第22話 律華とのやり取り
『ねえ、めっちゃ暇〜』
『お兄さんお仕事中?』
律華から二通のメールが届いたのは昼の時間帯。
そして、
『返信遅れてごめんね。こっちは今仕事が終わったところ』
修斗が返信をしたのは仕事が終わった21時30分。自宅に帰るために車に乗り込んだ時である。
『お! やっと返事きた。怖いこというんだけどずっと待ってた』
『返信してすぐに既読がついたからそうだと思ったよ』
連絡先を交換し、毎日やり取りをしている二人。
焼肉を食べにいって以降、律華とは顔を合わせていないが、メールを続けていることでさらに距離が縮まっていた。
『もう暇でしょうがなくってさ。今日は一人で散歩してたくらいだよ』
『あはは。それはそれで楽しかったんじゃない? なにか面白いこととかなかったの?』
『近づいてきてくれた野良猫触ろうとしたけど、逃げられたからさ。人懐っこいって思ったのに裏切られた気分だったよ』
「ふっ」
逃げられた瞬間、不満気に顔を膨らませる律華を想像し、車の中で吹き出してしまう修斗である。
『お兄さんは今どこいるの? まだシャルティエさん?』
『シャルティエを出てこれから車で帰るところだよ。そんなわけで運転をするからメールを一旦切りたいところなんだけど、大丈夫?』
『あ、それなら電話で話したりできない? スピーカーなら運転しながらでも大丈夫だしさ』
『なんか構ってオーラが出てるような気がするんだけど気のせい?』
『気のせいじゃないね。それにちょっとアピールさせてもらうんだけど、帰宅するまでの間、モデルと電話できるんだよ? 役得じゃん?』
その文字に続き、ハートのスタンプを三連続で送ってくる律華。
『絶対に電話してやる』との意志が伝わってくる。
『そんなわけで電話しよ?』
『わ、わかったよ。じゃあとりあえず電話させてもらうね』
『うんうん! 待ってました』
その返信を見てスピーカーにして電話をかける修斗である。
「もしもし」
『もしし〜。お仕事お疲れ様』
「お疲れ様。律華さんは今日仕事なかったの?」
揚々とした声を聞きながら、エンジンをかけて車を発進させる修斗は少しニヤけていた。
『相変わらずだな』と。
『今日なにもなかったから暇だったんだし。私の元気があり余ってるの電話越しでもわかるでしょ?』
「まあね。動画とか見て時間を潰すのもいいんじゃない?」
『さっきまで配信見てたんだけど、それも終わっちゃってさ』
「配信?」
『ん、Vチューバーの配信。推しの』
「へえー。律華さんはそっちの動画も見てるんだ?」
初耳の情報だった。運転に集中しながら疑問を投げる。
『ゲームは好きな方だしね、私。あ、推しと言っても女の子のVチューバーだから嫉妬しないでよ?』
「しないって……」
律華と対面してこの話題を振られていれば……ニヤニヤしながらからかわれていたことだろう。
『お兄さんはV関係見てないの? ぶっちゃけ見てるイメージは湧いてないけど』
「見るとしたら映画かな。一日ごとに少しずつ見ていくみたいな」
『うわ、めっちゃ大人ぶって』
「大人ぶるもなにも大人だって」
なんて当たり前の返事をしつつ、修斗は少し話を戻した。
「でもVチューバーさんは拝見しようかなって思ってたよ」
『そうなの!? 実は気になってた感じ?』
「気になってないわけじゃないんだけど、会話の引き出しを多くするために……かな。お客さんからその話題を振っていただけることがあるんだけど、見てない分ついていけなくってね」
『お兄さんキャバ嬢みたいなことしようとしてるじゃん』
「あ、あはは。やっぱり楽しい時間を過ごしてほしいし、自分だって楽しく過ごしたいから」
『ふーん。その気持ちはわかったから人気だけは取りすぎないようにね。私が予約する時に空きがなかったら困るし』
「これからたくさんの指名をいただける予定なので、早めの予約をお願いします」
『ぷっ、調子に乗っちゃって』
ベッドに寝転がりながら冗談を軽くいなす律華は、ニヤニヤとした微笑みを作っていた。
「そう言えば律華さんの推しのVチューバーって……?」
『
「あっ、その名前……今日来店されたお客さんから今日聞いたかも」
『本当っ!? さすがチャンネル登録者数100万人超えてるだけあるねー! とりあえずお兄さんも一回見てみてよ』
「わかった」
律華が推している人はどんな人なのか、興味が湧いている今。
今が運転中でなければすぐにでも調べている修斗だ。
『ちゃんと見てよー? 嘘ついてないか感想聞いちゃうからね』
「はいはい」
そして、当たり前に返事をした矢先……彼女らしさ全開に突拍子もないことを言われてしまうのだ。
『じゃあお兄さんが休みの日にでも会おっか』
「ん? どう言うこと?」
『直接会いながら話そうってこと。ついでにちょっとデートってことで』
「休みの日はゆっくり休みたいなあ……?」
『あれ、電波悪いかも』
「休みの日はゆっくりさせてほしいなあ、と」
『あれ? トンネル入っちゃった?』
「……もしもーし」
『なに?』
ここでチラッとスマホに目を向ける修斗。
その液晶には電波は良好。トンネルに入っているわけでもない。そして、普通に聞こええているように返事がくる。
——断られそうな時にだけ聞こえていないフリをしている。それがわかった瞬間である。
「こっちのスケジュール送っておくよ」
「にひ、ありがと。カフェとかゆっくりできる場所いこね」
「どうも」
大事なところでは気を遣ってくれる律華には叶わない修斗は約束を交わす。
乃々花との飲み会も少しずつ近づいていた。
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