山神恵子

イノウエ マサズミ

第1話 途中入部

 アタシは緒方中学校の2年生、山神恵子って言うの。


 1年生のときから吹奏楽部に入って、クラリネットを吹いてるんだ。


 同期のチカちゃんとは、小学校からの仲良し♪

 小学校でも音楽クラブに一緒に入ってて、中学校に入ったら吹奏楽部に入ろうね!って言って、実現したの。


 だから毎日の練習も楽しいし、何よりアタシ、中1の文化祭の時に、一つ年上の北村部長に告白されて、初めての彼氏が出来たんだよ💖


 だから毎日楽しいし、充実してるんだ♪


 そして2年生に上がったんだけど、吹奏楽部に新しく男子が入って来たの。1年生じゃなくて、2年生からっていう途中入部。


 実は1年生の時に、同期が20人ほどいる中で、バリトンサックスを吹いてた男の子が一人だけいたんだ。


 だけどお父さんの転勤で、2学期を最後に転校してったの。


 それで同期生に男子がいなくなっちゃったんだけど、顧問の竹吉先生が熱心に口説き落として、2年生になると同時に途中入部してきたのが上井純一くん。


 実は上井くんのことは、中学校に上がった時に、横浜から転校してきた男子がいる❗って聞いてて、存在は知ってたんだよ😄


 おとなしい男の子かな?と思って見てたんだけど、1年生の時にアタシと同じクラスの、女子バレー部のTさんのことを好きになったみたいでね💕

 休み時間とかに、友達に連れられて、不自然にアタシのクラスに来てたこともあったなぁ。


 でもTさんには小6の時から続いてる彼氏Yくんがいたから上井くんには残念な結末に終わっちゃったみたい…。


 アタシは逆にその事で、変に上井くんを意識するようになったの。

 好きとかじゃないんだけど、なーんかほっとけない、母性本能をくすぐるタイプ?


 せっかく横浜から転校してきたんだし、彼女でも出来たらいいのに、Tさんに失恋してからはガックリしたのか、アタシのクラスに来ることも無くなっちゃったの。

 多分上井くんのことを意識してるというか、好きな女の子もいると思うんだけど、上井くんがウブなのか、女の子がオクテなのか…。


 それが2年生になったら、クラス替えで上井くんと同じクラスになったんだよね。

 更に吹奏楽部に入ってくれたから、ちょっとお母さん…は早いか、お姉さんみたいな気持ちで、上井くんと接するチャンスが沢山ありそうだから、色々話せるようになりたいし、色々助けて上げたいな。


 え?なんでアタシが上井くんに世話を焼きたがるのかって?


 うーん、アタシも母性本能をくすぐられてるのかなぁ…、もしかして(〃´∪`〃)ゞ


 @@@@@@@@@@@@@@@


「ねぇ、上井くん!バリサクの音、出るようになった?」


 アタシは吹奏楽部の時じゃなく、クラスで、初めて上井くんに話し掛けてみたよ。

 上井くんが休憩時間に一人で窓から外を見てたから、チャンス!と思ってね。


 上井くんはビックリしてたなぁ(^m^*)


 やっぱりあんまり女の子に免疫はないみたい。


「あっ、山神さん、ありがとう。楽器はなかなか難しくて…。それに知り合いもいないし…」


 まあ、今のところはそうなっちゃうよね。


「もしさ、まだ部活の雰囲気とか慣れてないなら、アタシが話し相手になってあげるよ。だから、せっかく吹奏楽部に入ったんだもん、一緒に頑張ろっ!ね?」


「本当に?ありがとうね。何せさ、同学年の男子がいないのって結構ツラくて。サックスの中でもまだ誰だコイツ?みたいな感じで溶け込めてないし、楽器は重くて難しいし、入らなきゃよかったかも…なんて思ったりすることもあるんだ」


 えーっ、入らなきゃよかったかも…って、もう辞めちゃうってこと?


 せっかく男の子が入ってくれて、竹吉先生も安心してたし、同期の女の子達もホッとしてたのに…。


「ねえねえ上井くん、入らなきゃよかった…って、最初はみんな誰でも思うことだよ。誰だって最初は初心者だもん。上井くん、これまで楽器の経験はあるんだっけ?」


「いや…。小学校の時の音楽の授業でリコーダーを吹いただけ」


「そっか。それなら、サックスは大丈夫だよ!リコーダーとほとんど同じ指の動きだし。まだ入って3日目じゃん!3日目で部活に慣れてて初心者なのに楽器も完璧なんて人、いないって。アタシ、上井くんと一緒にコンクールに出れるの、楽しみにしてるよ」


「コンクール?何それ?」


「あっ、まだ行事とかイベントとか、分かんないよね、ごめんね。あのね、コンクールって、夏休みの終わり頃に開催される、広島県内の中学校が全部集まって金賞を狙って頑張るイベントだよ」


「夏の終わり?っていうと、夏休みは潰れちゃうの?」


「うーん…、アタシもそこはよく分かんない。実は去年は、ウチの中学校はコンクールに人数不足で出てないんだ。だから夏休みも殆ど本格的な練習はしなくて、9月の体育祭の練習に時々集まってただけだから…」


「夏休み潰れるのかぁ、嫌だなぁ…」


 うーん、今のネガティブ上井くんをどうすればポジティブにしてあげられるかなぁ。


 アタシは去年、上井くんが何部だったかも知ってるし、噂レベルだけどなんで帰宅部になったかも知ってる。アタシの先輩彼氏からも、ちょっと聞いたことあるし。


 だから個人的には、そんな卑怯なことする先輩連中を、吹奏楽部で活躍することで見返してやれー!って思うんだけど、逆にそんなこと言ったら、上井くんには逆効果になっちゃいそうだね。なかなか難しいなぁ。


「とりあえずさ、辞めるのはいつでも出来るんだから、もう少しアタシと言う友達も出来たことだし!頑張ろっ!」


「山神さん、こんな俺でも、友達って言ってくれるの?」


 上井くんはちょっと下向きだった顔を、アタシの方を見るようにして、そう言ってくれたよ。

 この言葉が一番効き目あったかな?(ノ▽≦)


「あったりまえじゃん!同じクラスで同じ部活だもん。違うのは性別だけだよ、なんてね」


 上井くん、少し明るい表情になって来たよ。


「じゃあ、今日の部活は、アタシと一緒に行こうよ。きっとまだ上井くん一人で慣れてない放課後の音楽室に行くから、なんとなく抵抗感があったりすると思うんだ。今日だけじゃなくて、しばらく一緒に音楽室に行こうよ」


 上井くんは、アタシのその言葉で、グッと明るい表情になったよ!


「えっ、学校のアイドルの山神さんと毎日一緒に部活に行けるんなら、こっちからお願いしたいくらいだよ」


「アイドルなんかじゃないってば!じゃあ、帰りの学活の後、一緒に行こうね」


 って、アタシは右手の小指を上井くんに向けて差し出したの。

 上井くんも照れながら、右手の小指を出してきたよ。


「はい、ヤ・ク・ソ・ク!じゃあ、残りの授業も頑張ろうねっ」


 右手の小指同士を絡ませて、上井くんと約束したの。


 凄い照れてる上井くんが、可愛いな~。


 やっぱり母性本能をくすぐる男の子だよ、上井くんは…。


 <次回へ続く>

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