第2話 オリエンテーション

その日の六限目は、体育館で新入生を対象としたクラブ活動に関するオリエンテーションが行なわれていた。


二、三年生は五限で放課となっている。


このオリエンテーション終了後から各クラブ・同好会の新入部員の勧誘が解禁となるのだ。


これは、クラブ・同好会の数がやたら多く、すべてのクラブ紹介を限られた時間で行なうことができない射和高校ならではの取り組みだった。

 

新入生たちには各クラブ・同好会の活動内容・活動拠点・活動日などが簡単に説明されている冊子が各自一部ずつ配布され、それを参考に今日の放課後からクラブ見学と仮入部を始めることになる。

 

見学・仮入部期間はおよそ一ヶ月。


この間は数の制限なく幾つでも掛け持つことができる。


だが、五月半ばの正式入部締切日までには、体育系なら一つ、文化系なら二つまで、両方なら体育系一つと文化系一つまで正式入部するクラブ・同好会を絞り込まなければならない。もちろん、見学・仮入部期間内でも入りたいクラブが決まっているなら正式入部は出来る。特に体育系でレギュラーを目指すなら早めに正式入部した方が有利な場合が多い。

 

そのような内容のことを演壇から生徒会長である葵が説明し、新入生たちは真剣な表情で話に耳を傾けていた。


新入生たちにはあえて説明はされなかったが、正式入部締切日の後で前期予算編成委員会が招集され、各クラブの新入部員獲得数と昨年度の活動実績に応じて今年度前期の予算と、同好会からクラブへの格上げおよびクラブから同好会への格下げが決定される。

 

それゆえ、新入部員の獲得は、とりわけ格上げ格下げのボーダーライン境界線上にいるクラブ・同好会にとっては最大の関心事の一つであり、今日の放課後から解禁となる勧誘期間は、文化祭・体育祭に並ぶ三大イベントとして数えられるお祭り騒ぎになる。


ちなみにこの期間は、正式な名称は無かったがいつしか勧誘祭カーニバルと称されるようになった。



「……説明は以上です。皆さんの目で実際に見て、よく考えて入部するクラブ・同好会を決定してください。決めるのは他の人ではなく自分です。……もし、強制的に入部させようとの圧力がかかった場合は遠慮なく生徒会に報告してください。それは明らかな規則違反ですので、生徒会執行部が行動を起こします。新入生の皆さんが自分に合ったクラブ活動を選んで充実したアフタースクールライフを満喫できるよう私たち生徒会は陰ながら応援しています」

 

この言葉で演説を締めくくった葵は、壁の時計を見、頃合いを見計らって凛然と言い放った。


「では、ここに勧誘祭カーニバルの開催を宣言します!」

 

新入生たちから一斉にわあっと歓声が上がり、時同じくして放課のチャイムが鳴り始める。


体育館の扉という扉が一斉に開け放たれ、優先勧誘権を持つクラブのパフォーマーたちが次々に中に飛び込んできて、派手なパフォーマンスを披露しながら手製の勧誘チラシを配り始める。


これは昨年度の活動実績上位10位にランクインしたクラブにのみ許される特権の一つだった。


吹奏楽部の少数バンドによる即興演奏、バスケ部レギュラーの連続ダンクシュート、野球部バッテリーによる硬球お手玉、料理部の試食会、同人部のコスプレショーエトセトラetc……。

 

そんな活動実績上位クラブ9組・・のパフォーマンスに喝采を送る新入生もいれば、冊子を手に早速お目当てのクラブ見学に向かう新入生もいる。


射和高校はクラブ活動目的で入学する生徒も多いので、入部するクラブをすでに心に決めている新入生も少なくない。

 


体育館から一歩外に踏み出せば、外には各クラブ・同好会の出店テントが立ち並び、チラシを持った案内役の部員たちが客引きやキャッチセールスのごとく新入生たちに群がっていく。

 

射和高校の敷地は道路を挟んで北と南に分かれており、北側に校舎が四棟並び、南側に体育館、武道館、クラブハウス、グラウンドがある。


体育系はすべてクラブハウスに部室を持っているが、文化系は一部の例外を除き概ね校舎内に活動拠点を持っているため、体育館を出た新入生たちのうち体育系志望はクラブハウスやグラウンドの方へ、文化系志望者は道路を渡って校舎の方へそれぞれ流れのように向かい始めた。

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