渡り鳥隊
黒白 黎
-1- 騙された
私の名はレイラ。渡り鳥隊の一員だ。今は隊員は引退してしまっており、私一人だ。こう見えても四年のベテランだ。
さて、私はうっかりしていた。敵はなにも怪物だけじゃない。人間もそうだ。私は、初めて人間に騙され、あやうく仕事をクビになりかけた。
そのお話をしよう。
サブタイトル:―騙された―
見知らぬ部屋のベッドの上で目を覚ました。主治医曰く、魔物に襲われていたところをミイが運んできたという。
ミイは、イルカのような小さな生き物で自在に人間大になったり蟻みたいに小さくなったりする不思議な生き物だ。
配達途中だった品物がないことに気づく。魔物に襲われたときにそこに落してきたかもしれないと主治医は推測した。
外へ出ようとするが、まだ意識が戻ったばかりだから無理はするなと言うが、荷物のことが心配で外へ飛び出そうとするがミイが子供ぐらいの大きさに変わりレイラの背中に向かって突撃して吹き飛ばされた。
ミイは心配していると主治医は話す。レイラはミイを慰めるが「仕事がまだ終わっていない」と告げると「勝手にしろ」とため息を付けられてしまう。
外に出ると、暖かい日差しと共に出迎えてくれたのは、甘い果実の香りと香ばしいパンの焼いた匂い、牛などの家畜に臭い。住み慣れた町よりも故郷の田舎の匂いがして、不思議と懐かしくなった。
しばらく歩くと新しい品が入ったと若い商人が宣伝していた。興味本位で店に入るとそこには、落としたはずの荷物が売り物として売られていた。
「荷物を返してほしい」と交渉するが店主は「俺が拾ったんだ」と言い張り聞く耳を持たない。
そこで若い店主は、町へ続く道に最近怪物が出没して安全に進めないから怪物を退治してほしいと依頼してきた。
町へ行ける唯一の道に現れたため、買い付けに行けなくて困っているという。怪物退治に協力したら荷物は返してもらうと約束、単身で街道を目指した。
ミイがハムスター並みの大きさに変化し、レイラの懐に潜り込む。その様子を見ていた商人たちは慣れた光景のため、顔一つ変えずに見送る。それに気づかないまま、レイラは店から出ていった。
街道には雰囲気に似つかわしくない怪物があぐらをかいていた。レイラは交渉するため近づくが警戒区域(テリトリー)に侵入した敵だと思い威嚇した。
怪物の言葉で話すと、怪物はどうやら荷物が届かないことに苛立っている様子だ。名前と住所、合言葉を確認すると荷物のあて先は怪物さんのようだった。
ミイがレイラの懐の中で暴れまわる。なぜ怪物の言葉がわかるのにミイの言葉がわからないのか怒っていた。いつの間にか懐にいたのか手づかみで取り出すと不機嫌そうに人間大に変身し、押しつぶそうと怒りをぶつけようとした。
怪物はミイを制止し、育った環境によるものではないかと宥めた。ミイは納得できず怒りをこらえつつ涙目で訴えていた。
「弱ったな」
荷物は商人がもっている。あて先が怪物のため、説明してもすんなりと返してはくれなさそうだ。迷っているとミイが協力してくれるという。
怪物は商人との取引の話を聞かせてほしいと言われ、一部始終話すと、怪物はしばらく森に身を隠すという。荷物が戻ってきたら再び街道に現れると言ったのだ。
「どうして街道にいるのか」
「日向ぼっこしたかった。森の中だと陽の光が当たりにくく風が吹けば木の葉や虫が舞い、全身鳥肌(じんましん)だ」
そう言って森にいられなくなり逃げて来たそうだ。
肌に異常が出始めたのはここ数年前あたりからだという。アレルギーで森の中を暮らしにくくなったとため息をついていた。
そこで遠く離れたところに『防護液』お販売している業者の噂を聞き、渡り鳥に依頼したという。
『防護液』とは肌からあらゆる細菌から守ってくれるという非常に優れた薬で、商人からは高く取引され、一般に出回らないほど高級品だ。
話しを終え、いったん森に身をひそめる約束をし村に戻った。
すると、商人らは上機嫌に馬車に荷物を詰めている最中だった。
「怪物は森に帰っていった」
そう伝えると、
「そうか、ありがとうな」
さっそく馬を引いて村から出て行こうとする。
「約束が違う。荷物を返して」
商人は困った顔をして「売れたんだ」と大金を見せた。
荷物は誰かに売り飛ばした後だった。
「話が違う」
「来るのが遅すぎた」
腹を立てるがそもそも気絶させしなければ荷物を奪われることも無かったと、自分を責め立てる。見かねたミイが見上げるほどの高い木ほどのサイズに変身すると馬車の前に立ちふさがった。
「邪魔だよ」
ミイは今にも馬を押しつぶそうとする。馬たちは逃げようと網を引きちぎろうとして暴れだした。
店主が抑えるも馬はやめようとしない。
その様子を見たレイラは「おい、テメェ」と店主に飛びかかる。
荷物を取り返すため商人に売った相手のことを問いただすと店主は最初こそ「客の情報は明かせない」と首を縦に振らなかったが、馬の一頭が逃げ出したことで、しぶしぶ教えてくれた。
その相手とは、村に住む主治医だった。
その瞬間、頭の中で消えていた記憶が蘇る。
森の中で襲われたのは魔物ではなく、魔物のマスクをした主治医だったことを。
はじめから荷物を奪うために主治医と商人はグルだった。背後から一撃を仕留め、渡り鳥から荷物を奪う計画をしていた。商人たちに荷物を預け、自分は主治医として役目を果たし、商人は時間稼ぎのために別の仕事を与える。その間に商人は預かっていた荷物を返し、バックれる。主治医は何食わぬ顔で病室にいればいい。主治医が詐欺師とはだれも疑わないだろうから。
奪った荷物は別の顧客に売ってしまえば証拠に残らない。だから「安易に人間を信じるな」と暖かい先輩たちからのお言葉を思い出していた。
主治医の家に上がるとそこには、血相をかえた主治医が荷物をまとめている最中だった。
主治医の手には例の荷物の中身を大事そうに抱えていた。
「その荷物を返してください」と怒りをこらえながら優しく頼むと、主治医は開き直ったかのように弁明した。
「『防護液』は多くの病気をもつ患者たちの特効薬になる。これさえあれば苦しんでいる人たちを救える」という。その話は主治医の自己満足だと罵り、返品を要求した。
主治医は隠し持っていた魔石で抵抗する。レイラを吹き飛ばし壁に背中から激突させる。
非売品である『魔石』でさえも持っていることに驚いた。
魔石は非売品で、誰にでも魔法が使えることから禁止されている。それをどこで手に入れたのかと問うと、主治医はお礼にもらったという。
信用できないレイラは荷物を奪い返すため、人間に向けて剣を抜いた。
主治医も魔石を見せ、「近づいたら殺す」と脅してきた。
「そんなものは怖くない」
主治医に向かって突進する。主治医は魔石を向けレイラを再び吹き飛ばそうとした。剣を床に突き刺し、全身全霊の力で剣を握りしめた。グラグラと揺れながらも吹き飛ばさないように堪え、風が止んだ瞬間に主治医に飛び込んだ。
その瞬間、魔石に手が触れた。
魔石から声が聞こえた。白黒の映像とともに頭の中に流れ込んできた。
その映像から察するに魔石も盗品のようだった。倒れた主治医の身体を押し付けるかのように四肢で身動きを封じる。魔石の記憶からありもしない病気を告げ、患者から高い医療費の代わりに魔石を手に入れた様子が映っていた。
主治医は魔石の力で再度レイラを吹き飛ばした。その隙を見て逃走しようと試みるがあっさりミイが人間の大きさに変身し押しつぶした。あばらが何本かいったのか声にならない叫び声をあげ動かなくなった。
奥の部屋を除くと主治医の隠し部屋があった。
部屋には盗品の数々がおかれ、どれも嘘から手に入れた品々だった。肝心の主治医の免許書も偽物で複数枚見つかった。主治医は詐欺師で医術もなければ医学もない。薬も大したものはなく、睡眠薬か痛み止めぐらいしかなかった。
本部に連絡し引き取ってもらうことを約束し、ミイに代わって縄で拘束し『防護液』を持って街道に戻り怪物に渡し、無事に仕事を終えた。
ミイに聞かれ、物の記憶を読むことができることを伝えた。渡り鳥全員が使えるものではなく、あくまで個人でしか使えないものだと説明すると、ミイは人間の少女の姿に変え、「私の記憶も読める?」と言っていそうにレイラの手を取り胸に添えた。かすかだが記憶が流れ込んできた。
ミイは荷物の運搬中に事故で放り出され、配達途中であることを読み取った。誰かの仕事の放置の結果このようなことが起きたのだと責任を感じ、ミイを持ち主まで届けることを約束に同行するよう頼んだ。
ミイも承諾し、一緒についていくことにした。
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