第3話 ぼっち度チェックのお時間です



 神明大五郎の印象をクラスメイトに聞くと、フツーと返ってくる事が多いだろう。

 強いて言うならば、恋愛事を妙に相談しやすい奴だと。

 では、彼とかなり近しい仲の者はどうか。

 ――――即ち、頭は良いが行動力のある大馬鹿、である。


 そんな彼であるから、水仙咲夜と友人関係になった翌日の事である。

 本来ならば、朝六時におきて軽くジョギングしている筈なのだが。


(はい、という事でやってきました水仙神社!! 時刻は朝5時! いやぁ流石に境内には誰もいないねぇ……)


 そう、いつもより早起きして向かった先は水仙神社。

 途中でコンビニであんぱんと牛乳を買い込み、入り込みの準備万端である。


(うーん、しかしこれは……ストーカーっぽいね我ながらっ! でもしなきゃいけないんだ――――水仙さんのボッチ度調査を!!)


 そう、恋を教えるという事柄はともあれ。

 少なくとも一緒に青春する事はできる、しかしその前に大五郎には水仙咲夜という人物の情報が足りなさすぎた。


(いくらボッチといえど、あれだけの美人だし。僕みたいに心を許せる幼馴染みとかいるかもだし、本人的には他人扱いだけど取り巻きの子とかいるかもだし)


 当人が聞いたら、ボッチ舐めてるの? とグーで殴られること請け合いだが許して欲しい。

 今の大五郎の気質と人間関係は、リア充陽キャより。

 その認識には、天と地の差があるのだ。


(……そうか、神社の娘なら朝に境内を履き掃除する可能性があるのか。――――どこかに隠れる場所…………あ、ラッキー)


 思いがけぬ幸運に恵まれながら、バカの調査は続く。

 登校開始、通学路、そして授業中に休み時間、本人は気づかれる事なく放課後を迎え。

 ――そして、屋上である。


「………………ううっ、ごめん、ごめんよ水仙さんっ!! おろろおおおおおおん!!」


「えっ、来るなり何ッ!? なんで泣きながら手を握ってくるのよッ!?」


「僕は甘く見てた……嗚呼、君ってば、本当にボッチだったんだね!! 畜生!! こんな美人がボッチなんてなんて世の中だ!!」


「喧嘩売ってる? そう、喧嘩売ってるのね? 河原に行って殴り合いでもする?」


 額に青筋たてて怒りを隠さない咲夜に、大五郎はずずいと顔を近づけると。


「――――もう、君は一人じゃない。僕が居るよ」


「キラキラした目で言うんじゃないわよッ!? 私を哀れむんじゃない!! 地球はじまって以来の美少女に失礼だとは思わないのッ!?」


「実はね、悪いとは思ったんだけど……今日一日、水仙さんを観察していたんだ」


「悪いと思ってるならしないでッ!? ストーカーとして突き出すわよ!!」


「安心して欲しい、毎朝君が境内を履き掃除する時に遠目から望遠レンズを構えているストーカーとは話をつけてきたから。もう安心だよっ!」


「ストーカーが居たのッ!? というか何してるのよ神明くんッ!?」


「あ、これそのストーカーさんからラブレター。返事の有無に関わらず普通のファンに戻るってさ。いやー、片手間に説得するのは大変だったよ。あ、そうそう見て見て、君の写真を三枚も貰っちゃったんだ!」


「どっからツッコめばいいのよ私はッ!? というか写真は一枚しかないじゃない!!」


 何なのだ、本当に何なんだろうか。

 思いも寄らなさすぎる大五郎の一面に、咲夜としては翻弄されるばかりだ。


「そうだったごめん、残りの二枚は昼休みに売りさばいてきたよ。許してちょんまげ」


「ぶ っ こ ろ す ぞ て め ぇ!!」


「ちなみに、二枚で三万円になったよ。ただの制服姿の登校風景なのにね、君の美貌はスゴいなぁ……」


「そ、そう? それなら――ってなるわけないじゃないッ!? 何を考えてるの? アンタってバカじゃないのッ!? どんな行動力とコミュ力してるのよ、ちょっとは分けなさいったらッ!!」


「水仙さんみたいな美人に誉められると、流石にぐらっと来ちゃうね。僕にカノジョがいなかったら危なかったよ」


「誉めてないわよッ!!」


 いい仕事したぜと言わんばかりの笑顔に、咲夜は大きな溜息をひとつ。

 一歩譲って、咲夜の為だったとしても言わなければならない。


「…………アンタねぇ、ストーカーを発見したなら警察呼ぶとかしなさいよ。心配するじゃない」


「ごめん、結構かわいい子だったからさ。というか心配してくれたの?」


「私じゃない、……恋人、居るんでしょ? 危ないことして心配するでしょうが」


 思わぬ言葉に、大五郎は瞬きを一回。

 確かにそうだ、忘れていた、カノジョならきっと心配するだろう。


「…………ごめん、軽率だった」


「分かればよろしい。――はい、良い子良い子、変な所もあるけど素直なのね神明くんは」


「っ!?」


 咲夜は少し背伸びをして、無邪気な笑顔で大五郎の頭を撫でた。

 その表情に、彼は思わず見惚れてしまって。


「――――ず、随分と自然に撫でるんだね? いつも誰かにそうしてるの?」


「あ、ごめんなさい。ウチ、わんこ飼ってるからつい……」


「そういえば散歩もしてたね、大変じゃない? 毎朝、登校前に境内の掃除と犬の散歩って」


「そうでもないわ、家族で当番制だもの」


「それでも、僕はスゴいと思うな」


 頬の赤さを自覚しながら、大五郎はそっぽを向きながら言った。

 不味い、これは何というか不味い雰囲気ではないのか。


(わ、話題! 話題を変えよう!)


 久しぶりだったのだ、誰かに頭を撫でられるのは。

 一年前のあの時以降、無かった事だから。


「――――そうだね、水仙さんは晩ご飯外食しても大丈夫系?」


「藪から棒になによ、話が繋がってないわよ?」


「いやね、折角だから駅前に新しく出来た焼き肉屋でも行かないかって。ほら、軍資金も入ったことだしさ」


「…………釈然としないわね、というかそのお金って私のモノになるのが道理じゃないの?」


「友達と一緒に晩ご飯という青春はどう?」


「――――勿論オッケー!! そういうの憧れてたの!! ナイスよ神明くん!」


「そうと決まれば晩飯時までゲーセンで遊ぼう! お金はこの際だから使い切る勢いで!! ふふん、望むなら高級ブランドの化粧品のひとつでも…………いやでも足りるかな?」


「そんなの百均でいいわよ! メイクの腕とこの美貌さえあればブランド物なんて誤差よ誤差! さ、行きましょ!!」


「うーん、世の中の女性と敵に回しそうな発言だねぇ…………って、早っ!? 待って、僕というお財布を忘れてないっ!?」


 楽しそうに走り出す咲夜、その姿に重なる何かに気づかないフリをして。

 大五郎は遅れまいと走り出したのだった。


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