4話 彼は協力者を得る
郁人はベッドの上に勢いよく倒れこむ。
「あ~……疲れた……」
今日の出来事を振り返り、深いため息を
ついた。
あれから、ライラックが作った菓子を
茶請けに皆でお茶しようとしたのだが
チイトが
理由は……
「はじめての食事はパパの手作りがいい!」
とのこと。
ライラックの料理は美味しいと説得した
のだが、いっこうにチイトは首を縦に
振らない。
結局、ライラックが作った分はジークスが
食べて郁人がチイトの分を作ったのだ。
チイトは郁人の手作り菓子を満足気に
食べた後
「片付けてくる」
と言い、その場を去った。
その後、経緯を聞きに来た憲兵に、
チイトとの関係について質問攻めを食らい、
とんでもない事実を聞かされた。
「"歩く災厄"とか……
なんて異名をつけられてるんだよ……!!」
憲兵が言うには、チイトはかなりの
“危険人物“として知られているらしい。
異名がチイトに付けられる前……
チイトは攻略不可能とされた迷宮を
単独攻略したり、複数でかかっても
倒すのは不可能とされた魔物を単独討伐
などと、かなり1目置かれる存在だった。
そして、ある国がそんなチイトを
抱え込もうと、金や地位、女などの
あらゆる手段を尽くした。
しかし、結果は全て空振りに終わった。
チイトが全く興味を示さないからだ。
後半、国は目に入れても痛くない程の
近いくらいの手段をとったらしい。
が、結果は変わらない。
そして、その国は遂にチイトの
触れてしまい、1晩で跡形もなく消し飛んだ
という。
他国も抱え込もうとしていたが、
国の
"触らぬ神に祟りなし"とピタリと止めた。
国同士で"超危険人物"と判断し、
チイトが国に現れた場合は出現注意報が
各地に伝えられ、戦争していたら即休戦、
チイトの一挙一動に気を向け、
逆鱗に触れないようにするそうだ……。
それから、ついた異名が
ー "歩く災厄"
郁人は異名の由来を聞いた時、自身の創作
キャラが国を滅ぼした事実に頭が真っ白に
なった。
そして、あの言葉が頭によぎる。
『それに…
この世界がパパに害をなすなら、この世界
ー 壊すから』
(あの言葉が頭から離れない……)
チイトは当然のように言い張った。
その場に直面した時、果たして郁人は
止められるのだろうか……。
「責任とれ……か……」
創作したキャラ、チイトが現れた今、
郁人をいじめた者に対しての惨状や、
国を滅ぼした事実を前にし、その言葉が
郁人に重くのしかかる。
「……俺になにができるんだよ」
唇を噛み、目蓋を閉じた。
ー「あんたならできるから
ここに呼んだのよ」
凛とした声が聞こえる。
郁人が目を開けると、そこは真っ白な
空間だった。
「え?! なに?!」
見渡しても何もなく、見覚えは全くない。
郁人は首をかしげ、唇をぎゅっと閉める。
「俺、さっきまでベッドに居たよな?!
どこなんだ!? ここ!?」
「ここがどこか気になる?」
後ろから先程の声がした。
振り向くと、1人の少女に目を引かれる。
ツーサイドアップにした、地面に届きそうな
意思の強さを感じられる瞳を持った、
話しかけるのを
神々しさを持つ美少女がいた。
ー (でもどこか親しみを感じるのは
なぜだろう……?)
「ここは夢だから安心しなさい。
って……あら? あたしに見とれているの?
まあ、見とれるのは当然よね。
だってあたしは、可愛くて美しい
女神なのだから」
そう言って彼女は肩を後ろに引かせ、
ニヤリと笑う。
「えっと……君は?」
「あたしはこの世界の担当神、ライコ。
あんたに責任をとってもらいに来たわ」
彼女、もといライコは郁人を見つめる。
(担当とかどういうこと?!
彼女は俺をここに呼んだと言ったし……!
それに責任って……!!)
郁人は頭がこんがらがる。
「あんたも聞きたい事はいっぱいあるで
しょうけど……あたしもあるから先に言わ
せてもらうわ」
ライコは深呼吸をし、キッと睨み付けた。
「あんたなんて者を創ったのよ!!!!!
あいつらが来てからいきなり国を滅ぼしたり
神殿破壊に虐殺とか予期できないその他
諸々!!
おかげで始末書
各神に謝罪しまくりで、他神に可哀想な子を
見る目で見られているのよ……!!
しかも、未来日誌にはあいつらが滅亡させる
未来しか出なくなっちゃったから、
止めようとあたしの分神を派遣したら、
即効で斬るは燃やすは解体やら……
残虐過ぎて夢にまで出てくる始末!!
睡眠不足は美容の大敵だってのに………!!
そもそも、分神派遣にいくらかかると
思ってるのよ!!
おかげで貯金を切り崩して支払わないと
いけなくなったし、あんたを呼ぶのに
あいつに借りを作っちゃったし!!!!
もう散々なんだからあああああああああああ
あああああああああああああ……!!!!」
今までの鬱憤が溜まりにたまった、
悲痛な叫びが響き渡る。
ライコは今までの苦労を思い出したのか
目が潤んでいた。
「その……迷惑かけてごめんなさい」
その姿を前に、郁人には謝罪するしか
思い浮かばない。誠意をこめて頭を下げる。
「……あいつらの作者にしては、
すんなり頭を下げるのね。
まあ、今までの様子を見て、あんたが根っから
のお人好しなのはわかっていたけど。
おまけに、あんたには感謝してる事が
あるしね」
「感謝……?」
意外な言葉に思わず頭を上げ、ライコを
見る。
「あんたの親友、ジークスのことよ。
彼、この世界の英雄候補なの」
「英雄候補?」
「そう! 英雄候補!
英雄は神にとっても1目置かれる存在なの。
世界に1人居てくれたら安心出来るのよね。
異変があっても対処してくれるし」
居てくれたらありがたいのよね
とライコは語る。
「だから、あたし達、神は英雄になる
可能性を秘めた者を探して、
なれるかどうかを観察しているわ。
そして、可能性を秘めた者を
“英雄候補“って呼んでいるのよ」
「ジークスはそんなすごい存在
だったのか……!」
説明を聞いた郁人は目をぱちくりさせた。
「そうよ。特にあんたの親友は英雄候補の中
でもかなりの逸材なの。
前は死に急ぐように戦っていたから、
心配だったのよね。
あれだけの逸材を死なせたくないし、
どうしようか悩んでたら、
あんたがなんとかしてくれた訳」
ライコは郁人を指差す。
「おかげで生き甲斐を見つけたのか、
前みたいに死に急ぐようなことは
しなくなったわ。
だから、あんたには本当感謝してる。
英雄がいたら安心だし、こっちの問題を
別世界に居た、しかも関わりの無い奴に
任せるのは気が引けるもの」
そのためだけに関係ない奴呼ぶの嫌なのよ、
あたしはとライコは息を吐く。
「なにより、異世界の勇者派遣を
しなくて済むからお金が浮くわ!
他にも費用が必要な箇所はたくさんあるし、
勇者派遣はいろいろと面倒な手続きが
あるから、地元で済むなら万々歳よ!」
どうやら、神も金銭面のやりくりには
苦労しているらしい。
ライコは華開くような笑顔をみせる。
しかし、郁人には疑問があった。
「俺……なんかした記憶がないんだけど。
俺じゃないんじゃないか?」
郁人はジークスに対して生き甲斐を
見つけさせるような行為をした記憶は
全然ない。
普通に親友として一緒に過ごしていただけで
なにか特別なことをした事はないからだ。
「あんたなのは間違いないわ。
気になるならあんたが直接聞きなさい。
外野のあたしが言うなんて野暮ったいわ。
……英雄候補はあんたにとんでもないこと
してくれちゃったけど」
最後の
郁人がジークスになにかしたことは確かな
ようだ。
(タイミングが合えばいつか話してくれる
だろうか……?)
いきなり聞かれて、ジークスの困惑する姿が
目に浮かぶ。
(神様から聞いたって、どう説明すれば
いいのやら……)
郁人は思い浮かばないなと頬をかいた。
「あんたには感謝すれど……
あの残虐な
見過ごす訳にはいかないの。
責任はきっちりとってもらうんだから」
キッとライコは郁人を睨み付ける。
「あのさ……俺になにができるんだ?
チイトはなんとか聞いてくれたが、
他の奴が俺の話を聞いてくれるかも
わからないぞ」
郁人は疑問をライコにぶつける。
チイトからはキャラ達が郁人を独占した
がっているとは聞いたが、勘違いの
可能性だってある。話を聞いてくれるか
さえ不明だ。
「そんな心配は無駄よ。 だってあいつら、
筋金入りのファザコンだもの。
あんたがここに来た途端、気配を感じた
のか
あれはすごかったと、様子を思い出したのか
ライコは震える肩を抱き締めた。
(俺はあいつらにそこまで慕われることを
したのか……? ただ俺が創作したから
なのか?)
チイトの無邪気な笑顔を思い出す。
(今はまだわからないが、彼女の言うことを
信じよう)
郁人はライコに尋ねる。
「俺はどうすればいいんだ?」
「簡単よ。あいつらに会いに行けば
いいだけ。そして……」
ライコは何もない空間から本を取りだし、
あるページを見せた。
そのページは真っ黒で、赤い字でただ1言、
"滅亡"としか書かれていない。
「この未来日誌から、滅亡の記録を
消し去るの。
あいつらがすることに間違いないから。
まず、あんたがあいつらに会うことからが
スタートね。
それ以降はあいつらが滅亡に進みそうな行動
をしたらあんたが止めに行けばいいだけ。
あたしもサポートするから一緒に頑張り
ましょ。あいつらが唯一執着するあんたなら
出来るはずよ」
ライコは勝ち気な笑みを浮かべる。
それは人を自信に溢れさせる笑みだった。
「わかった。よろしくな、ライコさん」
「えぇ、よろしくね。
それとさん付けはいらないわ。
だって、これからは仲間なんだもの」
2人は固い握手を交わした。
ーーーーーーーーーー
「ところで、俺はどのタイミングで
ここに来たんだ?」
郁人は自身の記憶が1部欠けている為
聞きたかった。
来たタイミングがわからない事に、
不安を感じていたのだ。
「さあ? あたしも知らないのよね。
あんたを呼びたかったのは
あたしなんだけど、実際に呼んだのは
あいつだから……」
ライコは腕を組むと、重い息を吐く。
「あいつにどうやって呼んだのかを
聞いてないのよね。
聞く前にどっか行っちゃったのよ……。
だから、タイミングとかもさっぱり……」
「そうか……」
「でも、安心して! あっちに帰りたかった
ら目的が達成次第、あたしが帰してあげ
るから」
任せなさい! と、ライコは自分の胸に
拳をあてる。
「それぐらいの事ならあたしにもできるし。
あんたの記憶も時間が経てば戻るわよ」
「……そうだな。急いだところで戻る訳では
ないしな」
郁人の目に安堵の色がやどる。
「あら? そろそろ起きる時間ね。
あたしも分神派遣の準備をしなきゃ。
今の姿のままじゃ、あんたの保護者や、
特にあの息子がうるさいだろうし……
そうなると……
あんたの私物に変わるしかないわね」
そう言って、彼女はため息をつく。
「姿を変えられるのか?」
「えぇ。お金はかかるけどね。
ああ~……異世界のケーキバイキングに
行こうと頑張って貯めてたのに~!
パンケーキとかパフェとかスイーツを
食べたかった……!!」
膝をつき嘆いている姿が、郁人には
妹の姿と重なった。
(あいつもスイーツ食べたいけど
お金が足りないとか言ってたっけ……
それで俺が作らされたりしていたな……)
嘆くライコに郁人は提案する。
「……もし良かったら、俺が作ろうか?
材料や器具があれば作れるぞ」
「ホントに?!」
勢いよく立ち上がると、郁人に詰め寄る。
あまりの勢いに郁人は思わずのけぞって
しまう。
「妹に結構作らされてたし、
バイトでしたことあるから」
小さい頃から、祖母の家事の手伝いを
しており、厨房のバイトに入っていたので
料理は出来る。
料理下手な妹のお願いでスイーツを
作ったりしていたのだ。
「作った事がないのでも、レシピがあれば
作れるぞ」
ライコは郁人の言葉に目を耀かせる。
「絶対よ! あたし頑張って材料とか器具を
探すから!レシピとかも渡すから絶対に
作りなさい!」
「わかった。約束する」
「絶対だからね!! 約束よ!!
そうと聞いたら早く準備しないと……!!
じゃあ、またね!
あたしは別の姿でいるし、こっちから
声をかけるわ。あんたはまだぐっすり
眠ってなさい」
ライコの言葉で、郁人の視界はどんどん
白くなり、そこで意識が途絶えた。
ーーーーーーーーーー
「やっぱり変だわ……」
ライコは郁人と別れたあと、自室の机に
向かい綺麗な眉をひそめていた。
見ているのは郁人に関する記録が
載った書類だ。
「こっちに来てから明らかに
弱体化してる……。
本来こっちに異世界の人を連れてきたら
あっちとこっちの世界じゃ体力的にも
差があるから、それを補うため必然的に
こっちに合わせて上昇するはずなのに……」
郁人のステータスはどう見ても
おかしいのだ。
言語理解はあるものの、作為的なものを
感じるくらいに、身体面は病弱、貧弱、
脆弱のオンパレード。
下手すればすぐに死んでしまうほどだ。
来て早々保護されていなければ、本当に
危なかった。
だから、郁人に接触するのをためらい、
ライコは1年待ったのだ。
本人も危ういと感じて体力作りに励んだ
おかげか、 こっちに来る前の体力に
戻りつつある。
異世界では平均以下の体力だが……。
しかし、そのおかげで郁人に接触でき、
協力関係を結べた。
「あいつはあたしより格の高い正真正銘の神
だし、そんなことをするメリットなんて
どこにもないのだけど……
どういうことなのかしら?」
気にはなるが、その神は神出鬼没。
呼んでもらうように頼めたのも奇跡に近い。
次に会えるのは1000年後だって十分に
あり得る。
「気にしていても仕方ないわね。
サポートしていくうちにわかるでしょう。
………そういえば、なんで表情も
動かなくなったのかしら?
まあ、これもそのうちわかるか」
ライコは書類を仕舞うと、 分神を派遣すべく
準備に入った。
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