第32話 底辺と共演する役者様に謝罪したい


「それで、なんの仕事ですか?」


期待半分、不安半分という状態で震える声を抑えながら、一呼吸置いて、話しかける。


「ドラマ…というか連ドラ…だ。しかも通行人キャラじゃないぞ。名前つきのキャラだぞ。まじで社長の営業に感謝だな…」


「は?それ大丈夫ですか?私演技なんてしたことないので、ネット掲示板で「この女、棒読みすぎて草」みたいに叩かれませんか?」


ネット掲示板どころかSNSでめちゃくちゃバズりそう。そんなことでバズりたくはないけど。


「なんでそんなマイナス思考なんだよ。ほれ、いつもみたいに無駄に元気に騒げよ。仕事だぞ、仕事。まぁあれだ、主役じゃないんだからそんな気にすんな。どうせ毎話でてくるキャラでもないから」


落ち着けと言わんばかりに、私をたしなめる笠井さんの発言が少し気に障った。


「…逆にそこまで私の役を低く言われると心外です。見ててください、なんでこのキャラちょっとしかでてこないの?と視聴者に言わせてやりますばい」


「…ばい?まだ九州が抜け落ちてないのか」


「むしろ簡単に抜けると思ってるんですか?1週間いたらもう私の心は九州ですたい」


もう胸を張って九州を第2の故郷だと言える。


「相変わらず下手くそな九州弁だな」


だが、第2の故郷の言葉使いを批判された。


「失礼な!スタッフさんには、「ばりうまかばい」って褒められたんですけど?!」


「お世辞だな。まあ、それは置いといてドラマに向けて頑張ろうな」


解せぬ。私の九州弁が下手くそだったかどうか、近いうちに流れる放送を観させて笠井さんに解らせてやろう。


ただ、今はとにかくドラマに向けて頑張らないといけないわけだ。どんな役なのだろうか。女子高生役とか?この歳で高校生はきついかもしれないが、意外と私くらいの年齢で高校生役をやる人もいるよな〜…なんて考えていたら笠井さんから声がかかる。


「今社長から追加のメールが来てたんだが、もう始まってるドラマの追加キャストで、あかりちゃんにでてもらうみたいだ。えー…なになに、主人公の男が、以前付き合っていて、主人公に未だ想いを寄せているOL役らしい。結構いい役じゃないか」


「それはそれで視聴者からのヘイトを集めそうで嫌ですね。絶対性格悪いですよ、メインヒロインに対して主人公の裏で嫌がらせしてそうです」


月9とかだったら、めちゃくちゃ嫌われるキャラだな。昼ドラとかなら、そういうドロドロした展開が好まれるので、意外と肯定されそう。


「あかりちゃんの偏見しかないな」


偏見だ。否定できない。


「とりあえず原作の漫画があるみたいだが…読むか?必要なら一応事務所の経費で買うけど」


「読みます」


わかったと言ってキーボードを操作しだした。画面を覗くとネット通販で、全巻購入して、決済の画面だった。


「明日には届くからな」


「さすが、最速でお届け会員ですね」


ひとまず話が終わったので、笠井さんの邪魔にならないようにソファに座る。

そしてスマホを取り出し、私が出演するドラマについて調べる。


主演は…あぁ、最近人気の若手俳優だ。CMとかでたまにみかける顔だ。

一応私芸能界にいるのに、テレビの前の視聴者目線の感想しかでてこない。

ヒロインは…よく見かけ…ないな。全然知らない。ネットで検索したら新人女優とのことだったので知らないのは当然か。



…というかこの2人が私より年下だし、芸歴が短い件についてどう思えばいいのだろうか。

私は中学生からこの世界にいるので芸歴は約10年。しかも私の方が年上。

ただ芸能活動の実績という点においては、ばりばりの格下。向こうが相撲でいう、大関クラスならば、私は幕内には及ばず、十両…いや、序二段くらいだと思う。


私もだが、向こうも気まずいよなぁ。

こんな売れない底辺アイドルでも自分らより芸歴も年齢も上だと、言葉遣いとか気遣いとか大変そうだよ。

…なぜか私が申し訳ない気持ちになっていた。

ほんと、売れない底辺アイドルでごめんなさい。そう思って、うずくまっていると、一休憩しようと席を立った笠井さんに、「ダンゴムシみたいだな」と言われたので、元に戻ってドラマの検索を続ける。


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