第23話 夜更し
真夜中……俺はベットに寝転がりながらぼーっとしていた。
頭の上にある時計を見るともうすでに2時になっていたけど、何故か寝れる予感がまったくしない。
メリーはふよふよと浮きながらどこかへ行ってしまったし、この時間にゲームをしたいという気にもなれないから、こうやって何も考えずにただ天井一点を見つめることしかない。
今日の学校は1日中寝ることにしておくか。
俺はどうせモブ陰キャだし、先生に気づかれることもないし……。
「はあ……」
俺は大きな溜め息をついた。
暇すぎてつまらない。
――――散歩してみようか。
夜中に外に出てみるのも新鮮で案外良いかもしれないし。
それに今日は一日中親がいないから家のセキュリティーだけ気をつければ大丈夫だ。
俺は外用の服装に着替え、部屋を出た。
家の中は当然暗い。
スマホでライトを照らしながら、階段で踏み外さないように慎重に降りていく。
(夜中の家の中はこんな感じなんだな……)
いつも見ている風景なのに、何故か違うように見える。
空が明るいか暗いかだけでも、雰囲気は全然違うように見えるんだな……。
不思議だ……。
そんなことを思いながら俺は玄関へ向かった。
ドアノブに手をかけただけで、何故こんなにワクワクするんだろう?
多分、親から禁止されていることをこっそりとやってしまった時のあの感覚とほぼ同じだ。
何故かはわからないけど、やっちゃいけないことをやるのってすごくワクワクする経験、みんなは一度でもあるよな?
「――――」
ガチャッ……
ドアノブを押して、玄関のドアをゆっくりと開いた。
少しだけ開いた隙間から、街灯から照らされている鈍い光が差す。
だが、家の中はライトをつけていないせいか俺にはその光が眩しく見えた。
「――――すげえ」
完全に扉を開けると、その後ろに見えたのは誰もいない、街灯が照らされただけの暗い道があるだけだった。
普段登校と下校、そして1人で買い物に行くことくらいでしか見たことがなかった俺にとって、異世界にでも飛ばされたような感覚に陥る。
(これが真夜中の街か……。案外楽しそうだな)
たまに漫画とかで真夜中に遊んだりするシーンがあって、そのキャラクターは楽しそうな顔をしていたけど、それは本当のことだったんだな。
この景色を見ただけで俺の心臓がうるさいくらいに鳴り響いているということは、相当ワクワクしているということだ
扉の鍵を閉めて鍵をポケットにしまうと、俺はスポットライトみたいに照らされている街灯の明かりの中まで歩く。
そして、照らされているところで、俺は街灯を見上げた。
俺の家の前を走る道路の街灯は今、電球からLEDに置き換えている最中だ。
だから十字路の交差点から向こう側は置き換わっているけど、俺の家の前にある通りだけ、まだ電球のままになっている。
(いつかこれもLEDに変わるのか。何だか寂しいよな……)
俺が幼稚園とか、小学生の頃は電球なんて当たり前の時代だった。
節電が重要になっている今、電球の半分以下の電力で済むLEDの需要が急激に高まっていることもあって、電球からこれに変わった店や街灯は多い。
今はこうやっていつものようにあるこの電球の街灯も、いつかは変わってしまう。
ほんの些細な変化だけど、それでもこれが日常だった俺からすれば、なんだか寂しい気持ちになる。
(そういえば……そこの家、今度工事入るって言ってたな)
俺は左にある廃墟に目を向けた。
今はこんなにボロボロのお化け屋敷みたいな家になってしまっているが、かつては老婦人が1人で住んでいた家だった。
いつも外で雑草取りしていたり、自家栽培で育てている野菜のお世話をしていたり……。
亡くなってしまったのは俺が小学校に入ったばかりだったから、顔はわかるけど名前は憶えていない。
いつも『斜め向かいのおばあさん』って呼んでたから。
幼い子どもだから名前より場所と見た目で判断して、そのまま名前で言うなんて当たり前。
『あら悠真くん、今日は休みなのかい? 今ちょうどイチゴ採れたから食べていきな?』
『あら悠真くん。今ちょうど大根採ろうとしたんだけど、おばあちゃん年寄りだから力なくて……。なになに、悠真くんもやってくれるのかい? じゃあ、おばあちゃんと一緒にやろうか!』
そんな言葉が頭によぎる。
本当に良くしてくれたと思う。
色んなことを教えてくれたし、美味しいものも食べさせてくれた。
おかげで俺は野菜系と、イチゴなどの地面から生えてくるタイプの果物なら育て方を知っている。
家庭菜園は好きな人じゃないとなかなか知識を身につけることは難しいと思うから、ゲームが得意ということに次いで自慢出来る。
しかし、そのおばあちゃんが亡くなってから約10年間放置されてきた家は崩れかかっていて、雑草だらけになってしまった。
昔の家なので、家の下部分は大きくて二階は小さい箱が乗ったような造りになっていて、家の敷地の境界にブロック塀が囲んでいるというまさに昭和時代の家だ。
「この家も見れなくなってしまうのか……。寂しいな……」
近所の人からの話では、来月から業者が入り取り壊しが始まるらしい。
知らぬ間にどんどん見慣れた風景が変わっていく……。
時代のサイクルは凄まじいものだと、斜め向かいのおばあさんが住んでいたこの家を見て改めてそう思った。
「――――とりあえずこっちの方歩いてみよう」
俺は気ままに右方向へと歩いた。
こんなに暗いから変なやつがいたらどうしようと思ってはいたけど、こんな時間に外で歩いている俺も変なやつだからそんな考えをするのはやめておいた。
でも通り魔がいたらどうしよう……とは考えてはいたけど。
残念ながら俺の住む街にはボウリング場のような豪華な娯楽施設はない。
そして、歩いていけるような距離ではない。
あるとしたらちょっと大きめの公園しかない。
「久しぶりに公園行くか」
公園なんていつぶりだろうか。
俺は学校にはちゃんと行って家ではずっと引き籠もっているから、公園で遊んだのは小学校低学年くらいを最後に記憶が止まっている。
昔は咲とかと一緒に公園で遊んでいたけど、病気になってずっとベット生活をしているうちに、俺は自然とインドア派になっていった。
一旦慣れてしまうと、なかなか直せない。
(確かここを曲がって……あ、あったあった)
歩き始めて4本目の十字路を左に曲がり、1本目の十字路の隣に見えてきたのは3本しかない街灯に照らされている公園だ。
懐かしい……。
「あれ? なんか遊具変わってね?」
知らない間に、設置されていた遊具が変わっていた。
昔はジャングルジムとか、手で押してぐるぐる回す球体の遊具とかあったんだけど……。
久しぶりに訪れると公園には滑り台と砂場、昔からあるブランコと雲梯、そして水飲み場とトイレしかなかった。
最近は安全問題でジャングルジムとかぐるぐる回す遊具は撤去されてきているみたいだし、ここもそうなったのかもな。
あと噴水もなくなっていることに気づいた。
昔はよく服をベチャベチャになりながら水遊びをしていた記憶がある。
夏なんかは涼しいもんだからみんなで入っていたっけな。
それで譲る譲らないで喧嘩になったりとかもあったなあ……。
(確かここら辺に噴水があったな。今はただの芝生になってるのか)
噴水も水の衛生問題でなくなっているらしい。
この公園も恐らくそれを配慮して撤去したのかもしれない。
最近の子どもたちは遊具の少ない公園に来てもちゃんと楽しんでいるのだろうか?
そんなことを思いながら、俺は真っ先にブランコに行って座った。
後ろに下がって足を地面から離すと、ブランコが前後に揺れ始めた。
この歳になっても、やっぱりブランコが一番楽しい。
理由はわからないけど、俺の中にある本能がそう感じさせる。
ブランコだけはなくなってほしくないな……。
これがなくなったら公園の意味なくね?って思う。
キーコキーコ……
ブランコから鳴るこの音は今も健在だった。
これこそブランコって感じだ。
キーコキーコ……
キーコキーコ……
「――――えっ?」
なんだかんだ楽しんでいると、突然俺の隣のブランコが揺れ始めた。
もちろん俺意外誰もいない。
「――――」
俺は一旦ブランコを揺らすのをやめた。
すると隣のブランコも揺れが止まる。
試しにブランコをまた揺らしてみると、隣のブランコもまた前後に揺れ始めた。
えっ……?
怖すぎて言葉が出ない……。
俺の背中から汗がに滲み始めた。
何か嫌な予感がすると思った俺は、ブランコを止めてゆっくりと立ち上がって、ゆっくりとその場を離れた。
『なんで遊んでくれないの?』
「――――っ!?」
突然脳内に流れ込んでくる声を聞いた瞬間にわかった。
その声の持ち主は幽霊であるということに。
声からして、どうやら幼い男の子みたいだ。
だが、メリーも幽霊ということもあって、前よりは恐怖感は少しだけ軽減されている。
「誰、だ……?」
俺は恐る恐るそう質問してみた。
すると俺が座っていたブランコの隣に、だんだんと姿が現れてくる。
そして完全に姿が露わになると、パーカーと七分のズボンを履いた小学生くらいの男の子がブランコに座っていた。
『へえ、姿も現していないのに、僕の声わかるということは相当霊感が強いんだね。僕の声に反応する人は君が初めてだよ』
その男の子の幽霊はブランコから降りた。
しかし、足はメリーと同じく透けて見えないため、もしかしたらずっと浮いている状態なのかもしれないけど……。
そんなことはどうでもいいとして、何だか最近のファッションをしていることに引っかかる。
メリーはちょっと一世代前の服装に対し、この男の子はどう見ても令和時代でも違和感がない服装だ。
「えっと……君は?」
『僕の名前? 僕の名前はまさとって言うんだ。聖なる人と書いて
「お、俺は東 悠真。よ、よろしく……」
『ゆうまくんって言うんだね。ちなみに漢字はどうやって書くの?』
「『あずま』は
『ふんふん……。なるほど、そうやって書くんだね。すごく覚えやすい名前だね』
俺の名前を聞いてとても楽しそうにしている聖人くん。
この感じからして小学生くらいだろうと感じた。
『そういえば、悠真くんは傍から見ても高校生だよね? こんな時間に公園に来て何しに来たの?』
小学生にしては随分察しが良すぎる。
本当に小学生、か?
でも、大人っぽい小学生もたまにいるからわからない。
「聖人くんの言う通り、俺は高校生で2年生だ。最近色んなことがありすぎて、いつもはちゃんと寝てるんだけど今日だけやけに眠れなかったんだ。だから散歩でもしようと思ったんだ。それで、久しぶりにここに来たんだ」
『えっ、高2? うそ……』
聖人くんはいきなり動揺し始めた。
手で口を抑えながら驚きに満ちたような顔をしている。
『うそ……。僕と同い年なの……?』
「――――は? え? お、同い年?」
『うん……。16歳か17歳どっち?』
「16歳だけど……」
『実は僕も……16歳なんだよね』
「えええええええええええ!!!!!!??????」
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