第25話「元最強陰陽師、運河を開通する」
極めて強大な魔神であるアスモデウスとの遭遇の数日後、俺は運河の開通式に参加していた。一応来賓扱いで席も用意されている。日本において従五位下の位を正式に受けているという事もあるので、貴族扱いという事になったのだ。異世界の階級が通用したのは、カナデの口添えもあったからである。
そのカナデは、エルフの姫と言う立場があるので、俺よりももっと上の席次で参加している。
また、クロニコフは、同じマザール家の人間が分家とはいえ国家から正式な役職を任じられたものが参加するので、学生の立場をわきまえて不参加である。それに
仲間の間で身分による差が出来てしまうのは残念だが、これもこの世界の仕来りなので仕方がない。身分は元居た世界にも存在したし、俺はどちらかというと高い身分による権利を享受してきた側なのだ。もちろん責任も果たしてきたが。
ダイキチ達も魔術学院を卒業して魔術師としての能力を果たせば、高い地位に就くことは可能らしい。そこら辺のところは結構流動的なのだと聞いている。
とまあ、式典に正式に参加しているのは俺とカナデなのだが、服装は陰陽師の道服である。もっと貴族っぽい衣装にするべきという意見もあったのだが、魔術学院の学生と言う立場もあるため、道服で参加するという意向は通った。日本でも学生は制服が正装として扱われるのと同じことである。
ファンタジーな光景の中に、和風の陰陽師が混じっているのはどこか滑稽な光景かもしれないが、異世界においても陰陽師としての誇りを崩すつもりはない。TPOでどうしても遠慮してくれと言われたら、もちろん従うつもりではあるのだが。
式典は元居た世界の様に、テープカットをしたりすることはない。
その時、人柱は使わないのかと聞いたところ、ユルスやジェイスにはドン引きされてしまった。この世界ではそういった魔術は一般的ではないようだ。
カナデが人柱を使った魔術について興味を抱いたようで、詳しく聞かせてくれとせがんできたのだが、ジェイスが姫様に余計な事は教えないでくれと懇願してきたので、教えてはいない。
もちろん俺としてもあまり残酷な魔術は広めたくない。
「ほう? 魔術で水を通すのか。面白い」
精霊への祈りが終わったようで詠唱が最高潮に達すると、それまで水を堰き止めて来た土の堤防が自然と崩れ始めた。元の世界だと鍬で土の堤防を崩したり、水門で堰き止めておいて開いたりするのだが、魔術の存在が知れ渡っているこの世界らしいやり方である。
「どうだ? 蠱王。魔力の流れは変わったか?」
懐にいる式神である蠱王は魔力の流れに敏感だ。運河の開通による魔力の流れの微妙な変化を感じ取ってくれるはずだ。
運河の開通による風水の影響で、魔術学院において陰陽道が行使しやすくなると予想しており、このためにわざわざこの地まで足を運んできたのだ。
「主よ。予想通り変わっております。恐らくバナード魔術学院が四神相応の地になっていると思います」
「ふう。何とかなったな。後はアスモデウスも……」
「はい。その内消え去るでしょう」
運河の開通を急がせたのは、魔術学院の風水のためだけではない。この近くの山には風水の影響で、魔神アスモデウスが召喚した魔術師が死んだ後も残っていた。彼は元居た世界に戻りたがっていたが風水の影響で魔力が自然供給され、その場に縛り付けられていた。
そのままにしておけば、通りかかった者は全て屠られたことだろう。仮にこの世界の実力者が討伐に向かったとしても、勝利するのには多大な犠牲を払ったはずだ。
だが、運河の開通により地形が変わったことで魔力の流れは、アスモデウスの居る山に集中しなくなったはずである。
数日経ってから確認しに行けば、消滅しているのが確認できるだろう。
アスモデウス召喚やそれに伴う運河開通の遅延は、この地を治めるミリグラム伯が引き起こしたことである。自らが召喚したアスモデウスに殺害されたので、その報いは受けたのだがアスモデウス等の始末は残っていた。そのため、ミリグラム伯の従兄弟であるヘクトル卿に、一族に累が及ばないことを条件に早期解決に協力させたのだ。
運河開通の推進や、魔王復活に関する企ての捜査への協力についてである。
ただ、魔王復活に関しての調査は魔王調査隊が専門的に執り行っている。なので、俺の関心事項は専ら、元の世界への帰還魔術の完成である。風水を変えた事で完成に近づいたはずだ。後は、アスモデウスに聞いた天文学の知識による天体の運行の力を、術式に取り入れることが重要である。
元居た世界への帰還が近くなったのを予感し、自然と心が弾むのであった。
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