永久の恋風
玉瀬 羽依
第一話
これは辺り一面が水に支配され、どこまでも深く続く水の世界に住む私たちのお話。
――――いいえ。具体的には、私とあの人のお話ね。
*****
海の
ここは、綺麗な露草色の水に覆われていて、私たち人魚が王国を築いていた。あらゆる水族たちの橋渡しとなり、平和で穏やかな生活を送っていた。
私は、この王国の一人娘セイラ。
『セイラ。愛しの我が娘よ』
いつも愛情を注いでくれる父。そんな私たちを静かに微笑みながら、見つめる母。
大好きな父と母と数多くの使用人たちと城で暮らしていて、私はとても幸せだった。
そんなある日、私が十代になった頃だっただろうか。父が見知らぬ子を連れてきた。その子は長い髪を一つにまとめていて、黒ずくめの服に腰には剣を下げている。
『おいで、セイラ。紹介したい子がいるんだ。――この子は、オルカ。今日から城で働くことになったんだよ』
『……』
オルカと呼ばれた子は挨拶をするでもなく、私をじっと見つめた。
その目は、切れ長で闇夜のように漆黒な色をしていた。どことなく相手を信用していない、諦めたような目をしているなと子供ながらに感じた。だけど何故だか、その瞳に私はとても惹かれたのだ。
『オルカ、よろしくね! 私、セイラ』
私は、オルカの人を寄せつけない雰囲気を気にせずに、明るく微笑みかける。右手を差し出すが、一瞥されるだけだった。その様子を見ていた父が苦笑いする。
『オルカは少し人見知りなようだ。セイラ、この子と仲良くしてくれるか? 歳は三つ、四つ違いだが』
『ええ! お父様、私ね、歳の近いお友達が欲しかったの』
父の言葉に私は笑顔で答える。私と歳の近い子達は水丘の上にあるこの王国唯一の学校に通っていた。しかし、王城生活の私は彼らと異なり、花嫁修業や王国に関することの特別授業を受けていたのだ。そのため、周りは自分より十以上も歳の離れた人たちばかり。しかも王女という立場でもあるためか、皆あまり長く話し相手になってくれる人はそうそういなかった。だから、次の父の言葉に私はより一層嬉しくなったのだ。
『そうかそうか。実はセイラが友達が出来なくて寂しがっていると思ってね。オルカを連れてきたんだ』
『そうなの!? わぁ、とっても嬉しい! お父様、ありがとう。大好きっ!』
『私も大好きだよ、愛しのセイラ』
父がいつものように力強く抱きしめてくれ、私はその大きな胸に全身を預ける。頭上で父の声が低く響く。
『オルカ、セイラを頼んだよ』
『……はい』
その時初めて、オルカが声を発した。その声は少し高く、幼さが残る声だったのを覚えている。
私は父の含みのある言い方に少し違和感を覚えたが、それよりオルカに聞きたいことがたくさんあり、興味がすぐ逸れた。当時は、これから自分の人生が大きく変わることが起き始めていたとは想像もしていなかった。
『ねぇ、オルカ。あなたは、剣術が得意なの?』
私はオルカの腰に下がっている剣を指差す。
『……ああ』
それが、私達が初めての交わした会話だった。
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