第20話「元最強陰陽師、城に潜入する」
「ペペルイの森からの使者、カナデ=ペペルイ様がご到着されました。開門!」
城の門番が大声を張り上げて開門を促した。金属で補強された重そうな扉が音を立てて開いていく。俺を先頭にミリグラム伯の城の中に入って行く。
ミリグラム伯の居城への侵入方法、それは正攻法で入ることだった。
カナデはペペルイの森を支配するエルフの姫で、この町はそのペペルイの森と商売上の付き合いが多い。そして、今回開通予定であった運河はペペルイの森のエルフにとっても商売に役に立つ物であり、喜ばしいものである。つまり、エルフの長の一族から祝賀の使者が来たとしても何もおかしくはないのだ。
なので、この町に拠点を構えるエルフの大商人ジェイスに頼んで城に連絡を入れてもらい、急遽カナデが使者としてやって来たので城で受けれてもらうアポイントメントを取ったのだ。ジェイスは城に商品を卸している関係で城に知り合いが多い。
こういうのは、直接カナデが城に依頼するよりも、間に双方の共通の関係者を使い、エルフの姫が急にやって来たので、ジェイスとしても困っていますと言う体で頼んだ方が理解を得られやすい。
相手としては、姫のわがままで困っているジェイスに貸しを作るという思惑があるのだろう。
カナデ姫御一行の先頭として俺が行き、後にカナデがダイキチやアマデオを引き連れている。カナデ達はいつもの陰陽師の道服ではなく、ドレス等の礼服を身に纏っている。外交使節に近い立場であるため、それに相応しい服装が必要だからだ。
余計な事を考えていると、案内してくれる城の者がどんどん進んで行くので慌てて追いかける。これからやましいことをするのだから、最初はスムーズにしなければならない。
なお、クロニコフはこの一行には入っていない。名門マザール家の御曹司である彼が混ざると、ペペルイの森からの挨拶だという設定が怪しくなってしまうからだ。
ダイキチやアマデオの種族はペペルイの森に暮らしていて、カナデの一族を盟主と仰いでいるのでお付きとしての説明は付くし、俺はこの世界では表立って知られた存在ではないので、単なるお供か召使として説明が付く。
「こちらです。ミリグラム伯代理のヘクトル卿がお待ちです」
しばらく城の中を進むと、城内の一室に案内された。中にはいるとソファーに豪華な服を着た、中年の男が座っていた。神経質そうな顔をしているその人物が、体調不良とやらで公式に出てこれないミリグラム伯の代理を務めているヘクトル卿であろう。彼はミリグラム伯の従兄弟にあたると聞いている。
ヘクトル卿はすぐに立ち上がると歓迎の言葉を長々と述べ、ソファーを勧めてきた。
このような部屋を会見の場に選んだという事は、これは公式ではなく準公式くらいに位置付けているのだろう。ヘクトル卿は代理だし、こちらもカナデは正式に一族の代表に指名されて来ているわけではないので、これは予想通りだ。逆に公式の場を設定されてしまうと、これから動きがとりずらくなるので願ったりかなったりだ。
カナデは日頃からのペペルイの森とミリグラム伯領の交流について感謝を述べ、運河の工事が完了したことについて祝賀の辞を述べる。
それに対してヘクトル卿は謝意を表し、これからもミリグラム伯領とペペルイの森との変わらぬ交流と、相互の繁栄について述べた。
この辺はお決まりの社交辞令というものである。
儀礼的な事が終了すると、ティータイムになった。城の使用人たちがこの世界のお茶や菓子を次々と持ってくる。この流れになるのも予想通りである、と言うよりもこのような流れにするためにこの昼食と夕食の間の時間を指定したのだ。
「カナデ様はバナード魔術学院でも優秀な成績であるとか。流石ペペルイの一族ですな」
ティータイムの世間話として、ヘクトル卿がカナデの学業について褒めた。これは単なる阿諛追従ではなく、本当にカナデは優秀な魔術師である。陰陽道の腕前はまだまだだが、筆記試験はトップクラスだし、元素魔術なら学生の中では並ぶものがいない実力者だ。これは学院でのカナデの学生生活を見てきた感想である。しかし、なぜカナデは陰陽師になろうとしているのか分からない。元素魔術ならすでに一人前だし、この世界では元素魔術が主流なのでそれが出来ていれば問題ないはずなのだ。
「ところで、ミリグラム伯のお加減はいかがですか? ここ最近公式に姿を現さないとか。 それ程悪いのですか?」
世間話の一環として、カナデが疑問を投げかけた。
「いえいえ。そんなに心配するほど悪い訳ではありませんよ。恐らく工事の指揮をしていて体調を崩したのでしょう」
ヘクトル卿は顔色を変えずに返答してきた。嘘かどうかは判断しかねる。
「そういえば、その工事で出来上がった運河ですが、開通が待ち遠しいですね。これが開通すれば我がペペルイの森の交易も更に活発になるでしょうから」
「は、はは。その通りですな」
ヘクトル卿の顔色が少し悪くなったように思える。どうやら運河の件についてあまり触れられたくないようだ。
とは言っても会話で情報を聞き出すのは、これ以上あまり期待は出来ない。上手く誘導すれば可能かもしれないがそれでは警戒を強めさせてしまう。
「すみません。トイレはどこですか? お茶がおいしくてお代わりをし過ぎました。出来れば案内してください」
「ああ、そうですか。これ、案内しなさい」
ヘクトル卿は使用人を案内につけてくれた。当然、案内だけではなく余計な事をしないように見張る、監視の意味もあるのだろう。だから、ヘクトル卿の警戒を解く意味もあってこちらから案内を頼んだのだ。
実のところ、この城に御用商人として出入りしているジェイスに、内部構造を可能な限り教えてもらっているので、トイレの場所は最初から知っている。それどころかミリグラム伯の部屋も把握しているのだ。
「それではどうぞ、おすましください」
「はい」
トイレの個室に入ると素早く懐から紙で作った人形を取り出し、素早く小声で呪文を唱えるて魔力を注ぎ込む。俺は現在この世界が体質に合わないせいで魔力が枯渇状態なのだが、この人形には元の世界にいた時に魔力を込めている。そのおかげで最小限の魔力で魔術が発動する。
俺の目の前に俺とそっくりな人間か現れた。いわゆる式神の術の一種である。遠隔操作したり喋らせることも可能である。
怪しまれないように一応便器に座って用を足すと、式神だけを個室の外に出し、使用人と一緒に応接室に向かわせた。
更に懐から札を1枚取り出し、別の呪文を唱えた。すると、俺の体が透き通っていき、すぐに完全に透明になった。今度使用したのは、「
さて、捜索と行きますか。
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