第4話    (12月 4日のおはなし)

「あのなぁ! ひとりで突っ走るな。俺の首まで斬る気かと思ったじゃないか」

 ならず者たちが逃げ去ったあとの岩陰に戻るなり、ティーゼルは『死に損ない』に抗議する。

 聞いているのかいないのか、剣を収めた『死に損ない』は岩壁に背を預けるなり、無言でずるずるとその場にへたり込んだ。

 外套の奥から乱れた呼吸が漏れ聞こえてくる。

「まったく、まともに歩けもしない奴のやることじゃないぞ」

「食料……奪う機会かと思って……」

「お前の方が野盗か!」

 あのときの科白は本気だったのか、と今さらティーゼルは慄然とした。

「自分の食い扶持ぶちくらい……って、思ったんだけど」

「その殊勝な心掛けは人並みに動けるやつが言うことだからな?」

 言われた『死に損ない』は押し黙る。

「だいたい、あんな小物のおっさんたち脅したってろくなもの手に入りやしないぞ。見ててこっちが気の毒になったわ」

「え……」

「え、じゃない! 言われたことを額面通りに受け取るな」

 『死に損ない』は見るからに肩を落とした。

「……なんだ……。じゃあ、ここを探っても何も出てこないのか……」

「お前、そんなに腹減ってんの?」

 早く何か腹に入れさせよう、そうティーゼルは思った。こんな調子で、出くわす相手に都度突っ掛かられてはたまらない。



 結果的に先客であったならず者を追い払うことに成功した二人は、この場で日暮れまでの休息を取ることにした。

 ティーゼルは先ほどから座り込んだままの『死に損ない』の隣に腰を下ろすと、岩壁に上体を預ける。

 巨岩が生み出す影で陽光から長時間守られている岩肌は、冷んやりとして心地良い。

 先ほどまで熱気に包まれながら活動していたティーゼルは、外套のフードを頭から外した。

 肩下までの長さの、首の後ろで一くくりにした日差しと同じ色の癖毛がこぼれ出る。色素の薄い髪は苛烈な日射に晒されるとひとたまりもないが、頭を覆うフードを被り続けるのは正直鬱陶うっとうしい。それから解放される日陰は、色々な意味で有り難かった。

 『死に損ない』は浅い呼吸を繰り返していた。目を閉じてはいたが、眠っていはいないようである。

 ティーゼルはそんな様子の彼にこれ以上話しかけるべきか迷ったが、前方の視界に転がったままの死体が目に入り、この件を放っておくわけにもいかないと思い直す。

「あの男が何者か、心当たりがあるのか?」

 『死に損ない』はうっすらと目を開けた。ティーゼルが顎で先ほど謎の死を遂げた男の亡骸を示すと、彼は微かに首を振る。

「さあ……」

 あまりに手応えのない返事に、ティーゼルは険しい顔で眉根を寄せた。

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