衰退勇者は教わりたい ~弱った英雄は無用と追放されたので、もふもふな姉弟子たちに教わりながらのんびり生きます ~
遥 かずら
衰退勇者
第1話 勇者、追放
「衰えた勇者に教えることなど何も無い! 他へ行け!」
顔を見られただけで乱暴に「無用だ!」と断られ、どこへ行っても「今さら来るな!」と突き飛ばされ……。
分かっていたとはいえ、確実に弱くなっている。
はぁ、っと深いため息をつくと、外の寒さを感じさせる白い息しか出て来ない。衰退を感じた時から、俺は自分の力が弱まっていくことに恐れを感じている。
職人や冒険者が多く集う城塞都市ヘルシラード。
勇者として生を受け、最初に生活をしていた場所であり思い入れの深い故郷だ。
類まれなる才能と最強の強さを誇った勇敢な勇者の始祖、グラファス。
俺は始祖グラファスの力を継いだ真の勇者、リオ=グラファスとして名を授かった。
幼き頃から戦いにおける動きの全てはすでに身につき、向かうところ敵無し。
世に存在する全ての武器――
すなわち大剣、戦斧、棍棒、槍、弓。そして盾と体術、魔法。
全てを使いこなし、敵う者など存在しなかった。
町では「最強の勇者リオさま、万歳!」「勇者さまがいれば怖いものなしだ!」といった歓喜の声がいつもあちこちで上がっていた。
しかしそんな日々は長く続かなかった。
誰の助けも必要としない最強の勇者として生きること、17年。
最強の力は、成人である18歳を迎えると徐々に衰えていく――
そのことを知ったのは、始祖グラファスの手記と墓に記されていた没年だ。
手記にはこうあった。
【最強の力を保つには同等以上の相手か、世界のどこかに存在する"魔王"を消し去ることが運命回避の条件だ。回避出来なければ徐々に弱り生涯を終えるだろう】
始祖グラファスは、回避出来ずに
これまで同等以上の冒険者と出会ったことが無く、どこかに存在する魔王を探すアテも無し。今まで一人だけで動いていた俺には、仲間と呼べる者はどこにもいない。
俺を支えて来たのは世界中の人々。頼られ、信頼を得られた人間たちがいる。
支えてくれる人々がいることに俺は安心していた。
過剰に安心した俺は、同等以上の人間と魔王を探すよりも衰退する運命を受け入れた。
何故なら衰退が始まっても、人々が俺を温かく見守ってくれる。
そう信じて疑わなかったからだ。
俺は各地の魔物を討伐しながら成人となる18歳を迎えるにあたり、故郷に凱旋。
そこで待ち受けていたのは、"追放"という無情な宣告だった。
◇
数年ぶりの城門を抜け、店が多く建ち並ぶ通りを歩く。
すると、すれ違っただけの人に声をかけられた。
「成人おめでとうございます、勇者さま!」
声掛けに呼応するように、町の人たちが集まって来た。
彼らの多くが今まで俺を称え、支えてくれた人々だ。
「そうですか、成人ですか」
「――ということは衰退の始まりですね?」
「衰退はまだ感じていませんが、これから徐々に――うわっ!?」
一瞬何が起きたか分からなかった。
気付いた時、俺は地面に尻もちをつきあっさりと倒されていたからだ。
「やはり始まっているようですねぇ……あぁ、弱い弱い」
「いきなり押されたら倒れますよ」
倒れた俺に手を差し伸べる者はいなく、俺の前から離れて行ってしまった。
そこから数日の内に魔法が消え体力も低下し、俺は誰からも頼られることが無くなっていた。
そして勇者が衰退したという事実が世界中に伝わるのは、時間の問題だった。
だが衰えていくからといって諦めるつもりはない。
そう思った俺は回復士や、学者、強さを知る冒険者を頼ってギルドを訪れた。
しかしもう遅かった。
「どうか、衰退を遅くしたり……衰退後の生き方を俺に教えてください!!」
「弱った英雄に教えることなど何も無い! 勇者など無用だ! とっとと出ていけ!」
勇者としての力を失いつつあっても、人々を支えて生きていける。
そう信じて疑わなかった。
それなのに――
「お前の強さはとっくにピークが過ぎてんだよ! 弱っていく奴に何を教えろって?」
「ううぅっ、違うんです……俺の力はこんなものじゃ……」
「知りたいんなら、散々倒しまくった魔物にでも教えを乞うんだな! 魔物なら"死"についてすぐに教えてくれるだろうよ」
これまで多くの人間たちを助け、支えられていたのに衰え勇者は無用なのか。
町を守り貢献して来たのに、その人たちから攻撃されるなんて。
このまま故郷にいてはもっとひどい傷を負いかねない。
だが城塞都市の外に出たとしても強い魔物ばかり。おまけに今は時季外れで凍えてしまう。
そうだとしてもここにいられない。
外に出て、かじかむ手をさすりながら魔物の遭遇を待ち望むしかない。
(外の人間か、あるいはそれが無理なら魔物でもいい……魔物なら生き抜く力を教えてくれるはず)
体力の限界が来たせいか外に出てすぐに意識が遠のく。そして俺は、通りがかった何かにお願いを呟きながら倒れ込んだ。
「うぅぅ……どうか、生き抜く方法を……教えてくだ……さい」
「――ひゃっ!? なになに、何がぶつかって来たの?」
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