030 語り手考察
「ったく、なんで現実でも女の子の姿になるんだよ……」
『そりゃ身バレ対策よ。本当は常にこの格好で居てもらいたいぐらいよ。顔バレ住所バレして寝込みを襲われたら簡単に脱落しちゃうし』
「そこまでする人なんているのか……?」
『そりゃ願いがなんでも叶うのよ? なんだってするでしょうよ。それと、現実でも戦うことを想定している……って感じかな。異世界が基本フィールドだけど、この世界で戦うことも十分ありえる』
「どうかそんなことがないことを祈るしかないな……っ、と」
本棚の本を一冊背伸びして取りながら少女と他愛のない話――結構心配な内容だったが――を繰り広げる。
場所は河川敷近くの市立図書館。ここなら物語なんて山ほどあるし、探し物にはうってつけだ。
――ざわ……ざわ……
「……ううっ」
……周りの視線さえなければ、だが。
やはりというか案の定というか、この世間から浮いた格好――まるでコスプレみたいな服装は、嫌でも人の視線を集めてしまう。
「……なんだろう、あの子。コスプレかな」
「かわいいけど、なんでこんなところに?」
「今日何かのイベントだっけ?」
「かわいい~! 妖精さんみたい! 写真撮ってもいいのかな?」
耳をすませば聞こえてくる、男や女の興味津々な声の数々。
「はぁ……」
そのせいで俺はすっかりため息製造機に成り下がってしまった。
手にした本を戻してから周りの視線を本棚で切るように移動しつつ、俺はさっさと相手の原典となる本探しを始めることにした。
「……早く検索するぞ。手伝ってくれ」
『私パス。頭使うの苦手だし』
「んな――少しぐらい協力しろよ! 君が欲しがっている情報だろうに!」
『ああもう、苦手なものは苦手なのよ! わかった、手伝う程度ならやる。でも調べるのはアンタよ。実際私はアンタ以外の物体に干渉できないし』
「仕方ないな……まあ、キーワードとか分かったを教えてくれるだけで良い。さっさとやるぞ」
資料関係の本棚を通り過ぎて、物語に関する本棚コーナーに到着する。
「まずは何の本か。小説? 童話?」
『異世界争奪戦に参加できるのは力を持った作品――知名度があって、歴史のある話……つまるところ、童話ね。世界童話が一番ありえるかな』
「童話のコーナーは……あった、この辺か」
童話コーナーの前で仁王立ちする。
このコーナーだけでも結構な量の本が収められている。それもそうか、日本の童話だけじゃなくて世界の童話となれば数は跳ね上がるものか。
「……おねーちゃん、何してるの?」
あと、娯楽として童話を求めに来た小さな子供に声をかけられたりするのだった。この服装のせいで子供からも悪目立ちしている。
「なんでもないよ……ほら、あっち行きなさい」
優しい口調で子供を退散させながら、もう一度考察を開始する。
調べるのに重要そうなキーワードは――
「まずどういうった話を調べるか。何か敵の情報と何か関連のありそうなキーワードはないか?」
『そうね……使用されていた技能のは“モンスターの使役”かしらね。多分、下級のモンスターを使役して意のままに操る能力よ』
「そうだな……いや、それも重要だが、肝心なのはもっと他にあると思う」
『肝心なもの?』
「ああ。意のままに操るなんて言っていたが、操る数があまりに多すぎる。だから“大量のモンスターを操る”――これがキーワードだと思う」
俺は昔、本の虫だった。そんなこともあって大まかなさわりに関してならほとんどの童話は把握している。
詳細な内容はもううろ覚えだが、キーワードをいくつか挙げればそれに近い作品を当てられると思う。
『モンスターを使役したことだけじゃなくて、肝心なのは一度に大量のモンスターを使役していることをね……なるほど』
「でも生き物を複数使役する作品は結構存在する……『ブレーメンの音楽隊』は、違うな、これじゃない」
キーワードを挙げながら本探しも並列で行う……が、思ったような成果は出ない。さらにキーワードを挙げて該当する作品を絞っていくしかないだろう。
「二つ目に気になったのが……“鳥のような鳴き声”、だな」
『? そんな声聞いたかしら? ってか鳥の鳴き声ぐらいどこでも聞くじゃない』
「大量のモンスターと戦う直前、不自然な鳴き声? みたいなのを聞いたんだ。でも普通の鳥じゃない。あの時の森は静寂に包まれていて生き物の気配がまるで無かったからな」
『そっか、確かにあの時はモンスターの気配しかしなかったわ……でも、モンスターを使役する鳥? そんなの居たかしら。説教の象徴の鳳凰とか? 過大解釈で説教――言いくるめて操る能力を持った鳥なんてありえるかも』
「それって物語か? 伝説の生き物って感じだけど」
『じゃあ、犬と雄鶏と狐なんてどうかしら。それも鳥が狐を誘導してるから、使役として解釈された可能性もある』
「うーん……推測を出ないな。とりあえず飛ばして次のキーワードを挙げよう」
わからない問題は一先ず飛ばすに限る。試験なんかでの基本だ。
俺は腕を組んで右手を顎に当てながら思考を張り巡らせる。俺は考える役割だ。なら、少女には単語を挙げてもらう役割にしよう。
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