ストレスフリーの異世界に転生したはずなのにストレスフルで死にそうです助けて!!
kayako
第1話 俺たちの死は4行で終わる
俺たち3人組は、超ブラック企業に勤める社畜。
いつも通り4徹となったある晩、ヤケを起こして3人で一斉にエナドリを一気飲みしたところ──
気がついたら雲の上。謎のゲートの前にいた。
「というわけで、貴方がたはエナジードリンクの一気飲みで過労死し、この異世界『ウナロ』へ転生しました。
おめでとうございます~!」
ゲート前に立っていた、背中に白い羽を生やし、銀髪を三つ編みにした赤い目の少女がにこやかに宣言する。
おおかた天使というところだろう。何故頭からウサギ耳が生えているのか分からんが。
万一三つ編みの先端に人参が挟まってて語尾が特徴的だったら、色んな方面でヤバイしマズかった。というか現時点で既にヤバイかも知れん。そんな容姿の娘。
「えぇえ!? じゃあ僕たち死んじゃったってこと!?
帰ったらえみりんちゃんの配信見たかったのにー!!」
同期で同僚のはんぺんが、滂沱の涙を流して両腕を振り回す。
えみりんちゃんというのはこいつの大好きなVtober。
ちなみにこのはんぺん、定期的にドスケベを摂取しないと死ぬ体質である。
ずんぐりむっくりを絵にしたような体型で、生前は全く女にモテなかったが、遂に童貞のまま死んでしまったか。
「エナジードリンクの飲みすぎだなんて……
せめて、この前買ったばかりのリョナホラゲーで昇天しながら死にたかったです~」
後輩の玉露がしゅんと肩を落とす。
見た目は男子高校生、下手すると中学生に見えるレベルの童顔。でも一応立派なサラリーマン(だった)
しかしこの玉露、定期的に血しぶきを摂取しないと死ぬ体質である。
血ではなく、血しぶき。本人的にはここ重要。
正体が吸血鬼なのかって? いや関係ない、普段は全く普通の人間。
そういう趣味というだけだ。
そんな俺たち3人を見回しながら、天使らしき娘は聖母の如き微笑み──
とはまるで正反対の、いかにも俺らを見ていて爆笑が抑えきれないといったツラで、俺たちと眼を合わせないようにしながらゲートに案内する。
「貴方がたはこれから……プフ……『ウナロ』にて、新たな最強スキルを与えら……
クスス、ごはっ……だ、駄目、駄目だ、笑っちゃ……」
「何笑ってんの君! 僕ら死んだんだよ!?」
はんぺんがごもっともな怒りを露わにする。
しかし、エナドリの飲みすぎとは。確かに情けないにも程がある死にざまだ。
「プフ……き、気にしないでくださいね? プく……クスス……
エナドリ一気飲みによる異世界転生はトラックに代わる、むしろ今や流行で、全然……珍しくも……ぶふっ……
で、でも、3人同時にってのはさすがに爆笑が、いやあの、大変仲がおよろしいことで……ぶはっ!」
「君が無礼な駄天使というのは分かったからとりあえず早く話進めてくれる?」
「だ、駄天使とは何ですか! 言うに事欠いて駄目天使とは!!」
俺の突っ込みでようやく落ち着いたのか。
案内役の駄天使はようやくまともな説明を始めた。
「私はルーナ。皆さんを『ウナロ』へ導く案内役を神より仰せつかった、天使です。
皆さんは生前、あまりにも酷い労働で搾取されすぎました。
だからこれからはこの異世界で、スローライフを楽しむもよし!
めくるめく冒険を楽しむもよし、可愛い女性たちを囲うもよし、雑魚を蹴散らし無双するもよし!
この異世界は全て、ストレスフリー! 貴方がたの自由です!!」
こんな天使の言葉に、はんぺんも玉露も一気に目を輝かせた。
「だよね!
異世界といえばハーレム! 水着! 温泉! 混浴! 石油王! 酒池肉林!!」
「ですよね!
異世界といえば無双! 最強! 無敵! チート! レベルMAX! 血わき肉躍る冒険!!」
天使の言葉に、はんぺんも玉露もあっという間にゲートの向こうへ突っ込んでいく。
俺は──
「天辺 銀様……でしたっけ?
お友達がお待ちですよ。行かないんですか?」
「銀でいい。
それにしても……スローライフか」
その言葉は確かに、生前労働力として搾取されまくった俺の胸に、深く響いた。
時間に追われず、眠りたい時に眠って休みたい時に休み、働きたい時に働く。
そんな、人として当たり前の生活にどれだけ憧れたことか。
「……ちょっと、楽しみだ」
俺もまた惹かれるように、ゲートの中に飛び込んだ。
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