-32- 「本について」

「ねえ、真実君。本屋さんって、墓地みたいだと思わない」


 文庫堂でセーラー服のお姉さんと会った帰り道、お姉さんが突然そんな事を言い出した。


「えっと。どういう事ですか」


 正直、意味不明だった。


「書物は、先人の遺産よ。売り出される書物の作者は、殆どがまだ存命だけど、作者が亡くなっても、書物は残るじゃない」


 お姉さんはそこで一旦言葉を切ったので、そうですね、と僕は頷いた。


「書物は、作者の頭の中にある知識、考え、想像の産物よ。と言う事は、それは既に亡くなった、あるいはこれから亡くなる先人が持つ情報、思想、妄想が詰まった脳味噌みたいな物だわ」


 言ってる事は分からないでも無いけど、表現が一々グロい。


「なら、沢山の書物が並ぶ書店や図書館は、先人の脳味噌が並ぶ墓場みたいな物よ。一個人の本棚だって、その人が数多の書籍から恣意的に選んで、読了した上で保管すると決めた本の集合体だもの。書架自体が持ち主の脳味噌みたいな物だわ。真実君、そう思わない」


 お姉さんが、期待に満ちた目を向けて来る。


「えーっと、言われてみれば確かに」


「やっぱり。真実君なら、分かってくれると思ったわ」


 僕が頷くと、お姉さんは満足そうだった。


 ホラーが好きが高じると、皆こんな風になるんだろうか。

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