-36- 「逆鬼ごっこ」

 ぽい捨て山には、いつも同じ場所に男の子が居る。


 その子は、粗末な着物を着ていて、ずっと胡座をかいて座っている。


 初めて会った時の事だった。


「こっちへ来るな。俺が見えるなら、近付かない方が良い」


 挨拶しながら近寄ろうとした矢先、出鼻を挫かれた。


「俺に触ると、お前が鬼になるぞ。俺は、逆鬼ごっこの鬼だから」


 逆鬼ごっこ、初めて聞く名前だった。


「逆鬼ごっこは、鬼に触ると鬼になる。鬼になると、普通の奴には見えなくなって、いつまでもその場から動けないんだ」


 着物を着たその子は、随分と昔の時代の子どもに見えるけれど、一体どれ程の間、ここに縛られているんだろうか。


 そして、誰かに鬼を交代して欲しいと、思わないのだろうか。


 近寄るなと言われなければ、僕は不用意に近付いて、触ったかもしれないのに。


「俺は、好きで鬼になったんだよ。だから、誰かに交代してもらわなくて、構わないんだ」


 そう言って、その子は寂しげに笑った。


「俺の前の鬼は、弟でな。弟は、更にその前の鬼に、騙されて触ってしまったんだ。鬼になった途端、皆弟の事が見えなくなったけど、俺だけは弟の姿が見えたんだ。だから、触った。親父もお袋も、俺より弟の方が可愛いらしかったから」


 何とも悲しい話だった。


「俺が交代してやると、弟は泣いて喜んで帰って行った。けれど、それから、弟も、親父も、お袋も、一度として俺に会いに来てくれないよ。だったら、俺は鬼のままで構わない。だから、お前も、さっさと帰れ」


 そこまで語り、その子は、それきり黙ってしまった。


 僕は、かける言葉が見付からず、黙ってその場を後にした。

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