劣等能力者は2人で最強
創紀
第1話 バラ園の姫
「お前は勘当だ。もうこの家の敷居をまたぐな。」
父から無機質な声で告げられる。そこには家族の情といったものは一切存在していないようだった。
突然のことに脳の処理が追い付かない。助けを求めるように兄を見る。しかし冷たい目で見返されるだけだった。
「待ってください、これからは今まで以上に頑張ります、だから……」
縋るように父に近づこうとする。これはなにかの悪い夢だ。そう思うしかなかった。しかし言い終わる前に体が見えない力で押さえつけられる。
「地方の中学の入学手続きを済ませてある。皇家とは関係を持たずに残りの人生を生きてくれ。」
父の言葉が終わると同時に屋敷の外に投げ出される。
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「またこの夢か。」
頭に鈍い痛みが残る。あれからもう3年もたっているのに。まだ引きずってるなんて、我ながら情けない。
「おいおい、入学式初日から教室で居眠りとは、器の違いを見せつけられたねぇ。」
隣の席から声がする。天王寺樹。中学3年間も同じEクラスで過ごした友人だ。当然のように高校でもEクラスに振り分けられた。
「うるさいな、中学と同じメンツだし入学もクソもないだろ。」
「それもそうか。それよりそろそろ講堂に行かないと入学式に間に合わないぞ。」
「わかったよ。今行く。」
超能力者育成学校、2050年頃から突然現れた、科学では説明できない『異能』を持ち合わせた子供を教育するための施設。ここはその札幌分校だ。
基本的に能力は遺伝であり、親が能力者であればその子供も早い段階から能力に目覚める。そのため中高一貫教育を掲げている。しかし稀に親が非能力者でも子供が能力に覚醒することがある。その場合を考慮して高校からの入学も募集している。今日はその高校の入学式だ。
「遅いわよ、あなた達。遅刻ギリギリ、というか遅刻ね。」
司たちは講堂の入口で忍び込もうとしたのを咎められる。
「別にいいだろ、少しくらい。」
「ダメよ。少しのゆるみが大きな問題を引き起こすのよ。規律は守らないと。」
チェックシートを片手に仁王立ちしている。神楽澪。東北から北海道を地盤とする神楽家の一人娘。名家出身なだけあって幼いころから付き合いがある。俺はもう名家から追い出されたが。
高校入学から生徒会に入ることが決まっているとは聞いていたが、入学式初日から活動しているのか。
「そんなだらしない生活してるからいつまでたっても能力が伸びないんじゃないの?もっとちゃんとしなよ。」
ただ無神経なだけの悪意の全くない、しかし刺さる言葉を投げつけられる。俺は効いてない、効いてない、効いてない、効いてない……
「ちょっと気分悪くなってきたから、そこらへん散歩してくるわ。」
そう言い残してその場を去る。この気持ちでキラキラした入学式なんかにいけねえよ。
「ちょっと、待ちなよ。」
澪から呼び止められるが無視してその場を離れた。
「……やっちゃったね。」
その場を去る司の後ろ姿を目で追いながら、樹が気楽な口調でおろおろした様子の澪に言う。
「私、怒らせるつもりはなかったんだけど。」
「まぁしばらくしたら司も落ち着くだろうし、そのときに軽く謝っておきなよ。」
「おい、もう式が始まるから全員中に入れ。」
生徒会長が見回りに来る。考え混むような顔を澪は崩さない。
「私、やっぱり『今』司に謝ってくる。」
周りの返答を待たずに澪は司を探しに行った。
時間ちょうどに入学式が始まる。とはいえ高校から入学する数は少なく、大勢の内部進学組にとってはただの義務行事と化している。校長、学園長からの祝辞と流れるように進んでいく。しかし新入生宣誓を行うはずの澪が居らず、そこで少しの間中断され、しばらくしてから生徒会長からの挨拶に移った。
「やってどうにかなるならどうにかしてるよ……」
思わず本音をこぼしながら学園内を歩く。目的地はバラ園だ。別に花が好きというわけではないが、見ていると落ち着く気がするので気分が荒れた時にはいくようにしていた。
Eクラス、一部からは『ErrorのE』そう呼ばれている。能力者の能力はその有用性を基準に1から5まででランク付けされる。ランク1の劣等生が集められるのがEクラス。能力者からは侮蔑の対象となり、人口の大多数を占める非能力者からは異質なものとして忌避される。ランク1と診断された人は能力者であることを隠して生きる選択をする場合が多い。
「こんなことならいっそ非能力者として生まれたかったよな。」
幼いころから名家、皇家で教育されたこともあり、当然自分もランク4程度の能力者にはなれると思っていた。だからこそそうでない現実に対する落胆は大きい。
「なんかのバグで突然ランクが上がったりしないかなぁ。」
当然勘当されてから、いや、勘当される前から人一倍熱心に訓練をしていた。周りガス据えるように精神統一の訓練をしたり、ランク5の炎使いに話を聞きに行ったり、できることはすべてやった。だが依然としてマッチ程度の火を起こせるだけだった。
そうこうしている内にバラ園についた。一面が真っ赤に染まっている景色は見ていて美しさを感じる。しかし今日は真っ赤なバラの中に1点だけ不純物が混ざっている。
「さすがに花壇に上がるのはやめた方がいいんじゃないですか。」
声をかけると驚いたようにこちらを振り向く。真っ白な髪に青色の目。明らかに日本人ではなさそうだ。制服を着ているのでこの学校の生徒であることは間違いない。何輪かの茎からおられたバラを手に持っているのが目に入る。
「ちょっ!!ダメじゃないですか!!そんなことしたら!!」
思わず語気が荒くなる。
「あなたその口の利き方、誰に向かって話しているのかわかってるのかしら?」
流暢な日本語に少し戸惑う。
「私はソヴィエト連邦の第二皇女、アナスタシア・イワーノブナ・パブロワよ。口の利き方には気を付けたほうがいいんじゃないかしら?」
「知らないですって。一旦花壇から降りましょう。」
その返答にあからさまに相手の顔色が険しくなる。
「司〜 やっぱりここにいたか。もう式始まって…… ってアナスタシア様がどうしてこんなところに?」
「あなた、昨日の案内人ね。ちょうど良かった。」
こちらをギロリと睨みつける。
「この不敬な輩に決闘を申し込むわ。血筋が何にも勝ることを示してあげる。」
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