屍鬼と化した【あなた】は復讐するようです。(誰に?)

ゆうきかごうもつ

Phase1:Awaken

0.チュートリアル


 【あなた】は目覚めた。何処で?


――綺麗に整ったベッドと部屋は、此処が安全な場所であると【あなた】に認識させる。ただ、その場に散らばる血が【あなた】の手術が行われたのだと感じさせる。


「やあ【ブルー・ブラッド】、目覚めの感触はどうだね?」


 声のした方向へ【あなた】が振り向くと、ガラス越しに痩せぎすの、メガネをかけた白衣の男が居た。猫背であることを加味してもその背丈は中々高い。

 目覚めの感触と言われようが【あなた】に起きる前の記憶が無い。辛うじて誰かに殺された様な記憶はあるが、ただそれだけだ。


 しかし、殺されたと言うのに【あなた】は生きている。何故か、その答えは痩せぎすの男が知っていた。


「状況を共有しよう。今は2066年、6年前に空より降り注いだ【ブラッドメテオ】により先進諸国の人口の3割は餓えた屍【屍喰鬼グール】と化した、だがその中には適応する事で自我を保った屍鬼【転死者ディフェイテッド】と化した存在が居た。君も、その内の1人だ」


――男に嘘をついている様子はない。【あなた】は話を続けさせた。


 殺されたはずにも関わらず生きているのは【転死者ディフェイテッド】によるものなのか。


「君もその加護を実感しての通り【転死者ディフェイテッド】は真の意味で死ぬことが無い。故に宿命づけられぬ者De-Fatedと呼ぶ。だがまあ繰り返し死ねばその限りではないがね」


 で、何故自分には記憶が無いのか【あなた】は訳知りそうな痩せぎす――ドクターに尋ねた。


「さあ? ただ私にとっては僥倖だとも。君は私に協力するより他はなく、私は君に寝床や情報を提供できる」


――それは【あなた】が不要になれば何時でも始末できるという事ではないか。そもそもオマエは何者だ。


 そう【あなた】が尋ねるとドクターは答えた。


「おや、不愉快かも知れないが、衛生的で安全な場所なんて早々ないとも。因みに私はドクター・クランケ。とでも呼んでくれ」


――医者にして患者ドクター・クランケとかコイツはイカれているのか。


 【あなた】は訝し気な目でドクターを見た。この男から出来る限り情報を抜かない限り【あなた】は安心できない。


「さて、私から説明できるのはこの程度だ、後は君の働き次第で色々教えよう。先ずはそこのクレートを開けるなり破壊するなりして中身を回収したまえ」


 【あなた】が周囲を見渡すとクレートが4コあった。赤が2コに、青、緑が1コずつである。

 赤いクレートには銃と剣の紋様が、青には盾、緑には白い十字が描かれている。


「理由は分からないが【ブラッドメテオ】以降、各地にこの様なクレートが現れる様になった。上手く破壊するなり、開けるなりすれば中身を回収できる。赤には武器が、青には防具が、緑には消耗品が入っている。白や黒もあるらしいが私は見た事が無いねえ」


 最初の赤色のクレートの中には磨き上げられたダンビラ――【狩猟刀】が入っていた。【あなた】の手にすんなり馴染む。2コ目には拳銃が、何故か弾薬はない。


「信じ難い話だが【転死者ディフェイテッド】が望めば弾薬は何処からともなく出て来る。もっともそのお陰か一部を除いて銃火器の類は【屍喰鬼グール】には効き難いそうだがね」


――無から有を生み出す事は出来ない。弾薬が装填されるのと同時に【あなた】から血が減って行く事を感じた。


 青色のクレートには微妙な質の防刃衣が入っていた。今の患者が着る衣服よりは、防御効果が期待出来そうだ。


 最後の緑のクレートには、緑色に淡く輝く石ころの様なものが入っていた。


「それは【再生力】だ。【転死者ディフェイテッド】の血肉を急速に修復し、傷を塞ぐ作用がある。聞いた所によると、一度使えば何度でも使えるらしい。ただし使った【再生力】は君が完全に休息するまでは失われる。君が使える【再生力】はそれを含めれば恐らく【2回】だ。試しにその装備で、ちょっと捕まえて来た【屍喰鬼グール】と戦ってみたまえ」


――何を言っているんだこのキチガイは。


 言うなり、扉の向こうから現れたのは乾いた人間。その目は赤く輝き、血に飢えている事は明白だった。


 【あなた】の前に敵が居る。その事実に【あなた】は高揚する。討ち滅ぼし、その血の記憶を得る事に、どうしようもないほどに興奮している。【転死者ディフェイテッド】の本能と言っても良い。


――殺す。


 狩猟刀を手に、【あなた】は【屍喰鬼グール】に襲い掛かった。この敵を殺して、血の記憶を得る。


 先手必殺。【あなた】の剣戟を【屍喰鬼グール】は素早く回避し、力任せの穢れたかぎ爪が左腕を切り裂く。

 近距離戦――続く【あなた】の攻撃が【屍喰鬼グール】の胴体を抉り、反撃を捌いて更に刺突を浴びせ、乱暴に抉りぬいて胴体を破壊する。


「ああそうそう、【屍喰鬼グール】も【転死者ディフェイテッド】も胴体を破壊したくらいじゃ死なない。頭を砕かれようがね……え? 死んだ?」


 【あなた】が蹴っ飛ばした【屍喰鬼グール】が、赤い灰に変わる。


「まあ、たまにはそんな事もあるね……」


 赤い、血の記憶が【あなた】に流れ込む。何はともかく【あなた】は生き延びた。血で出来たそれは【あなた】の渇望を――たった今自覚したそれを満たすには不十分な量だった。


 【あなた】は更なる【屍喰鬼グール】を殺さねばならない。何故なら【あなた】にとって、それは本能だからだ。


「これはこれは……とんでもない拾い物をしたかもしれないね……」


 ドクター・クランケは意外な結果を見る様に、【あなた】を見下ろしていた。


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