-3- 「美人画」
一角堂に寄ると、新しい商品が入っていた。
着物を来た女の人の絵で、微かに変な気配を感じる。
値札には「美人画 捌萬圓也」と書いてある。
八万円が、絵の値段として高いのか、安いのかは分からない。
「おや、水鏡の坊ちゃん、いらっしゃい。その絵、気になりますか?」
一角堂のお兄さんが、カウンターの奥から顔を出した。
僕は頷き、ちょっとだけ嫌な感じがします、と答えた。
「そんな大した物じゃございやせんよ。その絵は、美人画としては大した作品ではないものの、所謂魔性の絵でございます。男を魅きつける魔力を持っていますが、かと言って、人の人生を狂わせる程強くもなく」
お兄さんは、煙管の煙をふうっと吐いた。
「精々が、ちょっと高めに値段設定しても、すぐに買い手が付く程の、ささやかな力しかありゃしません」
そして、僕を見てニヤリと笑った。
「この絵を見て不快に感じるなら、それは坊ちゃんが、まだお子様、という事ではないかと」
その言葉に、僕は少し腹が立った。
次に店に寄った時には、その絵は無くなっていた。
「あの絵なら、ついさっき売れましたよ。八万円で良いと言ったのに、財布ごと二十万円以上置いて行った奇特なお方が居ましてね。あの絵で人生狂わせそうな御仁だったので、免許証を返しに行くついでに、アフターケアに行こうと思っておりやす」
お兄さんは、とても面倒臭そうに言った。
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