際だから言うか、それとも二人に配慮するか。

 彼の迷いを察知して、トールは素早く鞄から本を取り出す。


「なぁ大五郎……何もタダで教えて欲しいと言ってる訳じゃない…………これを、お前の為に集めていたこれを、やる……!!」


「なんかカッコつけて言ってるけど、エロ本だよねコレ?」


「は? お前の為に集めた、あっちゃんみたいな明るいお姫様系巨乳美少女のエロマンガとエロアニメとAVとグラビア写真集とIVの厳選集なんだが?」


「顔は良いのに、そうやってエロ一直線だから樹里亜ちゃんに避けられてるしモテないんだよ?」


「それを言ったら戦争だろうが大五郎!! というか俺達ぐらいの男ならエロ一直線ですぅ~~!! むしろエロを毛嫌いする方が不健全だ!!」


 そう言い切るトールは、残念なイケメンとしか形容できなくて。


(…………もうちょい抑えれば、トールの赤い糸もちゃんと繋がるんだけどなぁ)


 大五郎には見えていた、幼馴染みであり親友トールの運命の赤い糸が。

 あっちゃんの姉であるえーちゃんと、もう少しで繋がろうとしているのを。

 なお、半年前からずっとである。


(ま、仕方ないか。後で輝彦に文句いっておこう)


 あの二人が彼に話すまで、己はサポートに徹するべきだ。

 だから。


「確かに僕は知ってるよ、でも言わない。約束だからね」


「――――…………そうか、お前がそう言うなら仕方がないな」


「素直に引き下がるね」


「ああ、俺たち親友だろ? だからこのコレクションは、えーちゃんからお前の誕生日に渡して貰うとするよ」


「え? は? ちょい待ちトール? ちょっとトール? それ反則じゃないのっ!?」


 親友の言葉に大五郎は焦った、何故ならば。


「フハハハハ!! 手段なんて選んでいられるか!! 知っているぞ大五郎!! 姉妹だけあってえーちゃんはあっちゃんと良く似ている!! 故に! お前は精神的ダメージを受けると!!」


「そりゃ恋人の姉から、恋人に似たエロ本コレクションを手渡されてダメージ受けない人は居ないよ!? というかそれ自爆じゃないの!? またえーちゃんに冷たい目で見られるよトールっ!?」


「五月蠅い死なば諸共だっ!」


「それなら僕だって考えがある!! 君の為に作った黒ギャルの美少女エロフィギュアをあっちゃんに渡す!! 絶対にだっ!!」


「何作ってるんだ大五郎っ!? 万能の天才っぷりを無駄に発揮してるんじゃねぇ! やるなよ? 絶対にえーちゃんに渡すなよ!! フリじゃねぇぞテメェ!!」


 うがーと怒り出すトール、大五郎はニヤリと笑い。


「お、やるか? やりますかトール? ゲームでケリをつける? また僕にボコボコに負ける?」


「お前こそ、俺にゲーセンの脱衣麻雀ゲームで勝てるのか? んん? 勝てるのか? エロが絡んだ俺は強いぞ?」


「なんでトールの土俵で勝負しなきゃいけないのさ!! だが乗った!! 君への誕生日プレゼントで用意してた、脱衣ブラックジャックのアプリで対戦してやる!!」


「だから何でそんなもんホイホイ作ってるんだお前!?」


 思わず叫んだトールであったが、大五郎の次の言葉で更に声を大きくした。


「え、あっちゃんが遠いし夜やること無くて寂しいから暇つぶしに……」


「さらっと重い事を言うんじゃない!! この寂しがり屋が!! 今日は夜中まで付き合ってやるから、あっちゃんの事は口に出すなよ絶対だからな!!」


「マジで、いやぁ最近は寂しくて寝付きが遅くってさぁ」


「くっ、今日は遊ぶぞ大五郎!」


「よしきたトール!!」


 その日、二人は夜中まで遊び倒して。

 一方で日付が変わる頃、とある神社の娘といえば。

 両手でスマホを持ち、画面とにらめっこ。


(うぅ……、連絡先をゲット出来て神明くんと二人だけのグループチャットまで作ったっていうのにぃ!!)


 こんなにも難しいものだったのだろうか。


(今なにしてる……、いやもう遅いわよね、じゃあおやすみなさい? それじゃあ素っ気ない気がするし――――)


 かれこれ三時間程この調子だ、咲夜は大五郎に何てメッセージを送ればいいか分からなくて。


(ああもうっ、あっちから送ってきなさいよ!!)


 湯上がりの艶やかな髪が乱れるのも気にせず、布団の上で悶えながらゴロゴロと転げ回っていたのであった。


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