2章
第31話 突然のできごと
「気をつけていってらっしゃいませ」
飛行機から降り、ロータリーを歩き、外へ。
そして深呼吸。
これが東京の空気…って空港の空気じゃないか。…ついこの間同じことをした気がする。
まぁ東京に着いたことだし、電車に乗って、とりあえず家に帰ってから事務所に寄ろう。
あー見慣れた地名だ。といっても通過するだけで降りたことはない駅ばかり。そんな場所を通り過ぎ、最寄り駅へと電車で運ばれる。
そこから歩くこと15分ほど。アパートに到着。
本当は実家ぐらしをしたいところだったが、働き(売れないアイドル、バイトを除く)もしない娘は実家から追い出されてしまったのである。土下座したことで、アイドルを続けることは認められた。だがしかし、実家には住ませない、という忠告を受けたのだ。アイドルを続けるために、しぶしぶ実家から出てきてたどり着いたのがこのアパートである。
家賃5万円で風呂トイレ付きと、なかなかの優良物件である。しかも築年数が古いわけではない。駅から少し遠いが、私は睡眠を、電車のガタンゴトンという音で妨げられたくないので致し方なし。
だが、実家からは追い出されたものの、勘当されたわけではないし、少々の仕送りを頂いているので、あのとき2度下げた頭をそのまま擦り付けるくらいには母親に感謝している。なんなら靴を舐めろと言われたら舐めるくらいに感謝している。
荷物を置き、最低限の持ち物を用意する。今着ている服を着替えてからアパートを出る。ジャージに、スニーカー、そしてリュックというオシャレ感が全くない格好で駅へ向かって走り出す。
「おはようございまーす」
「おう、なかなかよかったらしいじゃないか、あかりんごちゃん」
「その呼び方…もう執行猶予つかないですよ」
「相変わらずトークの切り返しはバッチグーよ」
「じゃあトーク番組の収録はあるんですか?」
「残念ながら…ない」
うちの事務所の現状は、相変わらずだったようだ。やはり仕事はそう簡単に取れないものだと実感する。
「すまん、でるな」
と、笠井さんはポケットからスマホを取り出し席を立つ。
「はい、お疲れ様です。あ、社長、お疲れ様です。はい、はい…わかりました。はい、こちらから送っておきます。かしこまりました、はい、お疲れ様ですー、はい失礼します」
「あの、社長からの電話なんでした?」
「…よかったな。トーク番組じゃないが、テレビの仕事が入ったぞ」
驚いたような表情で声をかけられた。
「…え?まじですか」
それにつられて、私も驚いた。いやいや、冗談ですよね?という表情を浮かべて問いかけてみるが、マジだと真剣な声で応えられた。
約3年間、テレビのお仕事がなかったのに1件獲得してから早数ヶ月。
そう簡単に現状は変わらないと思っていたら突然に変わるものらしいです。
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