第67話
「返事は?」
春明のその一声すらしびれて、完全に朱飛の手から力が抜けた。
と、その時。
「――わざわざひとん家で、使用人に手ェ出してんじゃねぇよ」
側で男の声がして、春明はギロリとそちらを睨んだ。
仁内だった。
警備が終わり帰ってくる途中だったのか、彼は面倒臭いものを見てしまったと言わんばかりに苦い顔をしてこちらを見ている。
「何? 邪魔しないでくれる?」
「斗真がやれって言ったのかよ?」
「……」
互いが睨み合い、牽制する。
すると斗真という言葉で折れたのか、春明がハァと溜息をついて渋々朱飛の手を離し、彼女の拘束を解いた。
確かに斗真なら、彼に強要など絶対しないことだろう。
朱飛は紅潮した顔を隠すように頭を下げると、すぐさま走り去っていった。
「あーあ。せっかくもう少しで吐かせられそうだったのに」
「あいつは内通者じゃねぇだろ?」
「分かってるわ、そんなこと。でもいっぱい隠しごとしてるのも事実でしょ?」
春明はケロッとした態度で、悪びれる様子もなく口を尖らせて言った。
朱飛が般若の影らの味方でないことは、奴らに攻撃したクナイの刺さり具合を見ることで既に分かっていたのだった。
けれど彼女の一派の中に内通している者がいることも察していて、春明はそれを聞き出したかったのだ。
「あいつら、仲間内でもめてるのか?」
「多分ね。朱飛がいないのを見計らってアンタに欠片を渡してきたのも、そういう理由があるんじゃない?」
「……ちっ、秘密になんかしてねぇじゃねぇか、あの野郎」
斗真があっさり春明に話していたことを知り、仁内は舌打ちした。
それにしても、と春明は黙り込む。
朱飛たちは何でもめているのか。
そう考えた時、ふと斗真の言葉と灯乃の存在が浮上した。
――灯乃ちゃんを三日鷺から解放しようとしてる者が、朱飛たちの中にいるってこと? いったいどういう繋がりが……?
そんなことを春明はフツフツと考えていると、仁内がじっと見てくるのに気づく。
「何?」
「お前、もうこんな胸糞悪ぃやり方はやめろよ」
「胸糞悪い? 何のことかしら?」
「朱飛のことだ。やられた方の身にもなれよ、どうせ責任なんか取らねぇんだろうが」
「フッ、知らないわよそんなの。クズ相手にいちいち気にしてられないでしょ?」
「……」
春明は馬鹿馬鹿しいと薄ら笑いを浮かべると、再び考えに耽った。
――女なんて、皆クズ。……そうでしょ? 斗真くん
「春明」
そんな時、仁内がこれ程までにないというくらいに目をつり上げて言った。
「間違っても灯乃には……あいつにだけはてめぇのその目、絶対ぇ見せんじゃねぇぞ」
「え?」
その言葉に春明は一瞬呆けるが、普段あまり見ない彼の真剣な表情に、途端に眉を鋭く上げた。
――こいつも灯乃ちゃん、か。どいつもこいつも……
「…………どうかしらね」
春明は小さく呟くように言うと、自室へと去っていった。
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