第6話 すれ違い
片思いしていた上井くんと喋れなくなって、別れようと思ってた北村先輩とは別れるキッカケが掴めなくて、そのまま2年生が終わり、3年生に上がったアタシは、物凄い中途半端な心理状態。
そして上井くんとは、3年生に上がったらクラスが別々になっちゃったから、喋れるチャンスは部活の時だけしかなくなっちゃった。
その代わり、アタシの親友チカちゃんが、上井くんと同じクラスになったんだよ。
アタシ、上井くんはチカちゃんのことが好きだと思い込んでたんだけど、アタシのことを好きになってくれてたみたいで…。
卒業式の後、クラスで上井くんから聞いた告白は、アタシには衝撃的で辛かったもん…。
元々の原因は、上井くんに元気出してもらおうと思って、友達以上恋人未満みたいな行動をしたアタシにあるから仕方ないんだけど、問題はアタシもチカちゃんが北村先輩に虐められた件から上井くんのことが気になって、本当に好きになっちゃったことなの。だから、2年生の終わりの頃は、実は両思いだったってことなんだよね。
でも、せっかくアタシのことを好きになってくれた上井くんは、アタシと北村先輩が抱き合ってる現場を見ちゃったから、もうアタシに対する恋愛感情は無くなったと思うの。いくら北村先輩が強引にやったこととはいっても。
というか上井くんのことだから、無理にでもアタシへの好きって気持ちは消そうとするはず。
1年付き合ってきたから、上井くんの性格は分かってるつもりだし。
今は北村先輩と形上は付き合ってるけど、北村先輩が高校に通いだしたらまた会えなくなるし、今度は1学年違うだけじゃなくて、通う学校自体が違うから、前もなかなか会えなかったのに、もっと会えない時間が増えるよ、きっと。
そんな年上彼氏と、別れるつもりが別れられなかったから、アタシは中学校の中で身動きが取れないんだ。
だからもう、上井くんとはお話も出来ないと思うんだ…(。•́︿•̀。)
3年生になって部活に毎日出てはいるけど、上井くんとたまに目が合っても、スッと逸らされちゃうし。
去年の今頃とか、途中入部した上井くんに、吹奏楽部を辞めさせないように、必死に話し掛けたりしてたなぁ。今じゃアタシを追い越して部長さんに出世したなんて。
一年前に戻りたいなぁ…。
あーっ、アタシはどうしたらいいの?
「や・ま・が・み・さん!」
はいっ?
「最近、元気無いのぉ。何を悩みよるんじゃ?」
後ろから声が聞こえて、振り向いたら竹吉先生だった。
思い切って、先生に相談してみようかな…。
「先生、悩みがあるんです。相談に乗ってくれませんか?」
「お、いきなり俺の予想的中か?うん、いつでもええよ。部活の後にでも職員室にお出で」
「ありがとうございます、先生」
竹吉先生はいつも頼りになるけど、今日はとても背中が大きく見えた。
どうか先生、アタシを助けて…。
そして今日も部活が終わり、上井くんは淡々とバリトンサックスを片付け、時々男子の後輩達と冗談言い合いながら、最後の一人が音楽室を出ていくまで、待ってる。
アタシは、先に職員室へ急いで駆けつけて、竹吉先生に相談に乗ってもらわなきゃ。
あれ?いつもの竹吉先生の席に、先生がいない…。
「おお、山神。こっちだよ、こっち」
先生は、奥のパーテーションで仕切られた相談コーナーみたいな所にいたの。分かんないよ、そんな所にいたら…。
「先生、そこにいたら分かんないよ~」
「俺の席でもいいけど、もうすぐ上井が音楽室のカギ締めて、俺の所に持ってくるぞ?それは、マズイ!んだろ?」
えっ、なんで先生はアタシが上井くんのことで迷ってるのをもう察知してるの?
「まず俺からな。山神と北村が付き合っとることは、もう俺以外の先生らもみんな知っとる。だから最初は、北村が卒業したから寂しくて、部活で落ち込んどるのかと思ったんよ」
「アタシと北村先輩が付き合ってる事って、先生方みんな知っておられるんですか?」
「そりゃあ1年半か?付き合いだしてから。帰り道でお手て繋いで歩いてりゃ、先生方だって帰る時に目撃するよな。吹奏楽部の2人だから、先生方はみんな俺に聞きに来るしな。部活での態度とか見てたら、なるほどな、って分かっちゃうよ」
「そ、そうだったんですね…」
アタシは顔が真っ赤になっちゃった。
「でも先生、アタシが上井くんのことで悩んでるって、なんで分かったんですか?」
「ん?まあ部活内でのお前らの様子もそうじゃけど、ついこの前北村が一度俺に会いに来たことがあってな、それで色々聞いたんよ」
「えっ!北村先輩、いつの間に?何を話しに先生の所へ?」
「まあありがちなんじゃけど、なかなか高校に馴染めなくてどうすればいいか、ってな話と、吹奏楽部は上手くいってるか、彼女…お前のことな、の様子はどうか、部長の上井は頑張ってるか、とにかく色んなことだよ」
そっかぁ、せっかく志望校に受かったのに、北村先輩、馴染めてないんだ…。
「まあ高校はアイツのやりたい学科に行けたんじゃけぇ、その内慣れていくはずじゃと応援するしかないんじゃが、なんとなくアイツ、お前と上井が付き合ってるんじゃないかって勘繰っててなぁ」
「ええっ、上井くんとアタシがですか?」
「それで、部内でそんな様子はないですかと聞いてくるから、その時はいや、そんな話は知らん、って言ったんじゃが…。でもそんなこと聞かされたら俺も気になるし、時々部活中の上井と山神を見よったんじゃが、お前達、付き合うどうこう以前に、全く会話すらしてないじゃろう?」
「…はっ、はい…」
「去年の後半は結構、お前や神戸が上井を弄ったりして楽しそうだったけど、何か変なタイミングでもあったのか、最近はまったく会話もしとらんし、上井に至ってはお前だけじゃなく、全く他の同期の女子と喋ろうともしない。副部長の船木ともな…」
「・・・」
アタシのせいだ…。純粋で照れ屋な上井くんの心を傷付けちゃったんだ…。だから、女の子のことが怖くなっちゃってるんだ、きっと。チカちゃんのことも、もう諦めてるかもしれない…。
「何か、心当たりはあるか?」
「…はい…」
「良ければ、教えてくれ。勿論、誰にも言わんから。嫌なら、無理にとは言わない」
アタシは、去年の春に上井くんが途中入部してきたけど、今にも辞めそうな雰囲気だったから、辞めさせたくないと思って色々と話し掛けたことや、クラスでも吹奏楽部の練習に行きやすいように部活以外の事も話し掛けたりして、その行動は周りから見たらヘタしたらカップル?みたいな感じに見えたかもしれないということ、だからきっと上井くんはアタシのことを好きになってしまっただろうに、卒業式の日に北村先輩に抱きしめられた瞬間を上井くんに目撃されて、落ち込んだ上井くんの最後のネガティブな告白を聞いたこととかを、一気に竹吉先生に喋った。
「…そっかぁ、そんな経緯があったんじゃのぉ。でも、上井が途中入部してくれた時にケアしてくれたのは、俺は感謝しなきゃいけないことだな。俺も上井をバリサクに引っ張れたとはいえ、なかなか教えてやれんかったから、最初はアイツも孤独だったと思うし。でも北村は何か言わなかったか?アイツ、嫉妬心が強いヤツだから、お前がミエハルを構うことを、よく思ってなかったんじゃないか?」
「はい、一度言われました。上井のことはほっとけって」
「やっぱりな。アイツは損な性格しとるよ。外見も悪くないのに、嫉妬深くて冷たそうな性格が顔に現れとるんよな、北村は。だからアイツはトランペットがあれだけ上手いのに、周りに誰も寄り付かんのよ。教えてくれとか、普通なら後輩が聞きに行きそうなもんじゃけど、いつも一人で練習しとったからなぁ。じゃけぇ今の3年のトランペット2人は、両極端に育ってしもうた。真面目じゃけど本番に弱いのと、不真面目なのと」
そう言われればそうかも。でもアタシはチカちゃんの天然パーマ事件を思い出した。思えば、あれが色々なことの転機だったのかもしれない。あれでアタシは、上井くんがチカちゃんのことを好きなんだと思い込んだし、チカちゃんも上井くんに恩義を感じて、気になる存在になったはず。
アタシも、上井くんが頼もしく見えて、身近な存在だったから、いつの間にか心の中に上井くんが入り込んできて、友達以上の接し方をしちゃったから、上井くんもクラスが一緒なアタシのことを好きになってくれたのに、結果的には…。
「・・・」
「とりあえず北村には、上井は既に彼氏がいる女の子を奪うような奴じゃないって言っといた。吹奏楽部も上井なりに頑張ってるから、安心しとけとも言っといた。でも山神、本当のお前の気持ちはどうなんだ?」
「アタシは…」
アタシって今からどうしたいんだろう…。
<次回へ続く>
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