第四話
オルカは私と目を合わせない。いつになく耳が赤くなっているように見える。私はそっと違和感を覚えた部分に触れてみる。
「あなた……、女の子だったのっ!?」
わずかながらに彼女には胸の脹らみがあった。それも胸筋としてできたものではなく、柔らかく弾力のあるものだ。
「そうだ。だが、小さい頃から男として育てられてきた」
「え、だから自分のことを俺って」
「ああ。俺自身もそっちの方が自分の性に合っているしな」
そう言って、オルカは立ち上がる。
「後は自分でやる。ありがとう、セイラ」
「え、ええ……」
呆気に取られているうちに、オルカは風呂場の方へ姿を消した。
頭が混乱する。ずっと異性だと思っていた相手が同性だったというのは、かなり衝撃的だ。落ち着こうと深呼吸する。ふと、彼女の羽織っていた上着のポケットから、何かが覗いているのが見えた。
「これ……」
それは、私がオルカに初めてプレゼントしたサメのぬいぐるみだった。自分で一から作ったぬいぐるみだ。確か、オルカに我が王国に代々継承されている水剣を父が授けた時に、お守りとして渡したもの。
「ずっと、持っててくれたんだ」
普段は素っ気なく、時々自分は嫌われているのではないかと思うこともあった。だが、そうではなかったとぬいぐるみを見て、嬉しくなる。そっと元の場所に戻している時に、何やら部屋の外から慌ただしい音が聞こえてきた。
「何かあったのかしら?」
不思議に思っていると、すぐに部屋の外にいた侍女が血相を変えて、部屋に戻ってきた。
「セイラ様っ!! 大変です! 陛下が……」
「お父様!?」
丁度その時、お風呂からオルカが上がってくる音がした。侍女の言葉が聞こえていたのだろう。すぐに着替えて、私の手を取る。
「セイラ、行こう」
そのまま彼女に引っ張られる形で、私たちは部屋を飛び出した。
*****
「お父様……!」
父の寝室に行くと、母がベットの傍で泣き崩れていた。父の胸には短剣が突き刺さっている。その姿を見て、倒れそうになるのをオルカが支えてくれた。
「これは、どういうことだ」
オルカが周りにいた兵士たちに詳しいことを尋ねる。
最初に発見したのは、様子を見に来た兵士だそうだ。母は父の様子を見に行こうと部屋を訪れた時に、父の部屋から見知らぬ兵士が現れ、その場で気を失わされたらしい。侍女たちも同様な状態だった。その後、見回りに来た兵士が彼女らに気付き、父の部屋を確認したところ、こうなっていたそうだ。
「一体、誰がこんなことを……」
「……」
父のことを直視できず、目をそらすとオルカの姿が目に入った。彼女は母のことをじっと見つめていた。いや、むしろ睨んでいるように見えた。
「オルカ……?」
声をかけると我に返ったように、彼女はいつもの表情になり、兵士たちに指示を出す。
「ひとまず、王妃を別室で休ませろ。この部屋の侵入経路を確認し、怪しい者を見た者がいないか聞き集めてこい。特に深海水族の者たちを見ていないか、確認しろっ!」
「はっ」
母の侍女が母を別室へ連れていこうとするのを手伝いに行こうとする私をオルカが止める。
「セイラ。話がある」
いつになく緊迫した様子に、何かこれから起こるのかもしれないと予感し、私はただ黙って頷く。
母が部屋を出て行くのを見送り、兵士たちも慌ただしく出入りしている中、オルカに連れられて父の書斎室へ向かう。誰も周りにいないことを確認し、オルカが静かな声で話し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます