-34- 「一人鬼」

 ある日、日直の仕事で視聴覚室にある資料を取りに行った。


 部屋の鍵を開けようとしたら、いつのまにかひそひそが僕の肩に乗っかっていて、


「中に怖いのが居るよ。一人で入ると怖いよ」


 と、耳元で囁いた。


 一人で中に入るとまずいらしい。


 中に入れず扉の前で困っていると、教頭先生が通りかかった。


 言い付けられた資料がどれか分からないと言って、教頭先生に一緒に入ってもらう様にお願いし、鍵を回して入口のドアを開けた。


 すると、扉の直ぐ向こうに、何かが居た。


 がりがりに痩せた、異様に背の高い、顔色の悪いおじさんが立っていた。


 教頭先生は無反応で、どうやら見えていない様だ。


「ひ、一人、じゃない。残念、無念」


 何やら、ぶつぶつと呟いている。


「ああ、あった。水鏡君、この本がその資料だよ」


 教頭先生は、僕が探していた資料を手に取り、渡してくれた。


 僕は礼を言って教頭先生と別れ、部屋を出て表から鍵をかけた。


 扉の向こうで、相変わらず何かぶつぶつ言ってるのが聞こえるけれど、無視して視聴覚室を後にした。


 もし一人で部屋に入っていたら、一体どうなっていたんだろう。

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