第6話 魔導との邂逅

「「!?」」


 ソールとルナは驚愕した。自分達の知らない現象が目の前でいとも容易く起こったことに、動揺を隠し切れずにいた。


「まだキミの質問に答え切っていなかったな」


 それに構わず、男は言葉を続ける。


「オレ達は『魔導士』だ。これくらいの『魔導』は扱える」


「まどう、し?」


 自分が今まで聞いたことのない単語に、ソールは怪訝な反応を示す。と、男は腕を振るい、自らの掌に生み出した炎をソール達の目の前に放った。


「ぐっ!?」


 咄嗟に少年は両腕を身体の前で交差させ、防御の姿勢を取った。少年の数センチ程手前で、炎はゴオォォッと散っていった。


「ソール!?」


 突然の事態に、ルナはソールを心配する。


「……大丈夫、驚いただけだから」


 口上ではそうは言っていたが、ソールの額には汗が滲み出ているのがルナには分かった。


「少しは自分達の置かれている状況が理解出来たかな?いや、別にわざわざ理解してもらわなくてもいいんだが」


 自分達のこの場の優位性を示すかのように、男は強気な姿勢を崩さない。


(さっきのが、『魔導』……?)


 眼前で起こった事象を、ソールは必死に自分自身の中で嚥下しようとする。


「さぁ渡してもらおうか」


 それもお構いなしに、男は続けて要求する。


(……!待てよ。時間次第なら……!)


 ソールはポケットから懐中時計を取り出した。そして、カチッとその蓋を開き、時刻を確認する。


(……いける!これなら)


「……ルナ」


「……ん?」


向こうに聴こえないように、小声でソールはルナに囁く。


「……それ本気なの?」


「やるしかないよ、もう」


そう言い終えると、ソールは懐中時計を持った腕を前に突き出した。


「そうだ。それを早くこちらに……」


 男が再三要求しようとしたその時だった。




 ドーン!と、低音ながら身体中に響くかのような大きな音とともに、ソール達の背後で眩い光が広がった。


 それは、『星祭り』の一環で夜空へと放たれた、花火の数々だった。


「!?」


「何だ、この光は!?」


 想定していなかった事態に、襲撃者の二人はその顔を腕で覆い、光をやり過ごそうとした。


「今だルナ、こっち!」


「う、うん!」


 襲撃者達が怯んだ一瞬の隙を突き、ソールはルナの手を引っ張り、全力で走り出した。


「くっ、逃がすか!」


 男は片目を瞑りながらも、執念で二人を捉えようとする。再びその掌に炎を生み出し、ソール達目掛けて放とうとする。


「……っ!させない!」


 そのことに気付いたルナは、砂場まで来た瞬間、砂を手で掴み取り、更なる目暗ましのために男達に向かって投げつけた。


「ぐぉっ!?」


 逃走を図るソール達の追撃に、男はつい眼を腕で庇った。






「……味な真似を」


 次に男達が眼を開いた時には、ソール達の姿は公園にはなかった。


「どうする?」


 女の方が男に尋ねる。


「……決まってるだろ」


 そう言うと、襲撃者達は夜の闇の中へと入っていった。

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