-41- 「毒蟲」

 森崎君と、ハンバーガーショップでお昼ご飯を食べていた時、隣のテーブルに、男の人が一人で座っていた。


 その人は、ハンバーガーの包み紙を開けると、中身の具を一枚一枚めくり始めた。


 すると、ハンバーグの下から、ミミズの様な蟲が顔を出した。


 男の人は、ち、と舌打ちすると、ハンバーガーを元に戻し、包み紙で綺麗に包み直した。


 そして、僕の視線に気付くと、


「どうしたんだい。何か面白い物でも見えたかな」


と言った。


「ミミズみたいなのが見えました」


 僕が答えると、その人は人差し指を口に当てて、しーっと言った。


「滅多なことを言うものじゃないよ。お店でそんな事を言ったら、風評被害で訴えられるよ」


 そして、声を落として、


「今のは毒蟲、僕が口にしようとした食べ物に紛れ込み、僕に食べられようとする変なイキモノさ。食べたらどうなるのかは、知らないけれど」


 そう言ってその人は、毒蟲が混入して食べられなくなったハンバーガーに目を落とした。


 すると、その毒蟲はハンバーガーの包み紙の隙間から這い出てきて、すぐそばにあったポテトの中へと入って行く所だった。


 その人は、苦虫を噛み潰した様な顔をして立ち上がり、ハンバーガーとポテトをゴミ箱に放り込んだ。


「食事を不味くしてゴメンね。もう行くよ」


 そう言って、飲み物を啜りながら行ってしまった。


「ミミズなんかいたか」


 森崎君が、首を捻りながら呟いた。

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