赤ずきんちゃんと人狼ちゃん
三郎
第1話:出会い
あるところにアカリという少女がおりました。彼女は祖母からもらった赤ずきんをいつも身につけており、周りからは赤ずきんちゃんというあだ名で呼ばれていました。
「アカリ、ちょっとお使いを頼まれてくれない?」
「えー……めんどくさ……」
「おばあちゃんにワインを届けてほしいの」
アカリの祖母は町外れの森にひっそりと住んでおり、街の人達からは魔女様と呼ばれて親しまれていた。
「はい、これ。ワイン」
「いや、引き受けるって言ってねぇんだけど」
「それと、最近、森で獣人が出るらしいわ。刀を忘れずにね」
「いや、引き受けるって言ってな「行ってらっしゃいアカリ。気をつけてね」
母親に祖母に届ける用のワインとおやつのリンゴが三つほど入ったカゴと、武器の刀を持たされ——もとい、押し付けられ、半ば強引に追い出されたアカリはため息を吐き、森の奥にある祖母の家へ向かいます。
「クソめんどくせぇ……か弱い女にそんな危険な森を一人で歩かせるなよ……」
悪態を吐きながら歩いていると、草むらからガサガサと草が揺れる音が聞こえてきました。アカリは咄嗟に刀の鞘に手をかけて、音がした方に目を向けます。
気のせいかと思い歩き出そうとした瞬間でした。草むらからぐぅぅぅ〜というなんとも拍子抜けするような情け無い音が聞こえてきました。
「……リンゴで良ければ、食うか?」
「……」
草むらに隠れている生物は答えません。しかし、アカリがリンゴを転がしてやると、恐る恐る手が伸びてきて、リンゴは草むらの中に引き込まれました。そして、中からむしゃむしゃと咀嚼音が聞こえてきました。
「あんた、人間?それとも獣人?」
「……」
「心配するな。あんたがあたしに危害を加えない限りはあたしもあんたに危害を加えたりしない」
アカリがそう話すと、草むらに隠れていた生物は恐る恐る顔を出しました。人間によく似た姿に、狼の耳と尻尾。獣人の一種である、
と、その時でした。どぉぉん!という鈍い銃声と共に『出てこい!獣人!』という怒号が響き渡りました。人狼の少女はびくりと飛び跳ね、そして素早く草むらに隠れました。
草むらの中で怯えるように震える少女を見たアカリはずきんを取り、少女に投げつけました。
「これで耳隠せ。耳さえ隠せば人間と見分けつかんだろ」
「しかし、尻尾が……」
「あ、そうか。……ちょっと触るよ」
アカリが人狼の尻尾に触れ、呪文を唱えると、尻尾は透明になり見えなくなりました。
「……尻尾、消えた。魔法か?」
「そう。魔法」
「オマエ、魔法使い?」
「一応ね。母さんやばあちゃんと違って、今みたいなしょっぼい魔法しか使えないけど」
「充分、凄い。ワタシ、魔法使えない」
「コツさえ掴めば多分あんたでも出来る。この森の奥には私のばあちゃんが住んでるんだ。狩人がいなくなるまではしばらく匿ってやるよ。ついておいで」
怯える人狼の少女の手を引き、アカリは歩き始めます。すると、猟銃を持った複数の猟師に遭遇しました。人狼の少女は咄嗟にアカリの後ろに隠れます。
「お嬢ちゃんたち、森に迷い込んだのかい?この森は獣人が入り込んだから危ないよ。入り口まで案内してあげるから、おじさんについておいで」
「迷い込んだ訳じゃなくて、あたしたち、森の奥に住む魔女様に用があるんです」
「魔女?この森は魔女様の住む森だったのか?」
「やっぱり。知らずに入ったんですね。あまり騒がしくすると魔女様に叱られますよ」
「し、しかし……獣人が……」
「魔女様がなんとかします。お引き取りください」
「しかし……」
「呪われたいんですか?」
アカリがそう脅すと、猟師は青ざめた顔をして、仲間を連れて森を去って行きました。
「……オマエのばあちゃん、魔女なのか?」
「あぁ。そうだよ。けど、悪い魔女じゃないし、あんたを退治したりしないから安心しろ」
「……魔女、人を生き返らせること、出来るか?」
「……それは流石に出来ないな」
「……そう……か……」
「……仲間、猟師に殺されたのか」
少女はこくりと頷き、そして泣き始めてしまいました。
「ワタシ達、悪いこと、してない。普通に生きてただけ。ワタシ達が人間を襲う、嘘。逆。人間がワタシ達を襲う。ワタシ達、人間、襲わない。食べたりしない。人間、ワタシ達食べない。なのになんで襲う?何のために襲う?分からない」
彼女の言う通り、人間は獣人の肉は食べません。動物のように毛皮や牙を何かの材料にするわけでもありません。狩人達が獣人を狩る理由は、獣人は人間に危害を加える危険な存在だという間違った常識があるからというのもありますが、中には、獣人を殺すことを娯楽としている者や、生捕りにして奴隷として売るために狩りをしている者もいました。
「オマエ、他の人間と違う。ワタシを怖がらない。優しい」
「……最初は怖かったよ。獣人は人を食う生き物だって聞いてたから」喰われると思ったから。けど、こんなに怯えてる奴があたしを食うとは思えなかったからな」
「そうか。……オマエ、名前は?ワタシ、ルゥ」
「あたしはアカリ」
「年は?」
「二十歳」
ルゥはアカリの年齢を聞いて目を丸くしました。
「獣人ならかなりおばあちゃん」
「そうなの?」
「獣人は四歳で大人。二十歳まで生きる獣人、ほとんど居ない。人間、長生き」
「獣人の寿命は短いのか?」
「短い。人間、何歳まで生きる?」
「んー……長くて百年ちょっとくらい?」
「百?……えっと……」
ルゥは指を折り数を数えて、首を傾げました。
「百は、十が何回?」
「十が十回」
「……十が十回……」
指を折りながら数を数えるルゥ。しかし、二十より先の数字がわからず、頭を抱えました。
「二十より多く数えたことない」
「二十の次は二十一」
「二十一」
「二十二、二十三……」
アカリは歩きながらルゥに数字を教えます。百まで教えたところで、家が見えて来ました。
「あの家が魔女の家か?」
「そう」
家の庭に足を踏み入れると、土でできた人形が花に水やりをしていました。ルゥはそれを見て驚き、アカリに「あれはなんだ」と説明を求めます。
「あぁ、あれ?ゴーレム」
「ごーれむ?」
「土人形。魔法で動かしてるんだ」
「……襲ってくる?」
「大丈夫。何もしない」
アカリはルゥの手を離し、庭に入り、ゴーレムの背中をトントンとたたきます。しかし、ゴーレムはアカリに見向きもしません。
「な?こいつは主人が命令したことしか出来ないんだ」
「……」
ルゥはそれを見て、恐る恐る庭に足を踏み入れます。そしてゴーレムの後ろを一気に駆け抜けて、アカリの後ろに隠れました。ゴーレムは黙々と水やりを続けています。
「ルゥ。大丈夫だってば。はい」
アカリが差し出した手を握り、ホッと息を吐いたルゥでしたが、家のドアが開くとびくりと飛び跳ねてアカリの後ろに隠れてしまいます。
「おや、アカリじゃないか。久しぶり。どうしたんだい隠れたりして。お嬢さんはアカリのお友達かい?」
家から出てきたのは七十歳くらいのおばあさんでした。
「おい。ずきんで孫を認識するなよ。顔くらい覚えてくれよ。ばあちゃん」
「ばあちゃん?」
「そう。この人があたしの祖母のルミナばあちゃん」
ルゥは女性とアカリを交互に見て「似てる」とつぶやきました。
「なんじゃ。そっちがアカリか」
「彼女、狩人に追われてこの森に迷い込んだんだ。匿ってくれないか?」
「ふむ……とりあえず中へお入り」
「ありがとう。ルゥ、おいで」
「お、お邪魔する」
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