最強陰陽師異世界旅行 ~弱体化した魔術を駆使して元の世界を目指す~
大澤伝兵衛
プロローグ
上も下もない空間の中、小山ほどもある巨大な敵と対峙していた。
敵は複数の角の生えた頭を持つ獣の外見をしている。まるで黙示録の獣のようだ。
この獣は最初から獣であったわけではない。世間一般には秘匿されている魔術を、広く知らしめるべきだという趣旨の団体、「世界魔術啓蒙団」の団長の変わり果てた姿だ。
もっとも、魔術を知らしめるというのは賛同者を募るための建前に過ぎない。団長を含めた主要幹部の目的は魔術至上主義による世界征服であった。
そして、表向きの趣旨に賛同した全世界の魔術師の3分の1を率いて、魔術師の主流である世界魔術協会に戦いを挑んできたのだ。
当初は世界魔術協会側の足並みが揃わなかったことなどから、世界魔術啓蒙団は優位に戦いを進めてきたが、次第に協会側が盛り返し、啓蒙団に騙されてきたことに気付いた一般魔術師の離反が相次いだことにより啓蒙団は本拠地に押し込まれ、今日決着がつこうとしているのだ。
目の前の獣は、団長以下主要幹部及び、最後まで騙され続けた下級の魔術師が、魔術の奥義により合体して誕生した禍々しい存在だ。
こいつを逃せば世界に死と破壊をまき散らすことは明白であり、この場で仕留めなければならない。既に先陣を切った、アメリカとEUの魔術協会の合同チームはこの獣との戦いで壊滅状態である。陰陽師一門の次期頭領であり日本魔術協会を率いる俺が負ければ、最早こいつを留めることは難しいだろう。
「来たれ十二天将! わが身に宿りてその大いなる力を貸せ!」
懐から取り出した多数の札を、高く掲げて魔力を込めると、この体に普段では考えられないほどの魔力が蓄積されていくのを感じた。十二天将は一柱でも強力な式神である。一般的な魔術師では一柱ですらその身に宿すことなど不可能であろう。
陰陽道の奥義を極めた俺だからこそ可能な魔術である。また、この空間は俺が率いてきた陰陽師達の魔術により構成されている。この魔術空間では陰陽道の魔術法則が最も発揮しやすく、逆に敵の魔術はその効果が阻害される。
彼らのサポートが無ければ、十二天将を同時にこの身に降ろすことなど不可能であっただろう。
「行くぞ! 陰陽五行、全てを相克させて消滅するがいい!」
何もない中空を駆け、俺は獣に向かって突撃した。獣は迎撃しようと炎を吐き出してくるが、そんなもの俺の体に触れようとした瞬間消え去ってしまう。
「ウリャァァァーー!!」
気合一閃、炎を吐き出す獣の口に飛び込み、体内に入った瞬間にすべての魔力を解放する。
十二天将は、それぞれ陰陽五行のこの世を構成する全ての要素を象徴している。全ての要素を持っているという事は、全てを対消滅させることも可能という事だ。
獣は光に包まれると、まるで最初から存在しなかったかの如く、その姿を完全に消滅させた。
「ふ~」
いつの間にか空間は元に戻り、地面に足を着けると一息ついた。
周りには魔術空間を維持してきた陰陽師一門の部下達の姿が見える。皆一様に勝利を喜んでいるのが見て取れる。
「若! やりましたね!」
「流石です! 魔術協会万歳!
俺に向かって駆け寄りながら、口々に勝利を称えている。
それに向かって軽く手を振って応えるが、内心勝利を素直に喜ぶことは出来なかった。
魔術啓蒙団の団長や幹部を倒す時、同時に騙されただけの魔術師たちも共に消滅させてしまった。彼らは騙されただけとはいえ、この混乱への責任はあるしこちら側も何人も死んでいる。また、最早彼らを救う手段はなく、こうするより他になかったのだが、そうだとしても完全に割り切ることなど出来ない。
強力な魔術を行使したことによる魔力の枯渇、そして、心のどこかに吹く風が俺を虚しくさせるのであった。
(ああ。何処か遠くに行ってゆっくりしたいな)
魔術大戦と呼ばれた事件の最終局面の事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます