私の願い! 神様が叶えてくれた!

沢井

第1話 私はエイル! 神様が創ってくれた!

 神があった。神は全ての存在を創造した。

神は全ての存在を愛し、全ての存在が望むことを神も望んだ。全ての存在の幸せが、神の幸せなのだ。


「だから神様は――、エイル? 聞いてる? 」


 エイルと呼ばれた少女は自分の願いが叶って嬉しくて、その名前を呼ばれるたびにほほを緩めて神に溢れんばかりの祈りを捧げるのが常だ。


「えへへー! だってさ! 名前もらったの嬉しくてさー! フリーダだってそうでしょ? 」

「ま、まぁな。フフッ」


 二人の少女は青空のもとにあり、気持ちのいい草原に生える美しい木の根元で寝転がりながら本を読んでいた。

本の題名は『かみさま』だ。

 金の美しく長い髪を風になびかせる少女がエイルで、銀の短い髪をかき上げる少女がフリーダだ。今エイルはフリーダから神に与えられた知識の自慢をされているが、エイルは自分が願った名前を付けてもらえたことに嬉しくて、それどころではなかった。


「エイルは愛って知ってるか? 」

「えー? よくわかんないや」

「……そうか。」


 フリーダは残念そうにそうつぶやくが、エイルはまた名前を呼ばれたことが嬉しくてフリーダに抱き着いた。


「エ、エイル!? 急になんだ! 」

「名前読んでくれて嬉しくて! えへへ。フリーダは勉強が大好きなんだね! 『べんきょう』って言うんでしょ? 」


 フリーダはエイルに少しでも自分のことを理解されているのが嬉しいのだが、エイルに抱き着かれていることに赤面して慌てているばかりだ。


 フリーダは知識を多く欲するため、神に様々な知識を願った。その知識は多種多様であり、エイルの知りもしない人の恋心やその他の感情まで知ってしまったために最近は苦労している。


しかし苦労しているといっても、神に知識を消してもらう願いをするほどではない。なぜならば、その苦労よりフリーダにとって幸せなことがあるからだ。

それはエイルへの恋心。彼女は自らのこの感情を大切にしているのだ。

もちろんエイルはそんなことを全く知らない。


「フリーダは最近神様にお願いした? 」

「そうだな……。願おうと思ったが、やめておいた。」

「えー? なんでなんで? 」


 フリーダが神に願おうとしていたのは『エイルと一つになること』だが、色々な知識を身に着けてしまったフリーダはその呆気なさに思いとどまり、結局願わなかった。


「自分の力で叶えるのも、悪くないと思ってな! 」

「えー。エイル力弱いじゃん。」


 そういうとエイルはフリーダの体を小さな体で抱き上げた。


「そういう力じゃない……。もっと、他にも色々あるんだよ……。」

「へーそうなんだ。フリーダは賢いね! 『かしこい』っていうんでしょ? この前『空』の『アルティメットカオスボルメティックドラグーンスカイ』君に教えてもらったんだ!」


 フリーダはしばらく空を見ながら沈黙して、そのおかしな名前を思い浮かべたが、思い当たりがあって納得した。


「あのおかしな奴か。じゃあ『勉強』って言葉は、誰から教わったんだ? 」


 エイルは少し言いにくそうに舌を頑張って動かして、その言葉を教えてくれた存在の名前を言おうと頑張った。


「えつぅくぇ? עץ……、קדוש? あ、『えつぅくぇどぅつぃ』ちゃんだよ! 」


 そういってエイルが微笑みながら見る『עץ קדוש』ちゃんは、少女二人に涼し気な影を落とし、そよ風とともに綺麗に歌う美しい木だ。


「ets qadosh.だな。こいつだろ? 神聖な木って意味だ。エイルに変なこと教えてないだろうな? 」

(שום דבר אחר)

「ならいい。」

「しむだばーくへー? なにそれ? 」

「『それ以外は何も』ってさ。よくこいつから教えられたの理解できたな。」


 そう言われたעץ קדושちゃんは、恥ずかしそうに葉を鳴らした。


(だ、だって。今私、友達の創った世界の言葉にはまっているんですもの……。ポッ。)

「ポッじゃない! 」

(אה, גם אתה מאוהב, נכון?)

「だ・ま・れ! 」

「えー? なんて言ったの? 」

「エイルは知らなくていいの! 」


 少女2人との会話に、עץ קדושは楽しそうに風を受けて葉の音を奏でた。その音色をエイルとフリーダは目を閉じて微笑み、気持ちよさそうに聞いていた。


 願いがあれば叶えてくれる神、それは誰でもどこでも願えて叶えてくれる。そう、こんな時にもだ。

 少女2人とעץ קדושの前に転がっている石が神に願った。


(神様神様。私は私は石のまま大きくなりたいです。『アルティメットカオスボルメティックドラグーンスカイ』君より大きくなりたいです!)


 石の願いに、神は答えた。『わかりました』と。

神の声は、願いをする存在にしか聞こえない。

 石の願いに神は提案をする。するととても幸せな気持になって満足した石は、その場から消え去った。

その石はどこかの世界でこう呼ばれることとなる。『星』と。

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私の願い! 神様が叶えてくれた! 沢井 @yuusyafuyu

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