第11話「元最強陰陽師、魔力回復食を試してみる」
バナード学院長との面会が終わった時、魔術談義に花が咲いたせいか既に時刻は夜になろうとしていた。
話過ぎて腹がすいたので、すぐにカナデと食堂に向かい夕飯を共にした。カナデに聞いたところこの世界でも牛や豚が食用として用いられるとのことであり、安心して食べることにした。
ただ、元の世界なら食事をしているだけで魔力が回復していくのに、この世界に来てから目に見えた回復が見られないのが気になるところだ。
自然回復に期待できない以上、魔力回復の手段を何か考えねばなるまい。
そんなことをカナデに話しながら夕飯を終え、今日のところは分かれてそれぞれの行動に移ることにした。カナデは魔王の話題以来気分が悪そうなので、俺の陰陽師研究に付き合わせるのは遠慮したのだ。
そして、部屋に戻る前に学院の天文台に寄り、天文台の管理人に挨拶をした。正式に天文台を統括している魔術師は現在出張中のため今夜いるのは臨時の代理人であり、この世界の天文学について話を聞くことが出来なかったが、天文学に関する本を借用することが出来た。
今夜は雲が星空を覆い隠しており、明日まで晴れることが望めないため本を借りることだけで満足することにした。観天望気も陰陽道の一部であり、俺は天気予報もある程度なら可能である。まあこの世界の気象学に関しては分からない点も多いのでまた新たに学び直さなくてはならないのだが、雲の匂いを嗅げば晴れか゚曇りか位なら問題なく分かる。
天文台を後にして寮の部屋に戻った後、ダイキチの看病を終えて戻っていた同部屋のクロニコフにこの世界の天文学について所々質問しながら本を読み進め、切の良い所で眠りについた。
なお、天文台で借りたこの世界の本は、日本語、ラテン語、サンスクリット語等が混じって書かれていた。
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夜が明けた。
この世界に来て3日目の朝である。窓を開けて外を見るとまだ雲は残っており、これは明日まで続くことだろう。
今日は天体の観測に向いた気象ではないため、他の観点からこの世界に適した陰陽道を研究するのが良いかもしれない。
顔を洗うとクロニコフと共に朝食を取りに食堂へ向かった。
食堂に到着すると先客が何人かおり、いくつかのグループに分かれて座っていた。グループごとに服装の系統が異なっており、基本的に同系統の魔術を専門とする者で別れているようだ。
その中に、陰陽師の服装の者が3人集まっていた。その中の2人は見知った顔である。
1人目はエルフの少女カナデ、昨日に比べると表情は明るく、気分は良くなったようである。
2人目は
3人目は3メートル近い巨人で頭には短い角が生えていた。
(誰だこやつ? あ、そういえば2日前に教室で見たことがあるような気もするぞ)
「初めまして。私はアマデオ=ペペルイ=デルカダールと言います。種族は
俺の表情を察したらしく、巨人……オーガのアマデオがその厳つい外見からは想像できないほど丁寧な自己紹介をしてきた。
「これはご丁寧に、私は
ペペルイはカナデの氏族名である。何故オーガのアマデオがペペルイを名乗っているのだろう。
「アマデオの出身部族はペペルイの森に棲んでいるんだニャー。それでペペルイの森を支配しているカナデの実家の傘下に入っているんだニャー。それにアマデオはオーガ
なるほど、日本における魔術師でも武士でも、それと似たような主従関係は珍しくない。この世界でも同じような制度があるのだろう。しかし、話し方からアマデオが高い知性を持っているのは分かるのだが、オーガ一の切れ者と言われても、三国志でいう所の南蛮一の知恵者とかと同じ様な印象をもってしまう。
それに、2足歩行をする猫であるダイキチとオーガのアマデオが並ぶと、まるで長靴をはいた猫のようである。まあ、ダイキチよりもアマデオの方が賢そうな印象があるのだが。
「つまり、この二人はカナデさんのお付きも兼ねてこの学院にいるんですか?」
「いいえ。それぞれの実家は関係ありません。この学院に入学する前に森で陰陽道を使える若い世代に声をかけましたが、それはあくまで私の独断です」
名門魔術師のクロニコフは取り巻きを連れていた。エルフの族長候補であるカナデも同じ様にダイキチ達を取り巻きにしているのかと思ったのだが少し違うようだ。キッパリと否定されてしまう。
「まあいいや。陰陽道を学ぶ同志に違う世界でも出会えてうれしいよ。とりあえず食事にしてこれからの事は終わってから話し合おう」
腹もすいているので、食事を注文しようと注文口に向かおうとしたところ、カナデに呼び止められた。
「待って。魔力が回復していないんでしょう? アツヤに良い物があるわ」
カナデは傍に置いていた袋から様々な食材を取り出した。その内容は……
「イモリの黒焼き、カエルの目玉のゼリー、マンドラゴラのサンドイッチ……なるほど!」
カナデが取り出したのはいずれも魔力回復に良いとされている食材を使用した料理である。
自然回復に頼れないなら強制的に回復させる。考えてみれば当たり前の結論である。
「うわ……これはちょっとやばいね……」
クロニコフは元々白い顔をさらに蒼ざめさせて引いてしまっている。名門のお坊ちゃんには少し刺激が強すぎるようだ。
「ふっ。都会暮らしにはちょっとばかしきつかったかな? でも一流の魔術師になる為にはこの位の事で動じてはいけないぞ? 見た前、ペペルイの森出身の陰陽師達の姿を」
カナデがこういったゲテモノに動じないのは、森で暮らしていたので慣れているためだろう。ならば当然同じ環境で育ってきたダイキチ達も同じはずだ。
しかし、
「ニャー。僕はこういうのは苦手だニャ」
「私もですね」
ダイキチもアマデオも反応はクロニコフと同様であった。どうやら彼らは森暮らしでも箱入り猫や箱入り鬼であったらしい。
情けない奴らめ。
「ふむ。まあ構わないさ。さあ、皆食事を持って来いよ。食事にしようぜ」
全員朝食を持ってくると、陰陽師グループプラスクロニコフで朝食が始まった。
他の皆は食堂で作られたものを食べるのだが、当然俺はカナデが持ってきてくれた特別食を口に運ぶ。
魔術学院といえどもこのような食材は珍しいらしく、他のテーブルからも遠巻きな視線が飛んでくる。
「結構いけるな。それに魔力が丹田に溜まっていくのを感じるぞ。ダイキチ、少し食べてみるか? ケガの直りが早くなるぞ?」
「いらないニャ! もう治ったニャ!」
「私少し貰うわね。あまり味見も出来なかったし」
俺の勧めを全力で拒否するダイキチを尻目にカナデがカエルの目玉のゼリーをスプーンですくい、何のためらいもなく口に運んだ。やはりこの子はただのお嬢様ではないらしい。
そして、魔力回復の効果は本物で、完全回復には程遠いものの、この分なら3日も食べ続ければ、元の世界へとつながるゲートを小さなものなら作ることが出来るだろう。
「ホント、意外とおいしいわね」
「毒とかないのかなニャー?」
「毒? あったとしてもちゃんと処理すれば問題ないよ」
今回の食材だと、(俺の世界と同様なら)マンドラゴラに毒が含まれているはずだ。しかし、その毒を人体に影響を及ぼさないようにする方法も魔術師の中には伝わっており、カナデが持参したマンドラゴラもその処置がされていた。
「うん? 毒か。毒ね」
「どうしたんだい? やっぱり何かの毒にあたったのかい?」
「やっぱりって何よ」
周りで色々言っているが構わず思考を継続する。現在俺は魔力が低下しているため魔術が弱体化しており、元の世界に帰れないだけではなく、戦いになった時非常に不利である。元の世界に戻る前に死んでしまっては何にもならないのでこれは防がなくてはならない。
「いいことを思いついた。今日の陰陽道講座は「蠱毒」だ。後でやるから手伝ってくれ」
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