この中にひとり

バブみ道日丿宮組

お題:イギリス式の馬鹿 制限時間:15分

この中にひとり

 失礼しますと、教室内に一人男子生徒が入ってきた。

 その男子生徒は、黒板の前まで移動すると、

「この中に一人妹がいます」

 と、高らかに宣言した。

 ざわつく教室内だが、一人だけびくんと反応したやつがいた。つまりそいつが妹ということなのだろう。

「いますぐ出てきてください。そして家族会議をします」

 兄らしい生徒は、黒板前で言葉を続ける。どうやら兄に妹の姿は発見できないらしい。あからさまに反応してたというのに、気づかれなかったようだ。

 あれか、一緒に住んでないとか?

 そうだとしても今更じゃないか? もう高校生活も3ヶ月過ぎてる。さすがにそれまで放置ということはないだろうよ。

「ここは男子校で女子が通っていい場所じゃない。何かあったら、困るのはお前自身というのを理解して欲しい」

 兄の言い分は正しかった。

 男臭い教室の中に女がいるとなれば、それだけで興奮するやつが後をたたないだろう。かくいう俺も人のことはいえない。

 とはいえ、反応したやつとは交流があるほうだ。

 着替えも一緒にしてるし、女という認識はなかった。

 確かに見た目は、女の子っぽいまるっとした輪郭で、唇もいつも輝いてた。髪型はよくあるショートヘアだ。笑うと可愛らしいなとは思ったことがある。

 だが、ここに通学してるなら、

「気のせいじゃないか?」

 妹の代わりに俺が兄へ言葉を投げる。

「いえ。ここにいると連絡がきたので」

「本当に妹なら、見たらわかるんじゃないか? さすがに高校になるまで見たことがないなんてことはないだろうよ」

 当然のことだ。

 兄妹とは、毎日顔を合わすものだ。

 バスルームで遭遇したり、部屋で着替えを見られたり、そんな甘酸っぱいようなイベントがある生活が待ってるものだろうよ。

「いえ、最近両親が再婚しましたので、新しい家族として妹ができたんです」

 なるほど。

「それでも家族として会わないか普通?」

「会いました。なぜか馬の仮面をつけてましたけど」

 顔は知らないということか。

「一緒に住んでないのか?」

「妹は寮ぐらしです。そのため交流はありませんでした」

 じゃぁどうして今になってきたんだ? という疑問はすぐに回答がきた。

「父親がぽろりと漏らしましてね。それで問い詰めたら、同じ学校にいるってことがわかったんです」

 名字が違うのか? 名前が違うのか?

 見つけられない要因が見つからなかった。

「どうやら、この教室にはいないようですね。お時間失礼しました」

 ぺこりと頭を下げると、男子生徒は出ていった。

 その後は、やかましいぐらいに教室内は騒がしくなった。

 いるらしい妹は一体誰なのか。

 その答弁は、教師がくるまで続いた。

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この中にひとり バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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