第3話:アカリの悩み
翌日。アカリは友人の結婚式に参加しました。
「あ、アカリか。赤ずきんないから誰かと思った」
「流石に結婚式は赤ずきんしねぇよ」
トレードマークの赤いずきんを被っていないことをいじられ、アカリは友人達と笑い合います。しかし、アカリは内心複雑でした。
アカリには恋人が居ません。そもそも恋をしたことがありません。友人達に恋人ができるたび、アカリは一人、疎外感を覚えていました。
幸せそうな花婿と花嫁を見て、アカリは考えます。自分も誰かとああいう風に笑い合う日が来るのだろうかと。
(……想像できないな)
いつか分かると友人達は口を揃えて言います。そのいつかはいつくるのだろう。そうぼんやりと考えていると、友人の一人から呼ばれました。独身の女性だけを集めて野外でブーケトスをするようです。
花嫁が投げたブーケを受け取った女性は次の花嫁になる。そんなジンクスを信じる女性達はやる気に満ち溢れています。アカリは苦笑いしながら、彼女達に譲ろうと、人混みを抜けて後ろの方に待機しました。しかし——
「えっ」
花嫁が投げたブーケは風に乗せられ、思った以上に奥まで飛んでいきました。アカリは思わず手を出し、ブーケをキャッチしてしまいます。おめでとうと拍手をされ、アカリは困ったように苦笑いしながらブーケを持ち帰りました。
「あー……どうしようこれ……花瓶に入れて飾るか?」
「おばあちゃんにあげたら? あんた、絶対世話せずに枯らすでしょ」
母にそう言われ、それもそうだなとアカリは苦笑いします。
「そうする。行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
アカリは着替えてずきんをかぶって、護身用に刀を携えて、祖母にブーケを渡しにいくために森へ向かいました。
「お。ルゥだ。ちょうど良かった」
ルミナの家の庭で赤いずきんをかぶって花の世話をするルゥを見つけたアカリは、彼女に声をかけます。アカリの声を聞いたルゥは目を輝かせ、アカリに駆け寄りました。
「アカリ! ケッコンシキ、終わった!?」
「うん。終わった。ばあちゃんは?」
「出かけてる。……ん? その花はなんだ?」
「あぁ、これ? 結婚式の中にブーケトスっていう儀式があってね。それで貰ったんだけど、あたし、花の世話は苦手でさ。ばあちゃんにあげようと思って」
「ブーケトス?」
「男の人と番になった女の人——花嫁っていうんだけど、その花嫁が投げたブーケを取った人は次の花嫁になれるっていうジンクスがあるんだ」
「……アカリ、それ取っちゃったのか?」
「そう。取る気なかったんだけど、飛んできちゃって」
「……アカリ、ケッコンしちゃう?」
複雑そうな顔で、ルゥはアカリに訪ねます。アカリは首を横に振りました。
「しないよ。言ったろ? 相手が居ないって」
「……アカリ、素敵な人。相手なんてきっと、すぐに見つかる」
「……ありがとう。みんなそう言ってくれるよ。けど……あたし、未だに恋を知らなくて」
「アカリ、恋したことない?」
「ルゥはあるの?」
「ワタシは……」
ルゥは口ごもり、俯いてしまいました。
「あ……悪い……嫌なこと聞いちゃったな」
「……ううん。良い。平気。……あ、ルミナ帰って来た。ブーケ、渡してくる」
この時アカリは、ルゥが暗い顔をしたのは、故郷に恋した相手が居たからだと思っていました。彼女が自分に恋心を抱いているなど、考えもしませんでした。
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