第19話 咲の誘惑

「や、やめてくれ咲。これ以上は……」


「遠慮しなくても良いのよ? 悠真だって男の子なんだからこういうの一度はしてみたいって思ったことあるでしょ?」


「た、確かにあるっちゃあるけど……もうちょっと将来的に考えてだな……」


「将来的に? もうわたしたちは高校生だよ? ここまでいっても何も言われない年だよ?」


「お、俺たちはまだ学生なんだぞ! バレたら何言われるか……」


「バレたって何も言われないし、経験してる人なんて山ほどいるからね? だ・か・ら……これが普通」


 ダメだ、反論しても全部返ってくる。

俺の逃げ場が完全になくなってしまった。

 それに咲がずっと俺の耳元で囁いてくるから、だんだんと俺の頭の中がおかしくなってきてる。

何も考えられない……。

咲の背景がピンク色に見える。


「悠真……わたしと一緒に大人になってみない?」


「――――はあ?」


「悠真とは今以上の関係になりたいし、もう我慢出来ないの。はあ……ふふっ……悠真のせいで濡れてきちゃったじゃない……」


「な、何が?」


「もう、悠真って何にも知識ないの? 女の子のあそこが、今わたしすごい溢れてきちゃって垂れてきちゃってるのよ?」


「は!?」


「疑うなら触ってみる?」


 咲は俺の腕を掴むと、スカートの中へと俺の腕を入れた。

すると俺の指先からベトっと粘っこい感触が伝わる。


「――――!? お、おい。こんなことしちゃダメだろ……」


「いまさら何言ってるの。そんなこと思っているのなら普通ならもっと嫌がるはずじゃん?」


 咲の言う通りだった。

普通に嫌なら意地でも手を振りほどくはずだ。

だけど、俺にはそんな選択肢は頭にはない。

ただ欲望に負け、咲の言いなりになってしまっているしかなかった。

 咲は俺の腕から手を離した。

俺はスカートの中から手を出すと、透明でドロっとしたものが手に張り付いていた。


「ふふっ……。もしかして悠真は初めて目の前で見たかな? よくビデオとかで見られるやつ、それがまさに――――ってやつだよ?」


 咲は頬をほんのり赤くして俺の眼の前で見てくる。

そして俺の体に腕を回して密着してくるせいで、咲の色んな柔らかいところが当たっている。


「ねえ悠真……。わたしもう我慢できないの。わたしが悠真を奪ってあげる」


「咲……」


 完全に雰囲気に飲まれてしまった。

顔が熱くなって咲を眼の前で見つめて、腕が勝手に動いて咲を抱きしめていた。

もうどうにでもなってしまえ……。


『えっと何してるんですかね2人とも?』


「「――――!?」」


 そんな時女神が現れた。

俺ははっと我に帰り右を見ると、部屋の入口には仁王立ちになって腕を組んでいるメリーがいた。

頬をピクリと痙攣させながら怖い顔をしている。


「メリー! まじで助かった! 恩につきますううう!」


 俺はベットからずり落ちながらメリーに深々と土下座した。

咲はちぇっと不満げな顔をしていた。


『ゆーまくん、あとでゆっくりと話を聞かせてくださいね……?』


 顔は笑っているけどめちゃくちゃ怒ってるみたいだな。

こういう状況でメリーが笑っているのはかなり怖いことはわかっている。

あとで俺は地獄を見ること間違いなしだ。

メリーよ、どうかお手柔らかにお願いします……。


「じゃあわたしはお風呂入ってくるわね」


 咲は服装を整えると、バックからタオルとシャンプーが入っているらしき容器を取り出すと、そのまま風呂へ向かっていった。

まさかあいつ、今日も俺の家で泊まる気じゃないだろうな?

両親は咲のこと心配してないのだろうか。


「はあ……」


 とりあえず、ピンチからはメリーのおかげで逃れることができた。

俺は大きなため息をつきながら、体を脱力させた。

近くにあるティッシュボックスからティッシュを2、3枚取り出すと、手についた液体を拭き取る。


『ゆーまくん……それなんです、か……?』


「えっ? えっと……」


 メリーはティッシュで拭き取っている俺の手を指しながらわなわなと震わせた。

そんなこと言われたって俺はどう答えたら良いかわからんぞ!

どストレートに言ったらあまりにもセンシティブすぎて恥ずかしいし、だからといってそれを連想させるような遠回しな表現が見つからない。


『――――洗いざらい話してくれないと……』


「分かった言うから! でもその代わり超ドストレートに言うから覚悟しとけよ! 俺の手についてたものはまさに咲の――――だよ!」


『は? えっ?』


「もう一回言うぞ……。咲の――――だ!」


 もうこれ以上は聞き返されても答えない。

あまりにも恥ずかしすぎて顔が一気に熱くなっているからだ。

メリーは最初よく聞き取れなかったのか頭の上にマークがついていたが、再度聞いた途端、眼を回しながら混乱し始めた。


『そ、それ本当のこと言っているんですか……?』


「ああ、本当のことだ。咲が俺の手を掴んで無理やり、な」


『――――先には踏み込んでないんですよね?』


「勿論だ! 俺は何も手を出してないぞ!」


 危うく咲を抱きしめてそのまま押し倒しちゃいそうになったけど……。

するとメリーは俯いたまま俺の目の前まで歩み寄った。


『――――なら良いです』


「えっ?」


 メリーはぼそっとそう言うと、上目遣いで俺を見上げた。

俺は一瞬ドキッとしてしまった。

何だろう……やっぱさっきの咲の件で頭おかしくなってるのか?


『咲さんと変なこと自らしたと言うならどうなるかわからなかったですが、ゆーまくんが何も手を出していないなら、メリーは怒りませんよ』


「そ、そうか……」


 メリーは俺を抱きしめてそう言った。

良かった……。

地獄を見ないで、安心して夜を過ごせそうだよ……。

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