妖怪 握力発信男
@321789
握力発信男
プルルルル、プルルルル、着信音が鳴り響く。スマホの画面を見ると、知らない番号からだった。どうせ間違い電話だろうが、一応でてみた。
「はい、田中です。どちら様でしょうか?」
「俺は、握力発信男。今の握力は30kgだ。」プー、プー、プー…
んっ?なんだ今のは?いたずら電話か?まあ、いいか… 視線をテレビに戻す。
30分くらい経ったころだろうか、またもや着信音が鳴り響いた。さっきと同じ番号からだった。
「はい、田中です。あのー、すみません。もしかしたら番号勘違いされているのではないですか?」
「俺は、握力発信男。今の握力は今の握力は50㎏だ」
「ちょっと、」プー、プー、プー。
何なんだ、一体。面倒くさいな。
さらに30分後、着信音が鳴り響く。本当に何なんだ。イライラするな。一言言ってやろう。
「いい加減にしてください。なんなんですかあなたは!」
「俺は、握力発信男。今の握力は、エラーだ。」プー、プー、プー。
何なんだ、この人は。お前の握力なんか知ったことか。なんで人に自分の握力を言うんだ。意味が分からない。
んっ?待てよ。最初に電話したときからどんどん握力強くなってないか?どうでもいいかそんなこと。頭使うのがもったいない。
そうこう考えていると、またもや着信音が鳴り響いた。
出るべきか?いや、出なくていいだろ。どうせまた「俺の握力は…」とか言ってくるんだろ。くだらない。いたずら電話に付き合っている暇はない。ほったらかしにしておこう。
30秒ほどで、電話は途切れ、もうかかってこないだろと思っていた。しかし、その直後、5㎞先の人にも聞こえるんじゃないかと思ってしまうぐらいバカでかい着信音が部屋中に響き渡った。あまりの音の大きさに思わず電話に出てしまった。すっかり聞きなれた男の声だった。
「俺は、握力発信男。ところで、お前の握力は何㎏だ?」プー、プー、プー。
えっ?と意表を突かれたと同時に、後ろに人の気配を感じた。後ろを振り返ると、そこには身長1m70㎝ぐらいの男がこちらを睨んで立っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ]殺される。逃げようと思ったが、床に強力な引力でもあるかのように全く身動きが取れなかった。
恐怖で身がすくんで動けないでいると、男は手に持っていた握力計を差し出して、
「これでお前の握力を計れ」
「えっ?」
「んっ?聞こえなかったか?これで握力を計れと言ったんだ。」
「何をもたもたしているんだ!早くしろ!」
「ど、どういうことですか…」
「わからん奴だな。何度も言わせるな。握力を!!計れと言ってるんだ!!!」
恐怖と困惑とで感情がぐちゃぐちゃだ。何を言っているんだこいつは。そもそもどうやって家に入ってきたんだ?鍵はちゃんとかけたはず。
「いい加減にしろ!!さっさと計れ!!」段々と語気を強めながら男は握力を計れと要求してくる。どんだけ握力計らせたいんだ。でも、暴力を振るってくるわけでもないし、適当に握力計ったら帰ってくれんじゃないか?そう思って
「分かりました。計ります。」と言って、男から握力計を受け取った。
「さあ、さっさと計れ。」と男。
思い切り右手に力を込める。恐怖で体がこわばっていたせいか、全力を出すことができなかった。握力計を見ると、42㎏だった。
「よ、42kgです。…」もういいだろう。早く帰ってくれ。そう思った。だが、男は帰る素振りを見せるどころか、怒りの表情を浮かべ、
「何っーーーーーーーーー!!!!!たったの42kgだと!?この軟弱者が!!それでもお前は男か!俺が鍛えなおしてやる!!」
はっ?鍛えなおす?何を言って…と、その刹那、信じられないことが起こった。
ランニングマシン、ベンチプレス、エアロバイク…たくさんの運動器具たちが目に飛び込んできたのである。なんだ、何が起こった?ここは、どこなんだ?辺りを見回す。そこには、限りなく、ただ限りなく、白い世界が広がっていた。
すると、どこからともなく男がやってきて、
「はっはっはっ。どうだ田中!中々良い物が揃っているだろう。今からお前はここで握力が50kgになるまで鍛え続けるのだ!!覚悟しろ!」
訳が分からない。ただただ訳が分からなかった。
おしまい
妖怪 握力発信男 @321789
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