第19話「元最強陰陽師、エルフの館に宿泊する」
ミリグラム伯の居城は学院の東にあり、大体半日位歩いた地点に存在している。道はよく整備されているため、あまり疲れることなく歩くことが出来た。
あまり歩かない現代人に属する俺だが、戦闘陰陽師として体は鍛えているため問題なく歩きぬくことが出来た。
他のメンバーは、森での野外活動に慣れているエルフのカナデは全く披露する様子は見せなかったし、
しかし、坊ちゃん育ちのクロニコフや
そのような状態で役に立ったのが、最近作成した錬丹、ういろうである。これは食すると疲労がポンと回復する優れもので、しかもダイキチが適当に混ぜ込んだ甘味が絶妙のうまさを引き出しているため病みつきになりそうな逸品だ。
朝早くから学院を出たのだが、ミリグラム伯の居城が存在する町に到着したのは夕方位になっていた。
「さて、到着したわけだが、どうする? このまま城に入って事情を聞くか?」
俺としては早い所運河の開通式をやってもらって水の流れを作ってもらわないと、風水の力を借りて元の世界に戻る魔術を成功出来ないのだ。要件が早く片付くならそうしたい。
「城に入れるかどうかは、やってみないと分からないわね。クロニコフの実家の力や、私の国の力の事を考えると、客人として迎い入れらる可能性はあるけど、あっちにやましい所があるのだったら無理だし警戒させてしまうかもね」
「そうだよ。それにミリグラム伯にやましい所が無くても、突然押し掛けて行くのは失礼にあたるからやりたくないな」
それはそうだろう。事情があれば別だが、普通最低でも半日、場合によっては数週間前には通告しておくものだろう。もしも元の世界で、他の流儀の魔術師が我が
「とりあえずこれから、私の知り合いのところに行きましょ。ここなら泊めてくれると思うし、今後の対策を練るのにちょうどいいわ」
カナデの提案の通り、知り合いだという人物の家に向かうことにする。
カナデの案内で進んで行くと、閑静な住宅街に入って行った。地面は石畳で舗装されていて、壁にも落書きなど一つも無く、高級住宅街であることは良く分かった。
しばらく歩くとある屋敷の前に到着した。高級住宅街の中でも一際大きな屋敷で、さらに特徴的な事として塀が生垣で出来ている。また、屋敷の壁には一面蔦で覆われていた。
カナデは進み出ると精密な彫刻が施された扉をノックした。しばらくすると扉が空き、ダイキチの様なケットシーが現れると中に招き入れた。
「姫様、応接室でお待ちください。ジェイスはゲイツはもうすぐ戻る予定です」
ケットシーは丁寧な口調でカナデとそれに付き従う俺達を案内してくれた。彼は作法をよく訓練されているらしく、ダイキチとは大違いの態度だ。というか、ダイキチと違って語尾に「にゃー」が付かない。ケットシーは全員語尾に「にゃー」をつけるのではないようだ。
俺達は応接室でしばらく待った。俺としてはこの世界の調度品のデザインに興味があるため、じっくりと見ていたが、皆疲れてソファーでうつらうつらとしている。
「「来た」」
俺とカナデの声が被った。この応接室に向かって来る気配と足音がする。この部屋に向かって来る人自体は、さっきから飲み物などを運んでくれる者達が出入りしていたのだが、今この部屋に来るのはそれとは違うものを感じ取った。
「姫様、ご機嫌麗しく存じます。このような所まで足をお運びいただき、誠にありがとうございます。我々がこうして商売をしていられるのも、ペペルイ一族の恩恵の賜物だと……」
「ジェイス。挨拶は良いから。本題に入ります」
「はぁ。それは構いませんが」
応接室に入って来たこの館の主であるエルフの男性、ジェイスの挨拶をぶった切ってカナデが即座に本題に入った。
「運河の開通式が行われない理由を知りたい。場合によってはミリグラム伯に確認したい。ですか? そうですか」
ジェイスは要件を聞いて考え込んだ。
「実は、ここ数日ミリグラム伯は姿を見せていないのですよ。開通式の予定日の少し前からです。普通なら町の様々な行事や社交の場に出て来るはずなので、皆どうしたことかと噂していたのです」
「城から何か情報は得ているのですか?」
「それが体調がすぐれないの一点張りで、実際どうなのだか」
妙な話ではあるが、数日位ならあり得なくもない話だ。
「でも、怪しいわね。何とか城の中に入って情報収集できないかしら」
「うーん。どうでしょうね。城に卸している商品の中に紛れ込むとか、不可能ではありませんが」
「その方法だと私は無理ですね」
オーガのアマデオがキッパリと言った。まあ潜入捜査に巨人を使う馬鹿はいないだろう。
「となると」
皆の視線がダイキチに向かう。ダイキチはデブ猫のように見えるが、ケットシーであるため人間に比べるとかなり小柄だし柔軟だ。それにデブ猫に見えるのもモフモフの毛による印象の可能性もある。要は潜入に向いているという事だ。
「え? 僕がやるの?」
ダイキチは嫌そうな顔をしている。まあもし見つかったらただでは済まないのだから、単独行動などしたくは無いのだろう。
「いや、俺に別の案がある。これはある意味正攻法なんだが、いいか?」
ダイキチを助けるわけではないが、俺が思いついた案を説明する。
「いける……か? いや、出来ますな。流石異世界の魔術師といったところですかな」
「俺の事を知っているのか?」
「はい。仕事ですから」
応接室で待っている間にカナデが教えてくれた事によると、ジェイスはこの町の大商人の一人だが、カナデが生まれたペペルイの森のエルフから外交官的な役割も持たされて派遣されているという事だ。
だから、この屋敷にはペペルイの森に住まうエルフ以外の種族であるケットシーなども勤めているのだ。
そして、外交官というのは情報収集の役割も有するのが普通だ。彼の情報収集の任務の範囲にはバナード魔術学院も含まれており、そこに通う一族の姫であるカナデの周囲の事も収集しているのだろう。
という事は、カナデが召喚した(厳密には違うが)俺の事もしっかり調べているのだろう。
「まあいいや。それではジェイスさん。今から下準備をお願いします。私たちは明日の昼から動きますから」
「分かりました。それでは姫様、彼の言う通りに準備致しますのでこれで失礼します」
俺の頼みを承諾したジェイスさんは、カナデに暇乞いをすると部屋を出ようとした。
「そうそう。その服装を見ると姫様はまだ陰陽道などやろうとしているのですか?」
「あなたには関係ないことでは?」
「どうですね。失礼いたしました」
頭を下げたジェイスは部屋から姿を消した。
ジェイスの言葉の意味を聞きたかったのだが、カナデの顔つきはいつになく険しく、結局聞きそびれてしまった。
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