学校

第41話

 「――社会実習の一環として、彼は今日から皆と一緒に勉強することとなった。一ヶ月という短い期間だが、仲良くするように」


 ――どうしてこうなったのか


 教壇の横で不機嫌そうに立つ人物を、灯乃と雄二は不安に満ちあふれた眼差しで見つめていた。


 事の発端は、雄二を空手の大会に出場させる為、部活動を続けさせてあげたいという灯乃と春明からの要望に、亜樹が応えたことから始まる。


 「亜樹、それは許可できん。分かっておろう、どれだけ危険なことか」


 馳走が並ぶ客間の上座に、樹仁がドスンと腰をおろして腕を組みながら亜樹の話を聞いていた。

 が、終わると同時に首を横に振り、隣に座る斗真へ目を向けると表情を堅くする。


 「我々は、次期当主である斗真と三日鷺を護らねばならん。何故それが分からんのだ」

 「叔母上、俺も反対です。今は下手な行動は避けるべき時。学校に通っている場合じゃない」


 斗真も反対なのか、厳しい口調で率直に答えた。

 その態度はあまりに揺るぎなく真っ直ぐで、いつものように気やすく反発できる余地などない上に、何処か負い目を感じさせられ丸め込まれてしまう説得力があった。

 灯乃はあからさまに落胆すると、右隣に座っていた春明の袖をこっそりと掴む。

 するとそれに気付いた春明が、何故か余裕の笑みで灯乃に小さく囁いた。


 「大丈夫、何も心配することはないわ」

 「え?」


 明らかに話は不利な方へと進んでいるのに、特に口出しするようなこともせず春明は事の進行を見守っている。

 どうしてそれ程までに余裕があるのか。

 それはすぐに分かることとなる。


 「あら、あなた方はどうしてそう頭が固いのかしら」


 亜樹が軽く笑みをこぼし、本領を発揮するように鋭い瞳を光らせた。

 そんな彼女の気配が制圧的なものへと変貌し、樹仁と斗真は僅かに身体を強ばらせる。


 「敵は、雄二君の存在を逸早く知り、彼の自宅を燃やした。イレギュラーだった彼に対して、あまりに迅速的且つ大胆な行動だったと思いませんか?」

 「だから何だというのだ?」

 「もしやそれは元々彼を知っている者の仕業、例の彼らではないということも考えられます」


 亜樹はそう言うと、チラリと雄二を一瞥した。

 そんな彼女の視線には気付かず、雄二は言葉だけに反応し、ふと脳裏にとある人物を浮かび上がらせる。


 ――唯朝 陽子


 白い犬を連れ、火事の現場で出会した彼女。

 彼女が放火の張本人かはまだはっきりとはしていないが、何らかの関わりがあるのは間違いないと雄二は思っている。


 ――なんせ陽子は、三日鷺の欠片を持っていたのだから……


 しかし彼女のことはまだ話せない。

 灯乃のことを考えると、もう少し陽子であるという確証が欲しい。

 ほんの僅かな可能性だが、見間違いということもあるのだ。

 寧ろそうであって欲しい。

 何とかそれを探る手段はないものか。

 雄二はそう思いつつ、会話の音に耳を傾けた。

 すると、猛反対する斗真の声が届く。


 「叔母上、まさかそれが学校関係者内にいるとでも言いたいのですか? 推測に過ぎません。それに仮にそうだとしたら尚のこと、素性の知れない敵が潜んでいるかもしれない所へ行かせるなんてできない」


 斗真はきっぱりと主張し、亜樹の意見を切り捨てた。

 途中、灯乃の曇っていく顔が垣間見え、心苦しいものも僅かに感じはしたが、斗真に意見を変える気は毛頭なかった。

 雄二の登校を許してしまえば、一人では心配だからと灯乃も付いて行き兼ねないからだ。

 彼にとってそれが恐ろしいことだったのだ。

 しかしそんな斗真の考えとは裏腹に、亜樹も意見を変えるつもりはなく、口を開く。


 「本当にそうかしら?」

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