異世界コンビニ繁盛記
@kajiman
第1話 プロローグ
「いらっしゃいませ!」
とびっきりの可愛い笑顔。レジの中で子供用の踏み台に乗ったハーフリングの店員さんが、ニコニコ笑顔で来店した冒険者に声を掛ける。
ここは王都にあるLV1ダンジョン前のコンビニ『5→7《ゴーヘブン》初心者迷宮入口前店』。
ダンジョン入場門の受付時間に合わせた、朝5時から夜7時まで営業している何でも屋さんで、ダンジョンで使う各種ポーションを始め、休憩時間に食べるお弁当や飲み物類、マッピング用の文房具や連泊時の下着類、はたまた酒場に行けるほど儲からなかった人のために部屋飲み出来るお酒やおつまみ類まで販売している
「お弁当に防腐護符と自動温め護符はお付けしますかー?」
これは『5→7《ゴーヘブン》』オリジナルのサービスで、気温の高い
「護符お二つセットで追加800エルになりまーす」
ちなみに有料オプションである。
「ありがとうございましたー」
朝7時〜。開店から2時間が経ち、朝イチドロップ狙いの冒険者のお客さんが一段落する頃、今度は店内に設けられた冒険者ギルドの出張スペースが営業を始め、のんびり屋の冒険者たちがぽつぽつと来店し始める。
「ご一緒にサクサクフライと葡萄ジュースのセットはいかがですかー」
店内のイートインスペースで朝食を食べる冒険者に、笑顔でサイドメニューをお勧めするハーフリングの店員さん。
かつて冒険者ギルドでナンバーワン受付嬢の名を欲しいままにした彼女のお願いに、
ちなみにお弁当の護符オプションやサイドメニューの料金の4分の1は勧めた店員さんの歩合になるため、ハーフリングのお姉さんもニッコニコである。
「行ってらっしゃいませー。怪我しないで無事に帰ってきて(また買って)くださいね!」
サイドメニューを大量にテイクアウトさせられたにも関わらず、ひらひらと手を振って健気な言葉を掛けるお姉さんにだらし無い笑顔を浮かべる冒険者一行。彼らに副音声部分は聞こえていない。南無。
正午(午後0時)。朝イチドロップ組が帰還して、シャワールームやランドリーの魔法具を使用するお客さんが増え始める。
「メリッサさん交代の時間です。上がって下さい」
「はーい。店長、お疲れ様でした。ではではアンナちゃん、引き継ぎお願いしまーす」
「お、お願いしますー」
ハーフリングのお姉さんメリッサからドワーフの女の子アンナにバトンタッチ。その日の注意事項の引き継ぎを行う。ちなみにもう一つあるレジは店長である僕が終日担当する。ブラックである。
午後3時〜。日刊紙の王都タイムスやドロップ情報が更新されたダンジョンマップの最新版が入荷し、神殿帰りの学生さんやダンジョンから戻ってきた冒険者で店内がちらほら賑わい始める。
「はわわー、立ち読み書き写しはご遠慮くださいですー」
夕方5時〜。夜ドロップ狙いのダンジョン宿泊組がお弁当や飲み物を、下層階狙いの連泊組が日持ちする食料や替えの下着類を購入していく。また、粘りに粘ったものの良いドロップが得られなかった帰還組が、うなだれながらも部屋飲み用のお酒やおつまみ、閉店間際に値引きされた食品類や見切り品のポーションを買い物カゴに入れていく。
陳列棚から商品がどんどん消えていき、レジに並ぶ冒険者の列もどんどん伸びていく。
「て、店長ー。半額シール貼ってないでレジ手伝ってくださいですー」
午後7時過ぎ。閉店。バックヤードから日用品や酒類など日持ちする商品の品出しを行い、耐用日数が切れたポーションなどの廃棄を行う。日持ちしないお弁当や飲み物の入荷はこれとは別に毎日の開店前に行っている。
最後にレジの売上げを金庫に移して戸締り。ダンジョン前には24時間王国兵が詰めているため近隣の治安はすこぶる良い。賃料は高いものの、強盗や侵入盗の心配をしなくて済むのはとてもありがたい。
「店長、お疲れ様でしたー」
「お疲れ様。また明日も宜しくね」
「ハイですー」
アンナが元気よく手を振りながら、僕の店のお隣さんであり彼女の実家でもあるポルザーグ武器防具店に入っていく。ふと見ると、アンナと入れ違いに顔見知りの冒険者がお店から出て来るのが見えた。
取り敢えず僕はアイテムボックスから鉄兜を取り出して被り、ボロアパートに帰宅することにした。
今日も何とか乗り切った。コンビニを始めてはや1年。赤字続きだった売上げも、徐々に黒字の月が増えてきた。
「ねえ…」
しがないLV2冒険者でいつも担当受付嬢のメリッサさんに怒られていた僕が、いまや
色々なことがあった……初めての仕入れで仲が良いと思っていた先輩に騙されて粗悪品を掴まされたり、頑張って作った新商品を信用していた先輩に盗まれて先に商業ギルドに登録されてしまったり——アイツら絶対許さねえ。
「ちょっと……」
ハーフエルフ(エルフ×獣人)のお調子者の剣士フレッド、ハーフエルフ(エルフ×不死人)のおねえ系魔導士マーチス、ハーフエルフ(ハーフエルフ×ハーフエルフ)の取り敢えず殴る系の
「ちょっと、ねぇったら!」
3人とも顔面偏差値高過ぎて一緒にいると劣等感ヤバかったけど、みんな馬鹿で何やっても楽しかったなぁ……というか、あいつら馬鹿すぎて冒険するたびにやらかして
まあ冗談はさておき。フレッドがゴミだと思ってうっかり捨ててしまった商人の大事な骨董品の弁済費用。マーチスが極大魔法でうっかり壊した城壁の修理費用。そしてアリスがうっかり殴った貴族のボンボンの慰謝料&治療費。
利子分だけでも用意出来なきゃ揃って奴隷落ちだから本当に必死になって働いた。半年後に来る今年の利子分1,000万エルの返済期限は何とか乗り切る目処も立った。
アイツら3人が余計なことさえしなければギリギリ何とかなる計算だ。本当に、本当に何もしないでいてくれれば……。
「何で無視するのよっ!」
ガツンと頭に衝撃が走る。被ってて良かった鉄兜。
「こんな夜更けに何でしょうかアリスさん」
「何で丁寧語!? えっ、ソーヤですよね?」
はい、アイアムソーヤです。今ほどアイアムノットソーヤでいたかったことは無いけど、残念ながら私はソーヤです。
「で、何の用なのアリス。貴族のボンボンの慰謝料3,000万エル、全額耳を揃えて用意出来ちゃったりしたの?」
「うっ……」
ばつの悪そうな表情をしてチラチラとこちらを見るアリス。アリスのこの表情——悪い予感しかしない。しかもコイツ、すでに
アリスがいつも身に付けていたミスリル製の高価な部分鎧はすでに無く、その下の剥き出しの鎧下が哀愁さを漂わせている。
「ごめん、お金貸して!」
今度は何やらかしたんだよアリス!!
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それではまた次話で。
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