第63話

 「何処で騒ぎが起こってるの!?」

 「こっちよ!」


 斗真たちの方で騒ぎが起こった頃、その異変に灯乃たちも気づいて駆けつけようと向かっていた。

 しかし斗真たちとは反対方向から向かった為に、彼らと合流せずに庭を駆けていく白犬を見つける。


 「犬? 迷い込んだのかしら?」

 「あの犬は……!」


 春明が見過ごそうとしていると、側で灯乃は目を見開き、慌ててそれを追いかける。


 「どうしたのっ? ただの犬じゃないの?」

 「あの犬、お姉ちゃんの犬なの」

 「え?」


 その言葉を聞き、春明は訝しく目を細めると灯乃の後を走る。

 すると、犬の方へ向かって次々と警備班のクナイが降りかかり、近づこうと外へ飛び出した灯乃の体を春明が急いで止めた。


 「攻撃に巻き込まれないでよ?」

 「ごめん、ありがと」


 危くクナイの餌食になりそうになり、灯乃はホッと肩をなで下ろすが、次の瞬間、二人に向かって新たにクナイが数本飛んで来て、春明が咄嗟に薙刀で振り払う。

 警備班が間違って放ってしまったのだろうか?

 いや、違う。

 これは混乱に乗じて紛れ込ませた攻撃。


 「――誰?」


 春明が飛んで来た方を見上げると、屋根の上に一つの人影を見つけた。

 般若の面をし黒マントが風に靡いていて、春明はそちらへ構える。


 ――例の奴ら? いや、違う。この感じはまるで……


 春明は何かと重なるものを感じ取り一瞬戸惑うが、その隙をついて人影は騒ぎから逃げるように遠くへ跳んだ。


 「あ、待ちなさい!」


 すかさず春明は影を追い走る。

 そんな彼を灯乃もまた追いかけるが、ひと気のない場所へと誘導されていたのか、騒ぎになっている庭とはかけ離れた場所までやって来るなり、そこで春明を狙って攻撃が仕掛けられた。

 素早くその人影は動き回り、あらゆる角度から彼へクナイを放つ。


 「春明さん!」

 「灯乃ちゃんは下がって」


 薙刀で一気にクナイを払い除け、春明は自身に近づこうとする灯乃の足を止めた。

 どうやら一人で戦う気だ。

 彼は負傷している上に三日鷺の力を発揮できない状態であるのに、それでも涼しげな顔で薙刀を構える。

 相手も一人、決して負けはしないという気迫が春明の双眸に表れていたのだろう。

 それを般若の敵は感じ取ってか一瞬たじろぐと、標準を灯乃へと変え、彼女に走っていった。

 しかしそれを春明がたたく。


 「うろちょろするのが好きなハエね」


 薙刀を振り回して春明は攻撃するも、それを躱してクナイを仕掛ける敵。

 しかし彼と戦う気はもうないのか、広く間合いをとると、灯乃の方へ仕込み持っていた鎖を投げ放った。


 「分銅鎖……!?」


 春明はその鎖を払い除けて灯乃を庇うも、表情をますます険しくさせる。


 ――灯乃ちゃんを攻撃ではなく捕まえようとしてる? それにしてもこいつ……


 敵は鎖を器用にまとめあげると、灯乃を狙ってそれを振り回し機会を伺う。

 春明も隙を見せまいと凝視するが、そろそろ足の痛みが悲鳴をあげ出し、僅かながらに警戒がゆるむ。

 するとその時、まったく別の方向から短剣が彼に飛んで来た。

 

 「っ!」


 春明はすぐに察知し身体をひねるが、それが隙となり、目の前の敵が灯乃を狙って鎖を投げた。

 敵がもう一人いる。

 それに気づいた頃には、鎖が灯乃の体を絡め取ろうとすぐ側まで迫った時だった。

 しかし。


 「――させるかよ」


 直前で灯乃を抱き上げ、雄二が跳び退いた。

 

 「雄二君!」

 「雄二!」

 「大丈夫か?」


 彼は安堵する二人を見るなり灯乃をゆっくり降ろすと、鎖を引き戻し身構える般若の影を睨みつける。

 するとその側にもう一人、般若の面をかけた黒影が舞い降り、しゃがみ込んだ。

 肩にクナイが刺さり、傷を負っている。

 どうやら短剣を投げて来たのは、この者のようだが、二人の般若は互いに目配せすると目的を諦めてこの場を離れようと考えたのか、適当にクナイを投げ放ち、三人から背を向け走り出した。


 「逃がすかよ!」


 春明がクナイを払い、雄二が追いかけると、一方の般若の影が鎖を巧みに振り上げ攻撃してくる。

 しかし雄二の方が上手だったのか、それを掴むと一気に黒影を引き寄せた。


 「お前のつら、拝ませてもらうぜ」


 雄二が顔面を蹴ると、般若の面が真っ二つに割れ、半分がカタンと地に落ちる。

 雄二の目に素顔が映し出された。



 ――え…………



 「雄二君!」


 春明の叫び声が聞こえると、もう一方の黒影が短剣を振りかざし、雄二はハッとして後ろへ退く。

 その隙をつかれ、二人の般若の敵は暗闇へと溶け込み、逃げ去っていった。

 春明は追いかけようとしたが、もはやその先は何も見えない。

 斗真たちが駆けつけたのは、その直後だった。

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